レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 登録日時
- 2014/03/27 10:22
- 更新日時
- 2020/12/03 14:11
- 管理番号
- 愛知県図-03264
- 質問
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解決
愛知県には「圦」の付く地名が多いが、何か理由があるのか。
- 回答
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「圦」は、「杁」(農地にため池から水を流すための水門の取り入れ口)を表す字の木偏を土偏に改めたもの。江戸時代に尾張藩が行った水利事業において、「杁」の新設が積極的に行われた。それに伴い、水を引き「入れる」という意味で、「杁」という漢字が尾張地方でつくられ、使われるようになった。そこから派生してできた「圦」は、尾張藩ではなく、幕府が権力を握っていた三河地方で使われるようになった。そのため現在でも、愛知県の三河地方では「圦」が付く地名が多く存在している。
- 回答プロセス
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1.参考図書で調べる
参考図書の棚で地名に関する辞典を探す。
『現代日本地名よみかた大辞典 2』【資料1】では、「圦」ではじまる地名が15件掲載されており、すべて三河地方の地名である。
『現代日本地名よみかた大辞典 3』【資料2】では、読みが同じで部首が違う「杁」ではじまる地名が48件掲載されており、すべて尾張地方の地名である。
2.地名の由来が書かれた資料を探す
キーワード「地名 愛知」、「地名学」で蔵書検索をして、『地名学入門』【資料3】を見つける。
【資料3】には、「杁」について「樋の口、水門のイリを入の字で表わしたものである。同時に、木製の水門であることを木偏であらわしたものである。圦と書くものもある。これも国字である。この字は水門の土手を土偏で表わしたのであろう。」と書かれている。
3.国字に関する資料を調べる
【資料3】より、「圦」は国字であることがわかったので、キーワード「国字」、分類811,2(漢字)で蔵書検索をして、『国字の位相と展開』【資料4】を見つける。
【資料4】では、「杁」と「圦」の歴史・用法について書かれており、「杁」について、「この字は、水門(用水路の取り入れ口、樋の口)や分水の樋を意味する「いり」という語を表記する字として、近世以降、文献や文書等に現れる。これは、「圦」と書かれることもあり、来現や字義から互いに異字体と見なすこともできるが、「杁」とは使用地域を異にするほか、異なる派生や衝突を引き起こすものである(笹原宏之(2003))。」とある。
「杁」と「圦」のなりたちについては、「水を入れるために「いり」と呼ばれ、それを表記するために、「樋」に改造を加え、旁に「入」を用いたと考えられよう。それに対して、「圦」は「杁」を、「いせき」の歴史的表記「堰」から「土偏」に改めたものではなかろうか。(中略)また「いり」は「多くは木造」で、出水に破壊されないように、「ねば土(年度)で固める」(『国史大辞典』「いり」)ことや水門の土手(鏡味明克(1987))であること、「木で樋をつくる」ことや「土中に樋を通して水を流す」(丹羽基二(1986))ことから、「木偏」や「土偏」は用いられるのであろう」とある。
また、「尾張では、1608(慶長13)年、伊奈備前が木曽川から引水する丹羽郡の般若に設けたのが杁(圦)のはじまり」であり、「木偏の「杁」の方が、「圦」よりも先に生じた字であるようである。」とあり、「尾張(名古屋)藩では、水利事業は杁の新設による面が大き」かったため、近世より「杁」が尾張地方で使われるようになったことが書かれている。
4.インターネットで調べる
Googleで「圦 地名」で検索し、朝日新聞社の特集記事【資料5】を見つける。
「杁」が愛知県に多い理由について、「愛知県は丘陵地が多く、田畑に川の水を引くことが難しかった。このため、雨水を池にためて、必要に応じて農地に流すための水門が各地にあった。その取り入れ口を方言で「いり」「いる」といい、それに漢字が当てられた。木製なので、木偏に入と書いた。三河地方では土偏の「圦」を使った。 」と書かれている。また、杁の仕組みについて、図でわかりやすく解説されている。
- 事前調査事項
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「圦」を広辞苑で調べると「土手の下などに樋(ひ)を埋めて、水の出入りを調節するもの。水門」とされている。
- NDC
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- 地理.地誌.紀行 (290)
- 音声.音韻.文字 (811)
- 参考資料
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【資料1】日外アソシエーツ/編. 現代日本地名よみかた大辞典 2. 日外アソシエーツ, 1985.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I000614515-00 , ISBN 481690459X (p.3363) -
【資料2】日外アソシエーツ/編. 現代日本地名よみかた大辞典 3. 日外アソシエーツ, 1985.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I000614516-00 , ISBN 4816904603 (pp.4316-4318) -
【資料3】鏡味明克 著 , 鏡味, 明克, 1936-. 地名学入門. 大修館書店, 1984.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001764012-00 , ISBN 4469211184 (p.124) -
【資料4】笹原宏之 著 , 笹原, 宏之, 1965-. 国字の位相と展開. 三省堂, 2007.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008504549-00 , ISBN 9784385362632 (pp.419-427) - 【資料5】asahi.com/ニュース/特集/列島こんな話/記事「「杁」←この字読めたら愛知県民?でも意味は… http://www.asahi.com/special/080804/NGY201107040009.html [last access 2020/11/13]
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【資料1】日外アソシエーツ/編. 現代日本地名よみかた大辞典 2. 日外アソシエーツ, 1985.
- キーワード
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- 愛知県
- 地名
- 国字
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000151474