レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023/08/30
- 登録日時
- 2023/11/22 00:30
- 更新日時
- 2023/11/22 00:30
- 管理番号
- 6001062094
- 質問
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解決
『土佐日記』や『更級日記』にある、「門出」の意味について知りたい。
特に、陰陽道の影響を受けて平安時代に行なわれた風習である「方違え」との関係について知りたい。
- 回答
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単に家を出るという意味だけではなく、旅に出るにあたって吉日・吉方を選んで仮に出発する風習をさすこともある。
(1)辞典で「門出」「方違」の意味を調べる
・『角川古語大辞典 第1巻 あ-か』(中村幸彦・岡見正雄・阪倉篤義/編 角川書店 1982.6)
p.807 かどで 門出・首途
「旅や戦いに行くために家の門を出ること。出発。出立(いでたち)。縁起を重んじて祝いを行う。祝いを重大に行う場合には、吉日を選んでよい方角を選んでいったん出発の儀式をし、そこから改めて実際の出発をするが、この儀式的出発をさしていうこともある。安全を祈る心から、いろいろ禁忌があった。」
p.777 かたたがへ 方違
「陰陽道の説によって、ある行動の方角を一たび違える風習。平安時代以降、重要な禁忌の一つとされ、主として貴族によって行われてきた。(以下略)」
「門出」について、以下の辞書にも吉日・吉方を選んで仮に家を出るという記載があった。
・『日本国語大辞典 第3巻 おもふ-きかき 第2版』(小学館国語辞典編集部/編集 小学館 2001.3)
p.850 かどで 門出・首途
・『古語大辞典』(中田祝夫/[ほか]編 小学館 1983.12)
p.379 かどで 門出
・『古語大鑑 第2巻 か〜さ』(築島裕/編集委員会代表 東京大学出版会 2016.2)
p.106 かどで 門出
(2)「門出」について記載された図書、論文
・『方忌みと方違え:平安時代の方角禁忌に関する研究』(ベルナール・フランク/著 斎藤広信/訳 岩波書店 1989.1)
p.46-48で「門出」について触れられている。
「ところで方違えの発展とおそらく無関係ではない行為は「門出」である。(中略)この語は、奈良時代およびおそらくは平安時代初頭には―さらに今日でもなお―その語源的意味(家を出ること)に従って、単に「旅や戦争などに出発すること、旅立ち、出立、首途」を意味する。(中略)ところが平安時代も少し後になると、以下の説明にあるような別の用法が現われる。そこには明らかに陰陽道の概念の影響が感じられる。「門出-昔は旅に出るに吉日を以てするのが常であった。それで実際出発の前に吉日を選んでその日に仮に家を出て、附近に一泊もしくはしばらく逗留して、然る後に旅に上つたのである。その仮に家を出ることを門出といふ。この風習は久しく今にも及んで居る。……」(宮田和一郎『更級日記評釈』、東京、麻田書店、昭和九年、九頁)。」
『更級日記評釈』は国立国会図書館デジタルコレクション(国立国会図書館内/図書館・個人送信限定)で閲覧可能。(2023/8/30現在)
https://dl.ndl.go.jp/pid/1121985/1/53 53コマ
・『日本文学伝承論』(池田弥三郎/著 中央公論社 1985.6)
p.3-8 文学・芸能の胎動 一 かどで・かどいで
「門出」の信仰的要素について、『土佐日記』、『更級日記』、『蜻蛉日記』、『奥の細道』、『義経記』などの例が引用されつつ書かれている。
(3)『土佐日記』、『更級日記』の注釈書で「門出」の語釈を調べる
・『平安日記文学総合語彙索引:土佐日記・蜻蛉日記・和泉式部日記・紫式部日記・更級日記 索引編』(西端幸雄/[ほか]編 勉誠社 1996.2)
p.125
「かどで 門出」〈名詞〉が『蜻蛉日記』に2か所、『更級日記』に2か所、「かどです 門出」〈サ変〉が『更級日記』に2か所、『土佐日記』に1か所出てくることが分かった。
質問で挙げられた『土佐日記』、『更級日記』の注釈書で、「門出」の部分の語釈を確認した。
・『土佐日記 貫之集 (新潮日本古典集成)』([紀貫之/著] 木村正中/校注 新潮社 1988.12)
p.11 門出す
「四 吉日やよい方角を定めて出立するために、本格的に旅立つ前に場所を移ること。」
・『土佐日記全注釈 (日本古典評釈・全注釈叢書)』(萩谷朴/著 角川書店 1978)
p.55 いぬのときにかどです
「旅行の出発としては、はなはだ時刻が遅いようであるが、当時の旅行における門出とは、必ずしも目的地へ向かっての進発を意味するものではなく、単に方違えのために住居を出て、出発点を移すだけの門出もあったから、さしつかえはない。ただし、貫之は元来理知的な性格の人物で、あまり縁起をかつぐ方ではなかったし、暦註を参照しても、特に戒むべき条件もないから、単に衆人の環視を避けての夜陰の門出と解釈すべきであろう。」
・『更級日記全評釈』(小谷野純一/著 風間書房 1996.9)
p.20 門出
「これは、旅行のために自宅の門から出ること、出立を意味し、「門出で」ともいわれるが、その場合、先ず、吉日を選び、吉方に当たる仮の場所に移り、そこから、改めて吉日に出発するのが、一応、習慣であったようである。 (以下略)」
他に「門出」の語が見られる『万葉集』『源氏物語』『土左日記』『蜻蛉日記』などの作品が、いくつか挙げられている。
・『更級日記全注釈 (日本古典評釈・全注釈叢書)』(福家俊幸/著 KADOKAWA 2015.2)
p.18 門出して
「出発に先立ち、吉日、方位を選んで、いったん居を移すのが当時の風習であった。『土佐日記』に「住む館より出でて、船に乗るべきところへわたる」とあったのもこの風習によるものである。」
[事例作成日:2023年8月30日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 相法.易占 (148 10版)
- 日記.書簡.紀行 (915 10版)
- 参考資料
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- 角川古語大辞典 第1巻 中村/幸彦∥編 角川書店 1982.6 (777、807)
- 日本国語大辞典 第3巻 第2版 小学館国語辞典編集部∥編集 小学館 2001.3 (850)
- 古語大辞典 中田/祝夫∥[ほか]編 小学館 1983.12 (379)
- 古語大鑑 第2巻 築島/裕‖編集委員会代表 東京大学出版会 2016.2 (106)
- 方忌みと方違え ベルナール・フランク∥著 岩波書店 1989.1 (46-48)
- 日本文学伝承論 池田/弥三郎∥著 中央公論社 1985.6 (3-8)
- 平安日記文学総合語彙索引 索引編 西端/幸雄∥[ほか]編 勉誠社 1996.2 (125)
- 土佐日記 貫之集 [紀/貫之∥著] 新潮社 1988.12 (11)
- 土佐日記全注釈 萩谷/朴∥著 角川書店 1978 (55)
- 更級日記全評釈 小谷野/純一∥著 風間書房 1996.9 (20)
- 更級日記全注釈 福家/俊幸‖著 KADOKAWA 2015.2 (18)
- https://dl.ndl.go.jp/pid/1121985/1/53 (国立国会図書館デジタルコレクション『更級日記評釈』(宮田和一郎/著 麻田書店 昭和6)(国立国会図書館内/図書館・個人送信限定)(2023/8/30現在))
- キーワード
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- 方違(カタタガエ)
- 陰陽道(オンミョウドウ)
- 平安時代(ヘイアンジダイ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000341328