宗教画の歴史的変遷過程と、静物画の特に花卉画についての社会成立要因について、ということですので、宗教画、静物画、花卉画の歴史について調べました。
(宗教画の歴史について)
1.『世界大百科事典 7』平凡社 2007.9
「キリスト教美術」の項目に歴史について解説があります。(p.508-510)
「12世紀末から13世紀にかけてのゴシック時代は、自然主義に戻り(中略)キリストや聖母の慈愛が民衆をあたたかく教えさとす(中略)13世紀末期から、さらに転じて美術は人間的感情の写実的表現をこととする(中略)14世紀末から近世にはいるにおよび、美術の主流はしだいに世俗美術が占め、キリスト教美術は個々の特殊な作家の手にうつり(中略)ルネサンス時代のキリスト教美術は(中略)世俗的感覚が入り込み、芸術家は内面的な宗教感情よりも(中略)空間の三次元性などを追うようになる。美術はしだいに宗教から独立して<美術のための美術>となる。」(p.510)とある。
2.『薔薇のイコノロジー』 若桑みどり/著 青土社 1984.10
「花と髑髏:静物画のシンボリズム」(p.249-274)に
「かつて、花々や動物や(中略)聖母のまわりにあって宗教画を飾っていた。(中略)宗教裁判はカトリックによる宗教画の図像統制が、かつての静物画的エレメントを外にしめ出すという作用をもたらした。一五六〇年台(トレント公会議以後)には、宗教画は、著しく簡潔になり(中略)静物画的要素を取り除いている。(中略)このような宗教的事情が一七世紀における静物画の独立とその隆盛(中略)に大きな影響を与えたのであった。」(p.265)とあります。
トレント公会議以後のキリスト教美術については、下記資料に記載があります。
3.『ヨーロッパのキリスト教美術:12世紀から18世紀まで』 エミール・マール/著 岩波書店 1980.9
「トリエント公会議以後の宗教美術」(p.291-360)
4.『美術史と美術理論:西洋十七世紀絵画の見方』木村三郎/著 放送大学教育振興会 1996
キリスト教主題についての参考文献ガイドがあるので、ご覧ください。(p.112)
(静物画の歴史について)
5.『世界美術大事典 3』小学館 1989.6
「静物画」の項目に歴史について解説があります。(p.227-229)
「ネーデルラントの写実とイタリアの創意の出合いが近代の静物画を成立させた。このジャンルはとくに、プロテスタントが聖像を否定したことによる世俗主題の隆盛によって、とくにこのジャンルが勢いづいたということがいえる。」(p.228)とある。
6.『世界大百科事典 15』平凡社 2007.9
「静物画」の項目に歴史について解説があります。(p.414-415)
「静物画が純然たる絵画の一分野として独立を果たしたのは17世紀初頭のネーデルラントであり、とりわけ新教国のオランダでは宗教画が衰退したため静物画は風景画、風俗画と並んで絵画の主要な一分野を形成するに至り、本草図や貴重な花卉図鑑の伝統を引く花の絵(中略)などさまざまの種類が興隆して、多くの専門画家たちが緻密な写実の技巧を競った。」(p.414)とある。
7.『静物画』 エリカ・ラングミュア/著 八坂書房 2004.12
「静物画の起源」(p.25-56)あり。
8.『オランダ絵画のイコノロジー:テーマとモチーフを読み解く』 エディ・デ・ヨング/著 日本放送出版協会 2005.10
「静物画の解釈」(P.129-150)
「静物画というジャンルの成立にはこのように諸カテゴリーが体系化され、描かれるようになったことが間違いなく貢献している。」(p.142)とあり、静物画のジャンルの成立について言及しています。
CiNiiで「静物画」を検索すると下記の雑誌記事がヒットしました。
9と11の論文はネット上で閲覧可能です。
9.「オランダ美術における聖と俗 : 静物画の勃興をめぐって(東部会平成二一年度第一回例会,例会・研究発表会要旨)」尾崎 彰宏/著
「美學」 60(2),p.165-166, 2009-12-31
10.「オランダ美術における聖と俗--静物画の勃興をめぐって (特集 聖俗のあわい) 」尾崎 彰宏/著
「西洋美術研究」 (15), p.84-99, 2009
11.「十七世紀オランダにおける静物画の成立について : ヴァニタスの理念を中心に」千速 敏男/著
「美學」38(3), p.34-47, 1987-12-31
12.「静物画の歴史」 嘉門 安雄/著
「アトリエ」 (325), p.1-25, 1953-12
(花卉画の歴史について)
13.『花のギャラリー:描かれた花の意味』小林頼子/著 八坂書房 1994.6
「西洋絵画における花卉画の系譜」(p.177-220)あり。
14.『オールド・ローズ・ブック:バラの美術館』 大場秀章/著 八坂書房 2009.5
「フローラの王国:西洋絵画に描かれたバラ」望月典子(p.87-181)
「十六世紀終りから十七世紀に「花の静物画」が絵画のひとつのジャンルとして独立していく背景には、絵の受容者である顧客層の変化や、園芸の流行、花に対する博物学的・本草学的な関心の高まり、珍品や美術品のコレクションの流行などがあった」(P.90)とあります。
15.『花の図譜ワンダーランド』 荒俣宏/著 八坂書房 1999.9
(タイトルコード)1113952236 (請求記号)723/104N
「眺められた花の歴史」「ボタニカル・アートの世界」などを収録。
16.『図説ボタニカルアート』大場秀章/著 河出書房新社 2010.5
(タイトルコード)10021001708034 (請求記号)723/257N
「ボタニカルアートの歴史」などを収録。
17.『花と果実の美術館:名画の中の植物』 小林頼子/著 八坂書房 2010.11
(タイトルコード)10021001793679 (請求記号)704/539N
美術作品に描かれた植物を、ギリシャ神話、キリスト教、東西交流、一般史、美術史などを参照しながら考察しています。
この中に収録されている「主要参考文献一覧」(p.170-172)より資料を紹介します。
18.『植物図譜の歴史:芸術と科学の出会い』 ウィルフリッド・ブラント/著 八坂書房 1986.6
(タイトルコード)10000000576092 (請求記号)655/1001/#
19.兼重護「一七世紀オランダの静物画ーその発生と意味について」『日蘭学会会誌』第10巻2号(通巻第20号)(1986年3月)p.5-18
20.「17世紀オランダの花草画について」 堤 委子/著
「お茶の水女子大学人文科学紀要」 (40), p1-27, 1987-03
CiNiiで「花卉画」を検索すると下記の雑誌記事がヒットしました。
論文はネット上で閲覧可能です。
21.「器の中の百合 : 受胎告知に見る花卉画の起源」 木川 弘美/著
「清泉女子大学紀要 56」, p.A1-A16, 2008
1,5,6は貸出できない資料ですので、ご入り用であれば複写をお申込み下さい。
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