レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022年07月08日
- 登録日時
- 2022/11/16 12:19
- 更新日時
- 2022/11/16 12:52
- 管理番号
- 福島一般3270
- 質問
-
解決
興味あって、ネギの花の文化史的な側面について調べています。
ネギの花が意匠として美術・建築分野に顕れるのは、擬宝珠、そして葱花輦です。形がネギの花のつぼみ、いわゆるネギ坊主の形(実際にはタマネギと言ったほうがよりイメージしやすい)に似ているわけですが、いつ頃、どうしてネギ坊主が関連付けられたのか、詳しいことはわかりません。
ネットで調べられる範囲でわかったことは、
日本では、平安時代から葱花輦という名で、皇室用の輿のことがよばれていた(小右記)、また、ネギ坊主型をした屋根を持つ神輿がすでにそのころにはあった(年中行事絵巻、北野天満宮のずいき祭等)ことからかなり歴史はある。皇室の調度品と言うより神輿がすなわち神道が起源と思われます。
一方、擬宝珠は如意宝珠を模したものとも言われており、仏教界の意匠と思われます。両者のルーツは一緒なのか違うのか、なぜネギ坊主なのか、知りたく思います。
さらにルーツをたどると、onion dome に帰着します。タマネギ様の意匠は、特にロシア正教の教会ドームに多いですが、そのほかにも中部ヨーロッパのキリスト教の教会にも、イスラムのモスクにも、そして有名なタージマハルにも見られます。世界共通の意匠とも思われるのですが、どこを調べたら良いのかわかりません。調査のとっかかりをご教示いただけたら幸いです。
- 回答
-
【】は当館請求記号です。※が付いているものは禁帯出資料です。
ウェブ情報の最終アクセス日は2022年7月15日です。
当館所蔵資料以外の書誌的事項は国立国会図書館オンラインによります。
回答文の中で資料を引用していますが、一部、旧字を新字に改めている箇所があります。
葱花輦と擬宝珠のルーツ、なぜネギ坊主なのか、onion dome等のタマネギ様の意匠についてのお問い合わせでしたが、今回は「葱花輦」と「擬宝珠」に限定して調査を行いました。
調査の過程で確認した資料に「タマネギ形のドーム」について触れているものがありましたので、調査済み資料の中でご紹介しています。
擬宝珠とはネギの花のことであると説明している資料は複数確認できましたが、なぜネギ坊主なのかがわかる資料は確認できませんでした。
資料1によると「屋蓋の飾りに、金の珠を付けたるが、其の形葱花に似たれば、然称する也とぞ。」とあり、記述の典拠として資料2の『安斎随筆』を挙げています。
資料2の「ギボウシュ」の項では、「キは葱なり葱はヒトモジとも云ふ草なり俗にネギと云ふ」「葱の花の形なる珠なる故葱宝珠と云ふなり柱頭の飾りに珠を置くに其の珠葱花の形に似たる故の名なり」とあります。
「鳳輦葱花の輦」の項では、「葱花はヒトモジと云ふ草の花の形にて丸くして上尖りたる物なり則ち橋の欄干のギボウシュの形に同じ」と述べています。また「何故に葱花の形を用ふるぞと理を尋ぬべからず」とも述べており、最終的には「唯珠の形の葱花に似たる故に名付けたるのみなり」と結んでいます。
資料3によると「「擬宝珠」は当字にして、実は葱帽子なりとの説あり。(中略)然るにまた他説あり。即ち『帝国大辞典』に「もと、仏教にある、マニの玉の形を取りて付けたる所より、宝珠、即ち、たからのたま、との義を附す」とあり。」とあります。
各資料の詳細な内容については、ご自身で確認をお願いいたします。
資料1
『宮殿調度図解』複製版 関根正直/著 協同出版 1968.4【210.09/S2/3】
pp.152-153「葱花輦」の項目があります。
同じ内容の資料が国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能です。
宮殿調度図解 : 附・車輿図解 下 増補 関根正直 著 六合館, 大正14(35コマ目)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1210307/35
資料2
『安斎随筆 第1(故実叢書 8巻)』改訂増補 伊勢貞丈/著 明治図書出版 1993.6【081.6/K10/8】
pp.266-267「ギボウシュ」「鳳輦葱花の輦」の項目があります。
同じ内容の資料が国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能です。
