レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022年08月19日
- 登録日時
- 2023/01/13 15:22
- 更新日時
- 2023/01/13 16:18
- 管理番号
- 千県東-2022-0002
- 質問
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解決
スリランカでは、トイレで用を足した後にトイレットペーパーで拭くよりも水で洗う風習があると聞いた。そのことについて書いてある資料があれば教えてほしい。実際に現地ではトイレの隅にバケツを置いてある、とか、手で水をすくって局所にかけて流すなど、水で洗う方法も詳しく知りたい。
また、日本の住環境ではどのように対応しているのか、来日している方へのアンケートなど行ってものがあれば、知りたい。
スリランカに限らず「水で洗う」という行為がどのような背景(文化的、宗教的)に由来しているのか書かれている資料があれば教えてほしい。
- 回答
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以下の資料に記載がありました。
(1)スリランカのトイレについて記述のあるもの
【資料1】『世界の公共トイレ事情』(日本トイレ協会編 地域交流出版 1989)
p112-113「スリランカ」(以下抜粋)
設備:ホテル、デパート以外は、石けんと水が置いてある。
紙:一般的に紙を使う習慣はなく、水で洗う。
特色:長距離バスターミナルのトイレにはシャワーもついている。インドネシアと同じように水でお尻を洗う習慣がある。
【資料2】『留学生日本フシギ体験 フロ・トイレから始まる比較文化』(池口眞寿美編著 TOTO出版 1990)
p67-69「紙と水両方使ってバッチリきれいにしています」
スリランカからの留学生がスリランカのトイレ事情について解説しています。形は日本の和式トイレに似ているが、水を使うためワンステップ高い位置に作られており、自宅トイレの入り口にはヤシ繊維でつくられたマットが敷いてある、水はカメに入れておいたり、お風呂のようなものに張っておいたり、水道の蛇口がきていたり、家によって違いがある等の記述があります。
また、スリランカでは水だけではなくトイレットペーパーも使うと書かれていますが、具体的な使い方などの内容は書かれていません。
【資料3】『世界のおもしろトイレ事情』(西岡秀雄著 日地出版 1998)
p47-50「スリランカ」
古代僧院(仏教)のトイレについてのコラムが中心です。僧院内で厳守された戒律集や「ジャタカ」にトイレの構造、使用法、マナーなどが規定されているとあり、このような思想を伴うトイレはインド亜大陸のどこかに起源があってスリランカに伝わったと推測しています。
1998年に撮影された入口左に水鉢が置いてあるシギリアの農家のトイレの写真も掲載されています。
(2)水で洗う方法等
スリランカの例ではありませんが、水で洗う方法について詳述している資料に以下のようなものがありました。
【資料4】『東方見便録』(斉藤政喜文 内澤旬子イラスト 小学館 1998)
p66-71「水と左手で尻を洗う法」(インドネシア)
p160-164「伝授インド式尻ぬぐい法」(インド)
p241-245「尻洗浄専用水差しの粋」(イラン)
現地の人から処理方法を聞いています。右手に持った桶、水差しなどから注いだ水を左手で受けて洗う点が共通しているようです。
【資料5】『アジア厠考』(大野盛雄・小島麗逸編著 勁草書房 1994)
p190-194「水で尻を洗う―イラン・アフガニスタンでの体験から―」
このほか、p100にはインドネシアの例、p128にタイの例、p172、p178にインドの例で、水で尻を洗う記述があります。
【資料6】「アジアのトイレ その1-4」(アジア文化社ホームページ 「アジアウェーブ」44号)
http://www.asiawave.co.jp/TOIRE1.htm
http://www.asiawave.co.jp/TOIRE2.htm(水で処理するフィリピンの事例)
http://www.asiawave.co.jp/TOIRE3.htm(インドとマレーシアの事例、アジアのトイレ派閥(紙処理派・水処理派)の表があります)
http://www.asiawave.co.jp/TOIRE4.htm (トイレから見た8カ国の排泄後の処理方法(水か紙か)などについて書かれています)
(3)日本での対応
こちらもスリランカの例ではありませんが、水を使う習慣のある国から来日した人のトイレの調査や体験談が掲載されている資料です。
【資料7】「訪日ムスリム旅行者のトイレ利用調査」(TOTO)
https://jp.toto.com/products/machinaka/report/
Q3に「日本の公共トイレでは排泄のあと排泄部位をどうやってきれいにしていますか?」という問いがあります。
回答には、「温水洗浄便座を使う」ほか、「ペットボトルを持ち歩く」、「ティッシュペーパーを濡らして使う」、「携帯用おしり洗浄機を使う」、「やむない場合は便器内の水を使う」等の回答があります。
【資料1】p21-22にインドネシアからの留学生が、これまでトイレットペーパーを使ったことがなく、はじめて日本に来たときに、悩んだ末にトイレットペーパーを水で濡らして使うことにした体験談、容器に水を入れてトイレに行くことなどが載っています。
【資料2】留学生のトイレに関するフリートーキング中、p36-40にヨルダン、インドネシア、バングラデシュ、ネパール、タイ、チュニジアの留学生が水のない日本のトイレに対する不満を述べています。チュニジアの留学生はビールびんに水を入れて持って入ることにしたと語っています。
【資料4】p244に日本滞在中に紙で尻を拭く習慣に馴染めず、ペットボトルを改造してアーフターベ(水差し)がわりに使っていた等の記述あります(イラン人)。
(4)水で流す行為の背景
現在の習慣が何に由来するか、はっきりと書いた資料は見つかりませんでしたが、仏教、イスラム教などに関連する戒律があるようでしたので、紹介します。
【資料8】松田愼也「仏教戒律における厠の構造とその使用規定について」(『上越教育大学研究紀要』第19巻2号 2000.3)p433-443
http://hdl.handle.net/10513/303
