レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023年09月02日
- 登録日時
- 2023/09/02 12:18
- 更新日時
- 2024/01/11 21:17
- 管理番号
- 県立長野-23-086
- 質問
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高遠藩内で起こった<伊那法難>という宗教上の騒動にかかわる次のことがわかるか。『広布山信盛寺誌』の中に出てくるが、実態がよくわからない。
1 高遠藩に寺社奉行職はあったのか。郡代が兼任していたとの記述がある
2 高遠藩に「正木軍左衛門、荒波紋太夫」なる藩士はいたのか
3 高遠藩の郡代は奉行所を与えられていたのか
4 高遠藩の評定所や牢屋敷はどこにあったのか
5 明治12年当時、転宗運動(説法)をしたという西春近役場があった場所がわかる資料はあるか
- 回答
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1 高遠藩における寺社奉行職について
『高遠藩の基礎的研究』長谷川正次著 国書刊行会1985【N242/104】p.103-122に内藤藩(高遠藩)の職制についてまとめられており、行政機構としてp.109に「寺社奉行」の記述があるが、この資料では、郡代が寺社奉行を兼任していたという記述は見あたらない。なお、p.588-621に<高遠内藤藩職制機構就任一覧>があるが、この中に寺社奉行職はない。
『江戸幕府役職集成』笹間良彦著 雄山閣出版1976【322.1/44c】のp.84-88に高遠藩内藤家時代の藩制が記されており、p.88に「[郡代]藩内の民政を掌り、寺社奉行の職も兼ねている。」とある。また、末尾に「以上が藩内武士の役職で、江戸幕府と違って、余分な人数を養っていないから、非役はいない。」ともあった。
『上伊那郡史』唐沢貞治郎編 上伊那郡教育会1921【N242/1】p.291-298に高遠藩の藩制があり、p.296に「郡代」の説明として「社寺奉行は元來社寺を司る官なりしが當藩にては郡代之を兼任せり。」となっている。
『信州高遠藩史の研究』北原道男著 北原道男著書刊行会 1984【N242/102】p.341-350に宗門改めの項目があり、この中で、百姓から武士に取り上げられた者の宗門改めの届出先が郡代宛であること、寺社からの宗門改めとして、文政7年の届出先が郡代の名前となっていることが確認できる。
2 高遠藩士「正木軍左衛門、荒波紋太夫」について
『高遠の古記録 4巻 高遠藩分限帳』(郷土雑誌『高遠の古記録』第4巻として所蔵)などの郷土資料で、高遠藩士の「正木」「荒波」姓を調べたが、どちらも確認することができない。
3 高遠藩の郡代は奉行所を与えられていたか
郷土資料で調査したが、高遠藩において、郡代が奉行所を与えられていたかどうかが確認できる資料は見あたらない。
4 高遠藩の評定所や牢屋敷について
『高遠城と藩学』北村勝雄著 「高遠城と藩学」刊行委員会 1978【N242/72】p.105-108に、出典を『高遠地方旧記』あるいは『高遠領旧記』等の類した書名の写本とした、元禄の頃の町の姿が記述されており、[九、牢屋敷]として、「梅町の西裏にあって、表十八間裏行十四間の敷地内に、牢獄・処刑場・役宅・その他建物もあり、責め道具なども備えてあった」とある。
なお、梅町は当時「せり町」といい、現在は「伊那市高遠町西高遠」内にあたるようだが、「梅町」は字名として残っていない。
5 西春近役場があった場所について
高遠藩小出村は、近隣5村と明治8年に合併し「西春近村」となった。
『西春近をふり返る』西春近歴史研究会編 西春近歴史刊行委員会2002【N242/163】p.45-46によると、当初は戸長宅を役場として使用したようだが、公的な場所がどこにあったかは詳細不明。また、p.77に明治32年に長野県知事の認可を受け、西春近役場は「小出耕作地内唐木」にあり、明治42年に「沢渡耕地内5070番地」に役場位置を変更する決議がなされたとある。
『上伊那誌』p.87に記述のある役場の所在地「西春近村284(橋爪治平宅)」を確認できる明治期の地図は無く、昭和40年に伊那市と合併する前の住宅地図も確認したが、同一地番はない。
なお、p.459に歴代戸長・村長名が記されており、明治12年当時の戸長は「藤枝甚九郎」とあった。
- 回答プロセス
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1 まず<伊那法難>について確認する。自館蔵書検索では、事前調査資料の『広布山信盛寺誌』や『富士宗学要集 第9巻』は未所蔵。国立国会図書館デジタルコレクションに『富士宗学要集 第9巻』があったので内容を見ると、直接の文献は殆ど散逸しており、年代作者不明の『法華騒動記』と、法難当事者の子孫が係る『信盛寺史』細井精道著 昭和6年をベースに記述されていることがわかる。
2 『法華騒動記』『信盛寺史』『広布山信盛寺誌』の所蔵を「国立国会図書館サーチ」で検索するが見当たらない。<最終確認:2024.1.10>
3 上記資料を「信州ブックサーチ」で長野県内図書館の横断検索し、『広布山信盛寺誌 信盛寺開創百周年記念誌』信盛寺誌編集委員会編 信盛寺 1980が伊那市立伊那図書館に所蔵されていることを確認。
4 質問内容が主に高遠藩に関わることであるため、郷土資料分類「N242」「N288」やNDC「280-290」台の書架で関連する資料をブラウジングする。
<調査済み資料>
『内藤家十五世紀(一)-(十二)』長谷川正次編 伊那市立高遠町図書館【N242/206/1-12】
『世乗(一)-(十五)』長谷川正次編 高遠町図書館【N242/205/1-15】
『新編姓氏家系辞書』太田亮著 秋田書店 1979【288.1/オア】
『姓氏家系大辞典』太田亮著 角川書店1976【288.1/オア/1-3】
『長野県歴史人物大事典』神津良子編郷土出版社1989【N283/13/ウ】
『角川日本姓氏歴史人物大辞典20』角川書店1996【N288/158】
『角川日本地名大辞典20』角川日本地名大辞典編纂委員会編 角川学芸出版2009【N293/18a】
『日本歴史地名大系20』平凡社1979【291.03/ニホ/20】
- 事前調査事項
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『高遠町誌』
『上伊那誌』
『伊那市史』
『高遠藩総合年表』
『広布山信盛寺誌』
『富士宗学要集 第9巻』
- NDC
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- 仏教史 (182)
- 日本 (291)
- 法制史 (322)
- 参考資料
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- 笹間良彦. 江戸幕府役職集成. 雄山閣出版.
- 北原道男. 信州高遠藩史の研究. 北原道男著書刊行会, 1984. (当館請求記号 N242/102)
- 北村勝雄. 高遠城と藩学. 「高遠城と藩学」刊行委員会, 1978. (当館請求記号 N242/72)
- 西春近歴史研究会. 西春近をふり返る. 西春近歴史刊行委員会, 2002. (当館請求記号 N242/163)
- キーワード
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- 高遠藩
- 職制
- 家臣
- 伊那法難
- 西春近村
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000338145