レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2013年05月16日
- 登録日時
- 2013/11/18 14:28
- 更新日時
- 2014/01/24 11:05
- 管理番号
- 埼熊-2013-048
- 質問
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解決
日本の中世に、自分の身代わりとして仏像を故意に欠損させる、または故人の供養のために仏像を故意に欠損させる風習があったとのことだが、そのことに関する文献を見たい。
- 回答
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中世の風習についての明確な記述は見当たらなかったが、以下の資料に記述があった。
『新編日本地蔵辞典』(村田書店 1989)
p3「あごなし地蔵8」の項に「昔、この地蔵のあごを欠いて歯痛治癒を祈ったので」という記述あり。
p4「足切地蔵」の項に、弘法大師を慕って影向された地蔵菩薩像について「やむなく尊像の御足(両足とも爪先)を切って無理にここへお留めした」という伝承あり。
『全国石仏石神大事典』(中山慧照著 大竹伸宜編 リッチマインド出版事業部 1990)
p408「地蔵菩薩(首なし地蔵)」の項に、「この石地蔵は、以前から胴体と首とが離れていて、祈願する人はその地蔵の首を地面にころがし、願がかなうと元通りに首を胴の上に乗せておくのが慣わしであった」とあり。
『医と石仏・庶民の治病信仰』(会田秀介著 青娥書房 2002)
p46「かんかん地蔵」の項に、石仏をたたき御利益を得、病を治す風習あり。
『江戸東京の庶民信仰』(長沢利明著 三弥井書店 1996)
p99-110「カンカン石・カンカン地蔵」の項に、石像を小石でたたく風習から、一部をかいて持ち去り、お守りにするようになった、という旨の記述あり。
『五来重著作集 7 民間芸能史』(五来重著 赤田光男〔ほか〕編 法蔵館 2008)
p311に、土偶について「かならず四肢に欠損部があることからみて、病気や災害の身代わりとする呪物信仰があったものとされている。」という記述あり。
- 回答プロセス
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参考図書を調べる
『岩波仏教辞典』(中村元〔ほか〕編 岩波書店 2002)
p953〈身代り〉の項に、以下の記述あり。
「仏・菩薩が人間に代って仕事や苦難を引き受けてくれるという信仰。信仰の対象でもっとも多いのは地蔵と観音であり、〈身代り地蔵〉などの民間信仰が豊富である。(中略)また、人の代りに受けた傷跡が仏像に残っていたというような話も伝えられ、これを〈代受苦ダイジュウク〉という。」
『日本の神仏の辞典』(大島建彦〔ほか〕編 大修館書店 2001)
「身代り地蔵」に関する以下の項あり。
p448「首無し地蔵」、p544「西長院」、p1195「身代り地蔵」
『日本風俗史事典』(日本風俗史学会編 弘文堂 1980)
p273-274〈地蔵信仰〉の項に、「身代り地蔵」に関する記述あり。〈観音信仰〉〈不動信仰〉には、身代りや欠損の記述なし。
『風俗辞典』(森末義彰、日野西資孝編 東京堂出版 1974)
p290〈地蔵信仰〉の項に、「身代り地蔵」に関する記述あり。〈観音信仰〉〈不動信仰〉には、身代りや欠損の記述なし。
『日本史大事典 3』(平凡社 1993)
p871-872「地蔵」の項に、以下の記述あり。
「(民間地蔵)説話の多くは「今昔物語集」巻十七に再録されており、(中略)大悲をもって罪人の苦を代わり受けるという地蔵の利益は、地蔵が信者の欲する力を持った人間となって現われたり、危難を被りそうになった信者の身代りになってくれるといった、「身代り地蔵」の信仰へ発展していった。こうして鎌倉時代から室町時代には、地蔵が僧の姿になって信者の看病をしてくれる話とか、信者に代わって田植をしてくれる「泥付地蔵」の話が生まれ、(後略)」とあり。
「今昔物語」を確認する
『今昔物語集 本朝部 3』(永積安明、池上洵一訳 平凡社 1989)
以下の説話が質問内容に近いが、いずれも〈身代り信仰〉と思われるもので、故意の欠損ではない。
p7-8「地蔵菩薩、小僧の形に変じて箭(や)を受ける語(こと)第三」
p39-41「賀茂盛孝、地蔵の助けにより活(よみがえ)り得る語第二十二」
p50-51「越中の立山の地獄に堕ちた女、地蔵の助けを蒙る語第二十七」
p57-59「説経僧祥蓮、地蔵の助けにより苦を免れる語第三十一」
p80-83「僧光空、普賢の助けにより命を存(ながら)える語第四十」
地蔵・観音・不動から調べる
以下の資料を見るが、いずれも〈身代り信仰〉の記述のみ。
『地蔵菩薩』(望月信成著 学生社 1989)
p206-207〈首切り地蔵〉の項あり。
『仏像 その語りかけるもの(浄土選書)』(石上善応著 浄土宗宗務庁 1977)
p168-171〈身代りをつとめる民衆のみ仏〉の項あり。
『新編埼玉県史 別編 2 民俗』(埼玉県 1986)
p597-598〈地蔵〉、p598〈薬師〉の項あり。
『観音信仰事典』(速水侑編 戎光祥出版 2000)
p127-128「岩手県 【信仰】」の項あり。
『不動信仰事典』(宮坂宥勝編 戎光祥出版 2006)
p110「愛知県」、p119-120「福岡県」、p125「通覧『不動利益縁起』」の項に記述あり。
NDC分類〈38〉の資料を調査し、回答の資料のほか、以下の資料があり。
『宮田登日本を語る 6 カミとホトケのあいだ』(宮田登著 吉川弘文館 2006)
p164-165「境の神の機能と代受苦」の項に、欠損ではないが「地蔵が人間の苦患を自ら感じて、代受苦を行うという信仰」についての記述あり。
インターネット情報の調査
《GeNii》を〈身代わり & 欠損〉〈欠損 & 仏〉、《リサーチ・ナビ》を〈仏像 & 欠損〉〈仏像 & 身代り〉で検索するが該当する情報なし。
- 事前調査事項
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調査済み資料:「謎だらけ日本の神さま仏さま」(山本勉著 朝日出版社 2008)「超雑学読んだら話したくなる仏像の魅力」(谷敏朗著 日本実業出版社 2010)「やさしくわかる仏像入門」(向吉悠睦著 ナツメ社 2007)「仏像ミステリー」(正木亮著 講談社 2010)「仏像の秘密を読む」(山崎隆之著 東方出版 2007)「仏像のなぞとひみつ」(頼富本宏監修 学研パブリッシング 2011)「壊れても仏像」(飯泉太子宗著 白水社 2009)「図解仏像のすべて」(花山勝友監修 PHP研究所 2008)
- NDC
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- 民間信仰.迷信[俗信] (387 9版)
- 仏会 (186 9版)
- 参考資料
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- 『新編日本地蔵辞典』(村田書店 1989)
- 『全国石仏石神大事典』(中山慧照著 大竹伸宜編 リッチマインド出版事業部 1990)
- 『医と石仏・庶民の治病信仰』(会田秀介著 青娥書房 2002) , ISBN 4-7906-0210-9
- 『江戸東京の庶民信仰』(長沢利明著 三弥井書店 1996)
- 『五来重著作集 7 民間芸能史』(五来重著 赤田光男〔ほか〕編 法蔵館 2008) , ISBN 4-8318-3413-0
- キーワード
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- 民間信仰
- 仏像
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 図書館
- 登録番号
- 1000140676