故実叢書. 安斉随筆(伊勢貞丈)今泉定介 編 吉川弘文館, 明32-39(15-16コマ目)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/771898/15
資料3
『日本建築辞彙』新訂 中村 達太郎/著,太田 博太郎/編,稲垣 栄三/編 中央公論美術出版 2011.10【521.033/ナタ11X】※
pp.111-112「ぎぼうし【擬宝珠】」の項目があります。
同資料の改訂増補版が国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能です。
日本建築辞彙 改訂増補版 中村達太郎 著 丸善出版, 昭和23 22版(62コマ目)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1124439/62
ウェブ情報1
帝国大辞典 第1版 藤井乙男, 草野清民 編 三省堂, 明29.10(255コマ目)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2387590/255
資料3の中で出典として挙げられている資料です。
以下の資料に「ネギの花」の項目がありますが、当館未所蔵のため内容は未確認です。
『花の文化史 第2』 春山行夫 著 中央公論社 1956
p123- ネギの花
その他調査済み資料・データベース
『青葉高著作選 1 日本の野菜』 青葉 高/著 八坂書房 2000.6【626/A1】
p.121「擬宝とはネギの花、ネギ坊主でここから擬宝珠の言葉が生まれた。またネギの古代の名称がキであったことからネギをヒトモジ(一文字)とも呼んだ。」とあります。
『神輿大全 基礎知識から、歴史・製作・保管・修繕までを網羅した決定版,知られていない神輿の仕組み・製作面を細部まで徹底解明』 宮本 卯之助/監修 誠文堂新光社 2011.9【386.1/ミウ119】
p.122「葱花はねぎ坊主のことで、擬宝珠とも呼ばれる。」とあります。
『輿車図・輿車図考(故実叢書 36巻)』改訂増補 松平定信,大槻如電/著 明治図書出版 1993.6【081.6/K10/36】
輿車図考上之巻p.14「葱花輦」の項目があります。
『現代語訳小右記 8 摂政頼通』 [藤原 実資/記],倉本 一宏/編 吉川弘文館 2019.4【210.37/フサ15X/8】
p.71に「葱花輦を準備するよう命じた。」という記述があります。
『現代語訳小右記』は全16巻で、現在14巻まで刊行済みです。(当館所蔵も14巻まで)
『建築大辞典』第2版 彰国社/編 彰国社 1993.6【520.33/K2/2】※
p.370「ぎぼし[擬宝珠]」の項目があります。
『タマネギとニンニクの歴史』 マーサ・ジェイ/著,服部 千佳子/訳 原書房 2017.4【626.54/シマ174】
本文中でアリウム属の文化史にも触れています。
pp.81-82で「タマネギ形のドーム」について数行程度触れています。
『花の文化史 花の歴史をつくった人々』 春山行夫/著 講談社 1980.7【627/H2/3】
p.62に「タマネギとニラ」という項目がありますが、建築意匠に関する記述はありません。
『図解社寺建築 各部構造編』 鶉功/著 理工学社 1993.10【526.1/U2/1-2】
『社寺建築の技術 中世を主とした歴史・技法・意匠』 大森 健二/著 理工学社 1998.8【521.81/O1】
『寺社建築の歴史図典』 前 久夫/著 東京美術 2002.3【521.81/M3】
『現代実例社寺建築の細部意匠』 清水 稔次/著 朝日新聞出版サービス(制作),朝日新聞社(発売) 2003.4【529/S2】
『青葉高著作選 2 野菜の日本史』 青葉 高/著 八坂書房 2000.7【626/A1】
『青葉高著作選 3 野菜の博物誌』 青葉 高/著 八坂書房 2000.8【626/A1】
・JapanKnowledge Lib(当館契約データベース)
・国立国会図書館オンライン(https://ndlonline.ndl.go.jp/)
・国立国会図書館デジタルコレクション(https://dl.ndl.go.jp/)
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
- 参考資料
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000324152