レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2024/01/23
- 登録日時
- 2024/02/02 00:30
- 更新日時
- 2024/03/21 13:34
- 管理番号
- 16658380
- 質問
-
未解決
弱火を「よわび」と呼んでいる初出が知りたい。
国立国会図書館所蔵の『よくわかる日本料理用語事典』(書誌ID0228760901)には、文火(とろび)と弱火(よわび)の項目があるようなのですが、内容を確認できていません。
- 回答
-
暮らしに結びついた語の初出を確定することは一般的に困難です。
ご指定の『よくわかる日本料理用語事典』(資料1)のほか、国立国会図書館で作成しているリサーチ・ナビの記事「日本語の初出・語源、ものごとの始まりを調べる」( https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/humanities/etymology-origin )で挙げている資料を中心に、料理用語の語源を調べられる資料2~5を確認しましたが、弱火を「よわび」と読む例の初出については記載がありませんでした。
また、弱火に「よわび」というフリガナがついている最も古い例(1886年4月)よりも前のものを探すために、Google books( https://books.google.co.jp/ )で「弱火」と入力し、期間を「~1886年」までとして検索をしましたが、「ヨワビ」とフリガナのあるものは見当たりませんでした。
【 】内は国立国会図書館請求記号です。
資料1:遠藤十士夫 監修『よくわかる日本料理用語事典』旭屋出版, 2018【E2-L252】
「よわび」「とろび」いずれも以下のとおり立項されています。
p.222「とろび[文火]) ごく弱い火のこと。」
p.324「よわび[弱火]) 蓋をしないで、鍋の中の液体が煮立たない加減で沸いている状態のこと。」
資料2:『新・食品事典. 13 (料理用語)』真珠書院, 1994【PC2-E9】
p.219に「とろ火」の項目があります。以下の説明が付けられています。「弱火のこと。調理では火力の調節が大切な要素の一つである。おでんやシチューなど長時間煮込む料理や、でき上がった料理を食卓に運ぶまでの保温などにとろ火が適する。」
資料3:川上行藏, 西村元三朗 監修『日本料理由来事典』上・中・下, 同朋舎出版, 1990【E2-G257】
「よわび」「とろび」のいずれも立項されていませんでした。
資料4:岡田哲 編『たべもの起源事典』東京堂出版, 2003【GB8-H3】
「よわび」「とろび」のいずれも立項されていませんでした。
資料5:川上行蔵 著, 小出昌洋 編『日本料理事物起源 (完本日本料理事物起源)』岩波書店, 2006【GD51-H100】
「よわび」「とろび」のいずれも立項されていませんでした。
以下は参考情報です。
以下の雑誌記事(1962年)に、第520回(10月25日)放送用語委員会において審議決定したものが掲載されており、「とろ火」と「弱火」についても言及されています。
NHK総合放送文化研究所 編『NHK文研月報 : the NHK report on broadcast research 12(12)』日本放送出版協会, 1962.12【Z21-70】
p.27「放送用語メモ(6)」>「「とろ火」と「よわ火」」
〔ヨワビ〕の放送例について、〔トロビ〕とすべきであるとの問題が指摘されています。
それに対して、強火に対して弱い火を表現するには原則として「とろ火」〔トロビ〕を用いるとする一方、「現在の若い世代の間では、「とろ火」ということばが次第に忘れられ、「弱火」〔ヨワビ〕の方が使われるようになってきていると見られる」という記述があり、「場合により、「弱火〔ヨワビ〕を用いてもよい。」とあります。
また、以下の新聞記事(平成以前)では、弱火の読みについて、ヨワビという人が現われたと言及しています。
「とろ火_言葉のしおり」(『朝日新聞』1966年(昭和41年)7月22日 東京 朝刊 11ページ)
→「とろ火(古くは温火)」を近年「弱火」と書くことがあるとし、本来「弱火」はトロビと読むべきところ、「このごろヨワビという人が現れて来た」とあります(※朝日新聞クロスサーチ(当館契約データベース)にて確認。
なお、以下の2007年の新聞記事では、「とろ火」という言葉の取り扱われ方について言及されています。
「[新日本語の現場]マニュアル(28)風前の「とろ火」(連載)」(『読売新聞』2007.11.9 東京朝刊 37頁)
[新日本語の現場]マニュアル(29)宣伝文句で「とろ火」復権(連載)(『読売新聞』2007.11.13 東京朝刊 37頁)
[新日本語の現場]マニュアル(30)「とろ火」そぐわない現代(連載)(『読売新聞』2007.11.14 東京朝刊 37頁)
→「とろ火」という言葉について、「調理器のマニュアルには残ったが、料理のマニュアル(レシピ)からは消えた」とあります(2007.11.14の記事より)(※ヨミダス歴史館(当館契約データベース)にて確認)。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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■調査の概要
弱火の読みとして、「とろび」「よわび」「のろきひ」「とろきひ」「よわきひ」「ぬるひ」等が見つかった。見つけられた中で「よわび」というフリガナがついている最も古いものは
『日本支那西洋料理独案内:附・礼式及食事法』(吉田正太郎編、駸々堂、明治 19 年 4 月)
※国立国会図書館デジタルコレクションにて 2024 年 1 月 11 日に確認。初出かどうかはわかっていない。
■紙の情報源
・『日本国語大辞典 9』(小学館 2001)
とろ火の項目。文火(とろび)と読ませている例が記載。
・『日本国語大辞典 13』(小学館 2002)
弱火の項目。「火力の弱い火。とろ火」と記載。
・『火の百科事典』(丸善株式会社 1999)
弱火(よわび)の項目。ぬる火、文火(ぶんか)などと表現することあり、と記載。
・『材料別料理事典』(新樹社 1979)
とろ火の項目。弱火のこと、と記載。
・『はじめての料理のことば』(アスペクト 2010)
火加減についてのページに「弱火」と「とろ火」それぞれあり。
とろ火については弱火よりも弱い火、と記載。
・『新潮国語辞典 第二版』(新潮社 1995)