「3 排便の作法」の章で、パーリ律、四分律、五分律、十誦律、摩訶僧祇律、根本説一切有部律にみられる排便規定(水で洗浄する)についての記述があります。
【資料5】p203-208に「イスラムにおける排泄の心得(排尿、排便)」の章があり、イスラム教にも仏教の戒律に類似した水で洗う内容があるようです。
【資料9】『正法眼蔵 巻3 全訳』(道元著 誠信書房 1972)
p37「大比丘三千威儀経の記事に「身を清浄にするとは、大小便を洗い浄め、手の十指の爪を切ることである」とある。心身は「不染汚」であっても、身を浄め心を浄めるのが仏道である。」とあります。
p41には「大小便を行じた後を洗うことを怠ってはならない」とあり、具体的な洗浄方法が記載されています。
【資料10】『正法眼蔵』(道元撰 鴻盟社 1926)(ndljp/pid/1018721)
p44-47(44-45コマ)に大便と小便の洗浄の仕方についての記載がありました。
- 回答プロセス
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1 スリランカに関する事典類や旅行ガイド、赴任ガイドなどを見るが、トイレに関して詳しい記述のあるものは見つからなかった。
2 日本十進分類法380「風俗習慣」の書架を探索。【資料3】【資料4】【資料5】を発見。
他に次の資料を確認したが、洗い方については詳しく書かれていなかった。
『トイレはどこですか?』(小屋一平著 心交社 2001)
(トルコやインド、タイなど水洗い式のトイレ内部の写真は多数掲載あり)
3 千葉県立図書館ホームページ「図書・雑誌・視聴覚資料検索」を書名「トイレ」で検索。検索結果より、トイレに関する資料には件名「便所」が付与されていることが分かった。件名「便所」で再検索し、【資料1】を発見。
4 Googleを「アジア トイレ」で検索。【資料6】を発見。
5 Googleを「訪日 トイレ」で検索して【資料7】を発見。
6 TOTO株式会社ホームページ内のTOTO出版(https://jp.toto.com/publishing/index.htm)を
「トイレ」で検索して【資料2】を発見。
7 Googleを「仏教 トイレ」で検索。宗教情報センターのホームページにある「宗教こぼれ話」 第二十五回 「トイレに見る宗教」(https://www.circam.jp/kobore/detail/id=4808)に「日本仏教では、曹洞宗の開祖・道元の手による『正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)』に、トイレの作法が詳述されているそうですよ。」との記述あり。同ホームページ内に記載された参考資料より【資料9】を発見。
8 国立国会図書館の次世代デジタルライブラリーを「正法眼蔵」で検索して【資料10】を発見。【資料10】の本文を「洗浄」で検索。p44-47(44-45コマ)に大便と小便の洗浄の仕方について記載があることを確認した。
9 Googleを「排便」「排泄」など言葉を変えて検索し、【資料8】を発見。
10 CiNii Researchを「スリランカ トイレ」で検索したところ、
長井隆幸「海外コーナー カレー&トイレ スリランカ生活 事始め」(『砂防と治水』50巻5号 2017.12)p78-80を見つけた。(未所蔵資料のため内容未確認)
※参考資料末尾の数字は当館の資料番号です。
(インターネット最終アクセス:2022年11月24日)
- 事前調査事項
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「国際交流つうしん 第106号 2022.3』(公益財団法人 ちば国際コンベンションビューロー・千葉県国際交流センター)p7に「スリランカでは、トイレで用を足した後にトイレットペーパーで拭くよりも水で流す風習があるため」という記載がある。
- NDC
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- 衣食住の習俗 (383 9版)
- 建築設備.設備工学 (528 9版)
- 参考資料
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- 【資料1】『世界の公共トイレ事情』(日本トイレ協会編 地域交流出版 1989)(9100121284)
- 【資料2】『留学生日本フシギ体験 フロ・トイレから始まる比較文化』(池口眞寿美編著 TOTO出版 1990)(9101401308)
- 【資料3】『世界のおもしろトイレ事情』(西岡秀雄著 日地出版 1998)(2100890590)
- 【資料4】『東方見便録』(斉藤政喜文 内澤旬子イラスト 小学館 1998)(2100832256)
- 【資料5】『アジア厠考』(大野盛雄・小島麗逸編著 勁草書房 1994)(2100022962)
-
【資料6】アジア文化社ホームページ アジアウェーブ44号「アジアのトイレ その1-4」
http://www.asiawave.co.jp/TOIRE1.htm
http://www.asiawave.co.jp/TOIRE2.htm
http://www.asiawave.co.jp/TOIRE3.htm
http://www.asiawave.co.jp/TOIRE4.htm -
【資料7】TOTOホームページ「訪日ムスリム旅行者のトイレ利用調査」
https://jp.toto.com/products/machinaka/report/ -
【資料8】松田愼也「仏教戒律における厠の構造とその使用規定について」(『上越教育大学研究紀要19』2000)
http://hdl.handle.net/10513/303 - 【資料9】『正法眼蔵 巻3 全訳』(道元著 誠信書房 1972)(1100799599)
- 【資料10】『正法眼蔵』(道元撰 鴻盟社 1926)(ndljp/pid/1018721)
- キーワード
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- 便所(ベンジョ)
- トイレ(トイレ)
- スリランカ-風俗・習慣(スリランカ フウゾクシュウカン)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000327297