レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2010年08月11日
- 登録日時
- 2010/11/21 11:21
- 更新日時
- 2010/11/21 11:32
- 管理番号
- 9000006706
- 質問
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解決
宝暦年間の俳画集『海幸(うみのさち)』の「さより」の項に「ぶどう酢の曇にしまぬさより哉」という俳句があるが、江戸時代後期に「葡萄酢」は山梨県の特産品として流通していたのか。
- 回答
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江戸時代の甲斐国の特産品だったという資料は見あたらない。日本におけるぶどう酢(果実酢)の歴史は定かではなく、工場規模でつくられたのは昭和14年と言われている。また、江戸時代の料理本『江戸流行料理通大全』(文政5年~天保6)には膾掛酢、合わせ酢のひとつにぶどう酢があり、『料理調菜四季献立集』(天保7年)には、「ぶどう酢はぶどうを摺り其中へ酢を入レ漉して用ゆ」と作り方の記載がある。
- 回答プロセス
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1.郷土資料室での山梨県のぶどう関係の資料調査。
・『勝沼町誌』(勝沼町誌刊行委員会編 勝沼町 1962年)には、江戸時代のぶどうの加工品として「干ぶどう」「ぶどう漬」「ぶどう膏」「ぶどう醢(かい)」「月の雫」を紹介。
・『山梨のワイン発達史:勝沼ワインの100年の歩み』(上野晴朗著 勝沼町 1977年)p18-21に、「本朝職鑑」(1695)に江戸時代の葡萄酒の作り方の掲載があることが記されている。ぶどう汁を純粋に発酵させたものではなく、甲州種や山ぶどうを酒や焼酎に漬けて発酵させる。ぶどうを用いた特産品は『勝沼町誌』と同様のものが記載。
2.一般資料を調査。『酢の科学(シリーズ《食品の科学》)』(飴山実編 朝倉書店 1990年)には、「果実酢」のぶどう酢について「…わが国でのブドウ酢の歴史は定かではない。…略…日本でのブドウ栽培は、いまから770年前に甲府の雨宮勘解由が中国からもたらしたブドウの実生から生じたものを、さし木によって繁殖・栽培したものが最初といわれ、これが甲州種である。ブドウの栽培状況から考え、ブドウ酒と同様にブドウ酢も一部つくられたと考えられる。工場規模でつくられたのは昭和14年といわれている。」とある。『至宝の調味料』第2巻 酢(アスペクト編・発行 1999年)、『調味料・香辛料の事典』(福場博保編集 朝倉書店 1991年)には特に参考となる記述なし。
3.『海幸』について調べる。『国書総目録』第1巻(岩波書店 1989年)によれば、版本はあるが、活字翻刻はないようだ。ゆにかねっと(http://unicanet.ndl.go.jp/psrch/redirect.jsp?type=psrch ※2010.11.21確認)、NDL-OPAC(http://opac.ndl.go.jp/ ※2010.11.21確認)、NACSISweb-cat(http://webcat.nii.ac.jp/ ※2010.11.21確認)での検索結果も同様。
4.江戸時代の「ぶどう酢」について調べる。『日本国語大辞典』第11巻(小学館編集・発行 2001年)など辞典類には項目なし。『古事類苑』第39巻 飲食部(吉川弘文館 1971年)には「江戸流行料理大全」の膾掛酢のひとつに「ぶだう酢」がある。「江戸流行料理通大全」は『翻刻 江戸時代料理本集成』第10巻(吉井始子編 臨川書店 1981年)に「料理通」の書名で収載されており、同書p11,116,230に「ぶどう酢」の記述がある。また『翻刻 江戸時代料理本集成』の巻末の索引で「ぶどう酢」を引くと、第8巻「料理調菜 四季献立集」の「酢之部」に「ぶどう酢はぶどうを摺り其中へ酢を入レ漉して用ゆ」と合わせ酢のぶどう酢の作り方が記述。
- 事前調査事項
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『海幸』東北大学デジタルコレクション狩野文庫データベース(http://dbr.library.tohoku.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000002kano ※2010.11.21確認)
※早稲田大学図書館古典籍総合データベース(http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/ ※2010.11.21確認)でも閲覧可(資料名「うみのさち」)
- NDC
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- 食品工業 (588 9版)
- 参考資料
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- 『酢の科学(シリーズ《食品の科学》)』(飴山実編 朝倉書店 1990年) (p72)
- 『翻刻 江戸時代料理本集成』第10巻(吉井始子編 臨川書店 1981年) (p308)
- キーワード
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- 「海の幸」
- ぶどう酢
- ワインビネガー
- 葡萄
- 酢
- 照会先
- 寄与者
- 備考
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・日本におけるぶどう酒醸造は、明治3~4年頃、山梨県甲府における山田宥教の試醸が始まりだとされている。
・『海幸』(海の幸、絵本海之幸、うみのさち)は、石寿観秀国(せきじゅかん しゅうこく)編。勝間龍水(かつま りゅうすい)の写生画に、関連の発句を添えた俳画集。同様の趣向の『山の幸』もある。※参考「絵俳書 先駆けのグラフィズム」(「芸術新潮」2006年6月号 p96~101)
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 郷土(技術・工業)
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000073705