【資料1】~【資料4】には質問にあるとおり、ミサゴが石の隙間に魚を隠し、自然に熟した魚を「みさごずし」というとされていますが、【資料5】や【資料6】には、ミサゴにそのような習性はなく、「みさごずし」の真偽を問うような記述もあります。
【資料1】『本朝食鑑 3』(人見必大[著] 島田勇雄訳注 平凡社 1978)
p173-178 雎鳩 美佐古(みさご)と訓む。
「数匹の魚を捕らえて、潜かに密集した石の隙間に隠し、一晩おいておく。これを美佐古の鮓という。漁人はこれを識っていて、とって食う。その味は佳ならずといえども稍味わいがある」
なお、ミサゴの項目は『本朝食鑑』原本では巻之六 禽之四 山禽類十一種に収録されています。
【資料2】『古事類苑 飲食部』 (吉川弘文館 1980)
p970-971「鶚鮓」の項目には、各文献から引用した解説が載っています。
[安齋随筆 十二]からの引用「海鳥小魚を促りて石窪の中に貯へ潮汐に漫漬し、自然に熟せる物なり」
[嬉遊笑覧 十上 飲食]からの引用「水邊に魚を掠食ふ、或は魚を取貯へ、岸の沙石の間に積置を、みさごの鮓と云ふ」
[皇都午睡 初編中]からの引用「魚を爪にかけ、海岸の巌に生たる藻を掻分て埋め置を、海士の子藻の影より是を取食する也」
【資料3】『和漢三才図会 6』(寺島良安[著] 平凡社 1987)
p334「鶚」
「つねに魚を捕えて食べる。食べ飽きるとひそかに石間の密処におき、日をおいて穴に入ってこれを食べる。これを鶚の鮓という。人はその所在を見付けてこれを取って食べる」とあります。
【資料4】『図説江戸料理事典』(松下幸子著 柏書房 1996)
p41「すし類」の解説の中では「みさごずし」について『料理珍味集』(1764)の原文の一部を掲載しています。
「海辺にみさごという鳥あり 海に入りて魚をとり 木の枝に置きて己が小便をかけ置き 又海に入りて魚をとる事幾度も是の如し 此魚を鮓に漬けるに味美なり」
【資料5】『角川古語大辞典 第5巻』(中村幸彦編 角川書店 1999)
p477 みさごずし【鶚鮨・鶚鮓】の項目
「雎鳩(みさご)が捕らえて岩間などにこっそり置いた魚類が、海水がかかって鮓(すし)のようになったもの。(中略)みさごにそのような習性は全くなく、現在では「みさごずし」は伝説のものと見なされている。」
【資料6】『すしの本』(篠田統著 柴田書店 1993)
p185-196 ミサゴずしの伝承
「魚のようなたん白質を塩と一緒に漬けておいたら、よほど油の濃いものでないかぎり、自家消化でアミノ酸が遊離してきてしおからにこそなれ、酸しといわれるほど有機酸が生成するはずはなく、魚油が分解したなら一応酸味はできようが、舌をさすような味で食用にはなりそうにもない。どうもミサゴずしの話は都人の几の上での創作のように思える。」