とろ火の項目。勢いの弱い火、と記載。
弱火の項目はない。
・『新版日本料理語源集』(旭屋出版 2004)
とろび(弱火)の項目。よわびの項目はなし。
・『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房 2012)
とろびの項目あり。トロトロ+火が語源、と記載。よわびの項目はなし。
■ネットの情報源
国立国会図書館デジタルコレクションにて閲覧
・『日本支那西洋料理独案内:附・礼式及食事法』(駸々堂 1886.4)
書誌 ID:000000486709
53 コマに弱火(よわび)の表記あり。
・『日本支那西洋料理独案内:附・礼式及食事法』(秩山堂 1884.11)
書誌 ID:000000486707
59 コマに弱火(のろきひ)の表記あり。
・『日本支那西洋料理独案内:附・礼式及食事法 2 版』(秩山堂 1885.11)
書誌 ID:000000486708
56 コマに弱火(のろきひ)の表記あり。
・『日本支那西洋料理独案内:附・礼式及食事法』(薄井忠吉 1886.11)
書誌 ID:000000486710
50 コマに弱火(のろきひ)の表記あり。
・『日本支那西洋料理独案内:附・礼式及食事法』(重枝忠吉 1887.2)
書誌 ID:000000486711
45 コマに弱火(のろきひ)の表記あり。
・『日本支那西洋料理独案内:附・礼式及食事法』(石川書屋 1887.11)
書誌 ID:000000486712
34 コマに弱火(のろきひ)の表記あり。
・『洋食料理法独案内』(友文舎 1886.4)
書誌 ID:000000486693
15 コマに弱火(とろひ)の表記あり。
・『西洋料理独案内』(東雲堂 1886.10)
書誌 ID:000000486619
11 コマに弱火(のろきひ)の表記あり。
・『洋食独案内 2 版』(金玉堂 1886.11)
書誌 ID:000000486692
14 コマに弱火(とろきひ)の表記あり。
・『新撰速成製法秘訣』(誠之堂 1886.11)
書誌 ID:000000486136
11 コマに弱火(ぬるび)の表記あり。
・『料理独案内:西洋朝鮮支那日本』(改良小説出版舎 1887.10)
書誌 ID:000000486713
15 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『女子必携今世ひめ鏡』(女学雑誌社 1888.7)
書誌 ID:000000486011
64 コマに緩弱火(ぬるび)の表記あり。
・『軽便西洋料理指南:実地応用一名・西洋料理早学び』(久野木信善 1888.11)
書誌 ID:000000486562
17 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『新撰和洋料理精通』(松陽堂ほか 1901.7)※図書館送信
書誌 ID:000000486605
111 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『料理の枝折』(浜本明昇堂 1902.2)
書誌 ID:000000486702
77 コマに弱火(よわび)の表記あり。
・『婦人宝典 第 3 巻』(郁文舎ほか 1904.1)
書誌 ID:000000486091
22 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『和洋家庭料理法』(自省堂 1904.5)
書誌 ID:000000486721
49 コマに弱火(ぬるび)、52 コマに弱火(ぬるび)、55 コマに弱火(ぬるび)、112 コマに弱
火(よわび)、129 コマに弱火(とろび)、132 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『衛生食物調理法』(博文館 1904.7)
書誌 ID:000000486525
56 コマに弱火(よわきひ)の表記あり。
・『日用惣菜家庭料理』(淡海堂 1906.1)
書誌 ID:000000486661
17 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『女子宝鑑:一名・婦人重宝玉手函』(松影堂 1906.12)
書誌 ID:000000524688
45 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『明治少女節用』(博文館 1907.9)
書誌 ID:000000519783
227 コマに弱火(よわび)の表記あり。
・『野菜料理:報知新聞懸賞当選』(報知社出版部 1907.12)
書誌 ID:000000486686
52 コマにとろ火、57 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『各地特殊料理百珍』(大日本女学会 1908.1)
書誌 ID:000000486714
60 コマに弱火(とろび)の表記あり。
・『和洋家庭料理法』(春江堂 1908.10)
書誌 ID:000000486722
22 コマに弱火(よわび)の表記あり。
・『和洋料理道楽』(春江堂 1908.10)
書誌 ID:000000522955
21 コマに弱火(よわび)の表記あり。
・『実用家庭百科全書』(精美堂 1909.6)※図書館送信
書誌 ID:000000486022
323 コマに弱火(とろび)の表記あり。
■参照したが弱火(よわび・とろび)について記載のなかったもの
・『もの知り事典』(土屋書店 1974)
・『日本語源大辞典』(小学館 2005)
・『語源海』(東京書籍 2005)
・『総合調理科学事典 新版』(光生館 2006)
・『国史大辞典 第 15 巻 下 索引・事項』(吉川弘文館 1997)
・『暮らしのことば語源辞典』(講談社 1999)
・『職人ことば辞典』(桜楓社 1983)
・『調理学用語辞典』(建帛社 1988)
・『語源・由来 日本料理大事典 下巻』(ニチブン 2000)
- NDC
-
- 食品.料理 (596)
- 参考資料
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 人文(レファレンス)
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査 書誌的事項調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000345824