レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2011/03/04
- 登録日時
- 2011/11/26 02:00
- 更新日時
- 2011/11/26 02:00
- 管理番号
- 千県中参考-2011-0010
- 質問
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解決
ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』の中で、登場人物がチョウを値踏みする場面で「20ペニヒくらい」という表現があるが、これを現在の通貨価値に換算するとどれくらいになるか。金額によって解釈が分かれる重要なところだと思うので知りたい。
- 回答
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(1)時代設定について
ヘルマン・ヘッセの短編「少年の日の思い出」の本文中には、この作品の時代設定についての直接的な表現は見当たりません。
貨幣については、本文中に、ご質問の「二十ペニヒ」と、次の段落に「百万マーク」という言葉が出てきます。
作品が書かれた時期については、下記の図書で、執筆は1911年と確認ができました。
・『ヘッセ全集 2』(ヘッセ著 高橋健二訳 新潮社 1982)
※「少年の日の思い出」が収録されている巻です。
巻末の解説(高橋健二著)文中に「「少年の日の思い出」は、「やままゆ蛾(Das Nachtpfanenange)という題で、1911年に書かれ、雑誌「少年」に発表された。」と書かれています。(p290)
なお、作品は大人が少年時代(10歳頃)の思い出を語るという形で書かれていますので、仮に作品が書かれた時期を時代設定とすることにしても、少年時代に遡る分を勘案すると、「当時の20ペニヒ」の時代設定をいつと考えるかについては幅が生じるものと思われます。
(2)ドイツの貨幣について
・『世界コイン図鑑 カラー版』(平石国雄,二橋瑛夫編・共著 日本専門図書出版 2002)
のp77「ドイツ帝国の統一小額コイン」によると、1890~1915年頃に発行されたペニヒコインとして1ペニヒ銅貨、5ペニヒ白銅貨、10ペニヒ白銅貨が掲載されており、100ペニヒが1マルクに相当するとあります。
(3)現在の貨幣価値でいくらに該当するか
国立国会図書館のサイト内に、特定テーマ(トピック)の調べものに役立つ資料や調べ方を案内したページがあります。
この中の、「国立国会図書館調べ方案内 過去の貨幣価値を調べる(明治以降)」の「外国」の項目を参考に調べた結果をご案内します。
なお、仮に、作品執筆当時(1911年頃)の20ペニヒが現在のいくらに相当するかを調べましたが、上記(1)でご案内したとおり、作品の時代設定の解釈には幅があると思われますことをご了承ください。
(3-1)当時の貨幣が日本円でいくらに相当したか
・『明治大正国勢総覧 復刻版』(東洋経済新報社編 東洋経済新報社 1982)
※昭和2年に刊行された本の復刻版です。
のp166-167「伯林宛参着為替相場月別表」によると、明治44年(1911年)の年中平均は1円につき2.08マルクです。
この値を元に計算しますと、明治44年の相場で20ペニヒは、1÷2.08÷5=0.096円 となります。
(3-2)現在の日本円で何円に相当するのか
日本銀行ホームページの「教えて!にちぎん」の中にあるQ&A
「昭和40年の1万円を、今のお金に換算するとどの位になりますか?」を参考に計算すると、下記のようになります。
明治44年(1911)の企業物価戦前基準指数は年平均0.610
平成21年(2009)の企業物価戦前基準指数は年平均664.6 なので、
この企業物価指数によると
664.6(平成21年)÷0.610(明治44年)=1090倍 となり、
明治44年の20ペニヒ 0.096円は
0.096円(明治44年)×1090倍=105円(平成21年)
に相当することになります。
なお、上記URLのページにも書かれているように、「お金の価値を単純に比較することはなかなか困難」であり、「価格上昇率のモノサシとして何を使うかで計算結果はまちまち」なので、あくまでも参考計数として考えてください。
(4)訳者高橋健二氏による翻案について
・『世界少年少女文学全集 15(飛ぶ教室 ほか)』
(ケストナー作 高橋健二訳 東京創元社 1960)
この巻には表題の「飛ぶ教室」のほか、ヘルマン・ヘッセの短編が5作品収録されており、そのひとつに「少年の日の思い出」が収録されています。
巻末にある広告ページによると、この「世界少年少女文学全集」は「小学上級・中学生向」となっており、本文は子ども向けにルビが多く振られ、難しい漢字は使用せずひらがなに置き換えられています。
この本で「少年の日の思い出」の本文を確認すると、「20ペニヒ」は「十円」、 「百万マーク」は「百万円」と置きかえて表記されています(p248)。
この本の出版当時(1960(昭和35)年)、子どもにわかりやすいように訳者が翻案して表現したものと思われます。
なお、数字上は、20ペニヒが10円とすると百万マルクは5千万円となり計算が合いませんので、あくまでもわかりやすくするための翻訳上の工夫と思われます。
(5)「少年の日の思い出」の作品研究(教材研究)書について
「少年の日の思い出」に関する内容が掲載されている、県立図書館所蔵の下記図書について内容を確認しましたが、20ペニヒの価値(現在のいくらに相当するか)についての記述は見つかりませんでした。
・『文芸研・教材研究ハンドブック 中学校2(少年の日の思い出 ヘルマン・ヘッセ 高橋健二訳)』(田中みどり著 明治図書出版 1993)
・『理論と逸脱 文学研究と政治経済・笑い・世界』
(綾目広治著 御茶の水書房 2008)
p268-282「幼いチョウ採集家の躓き-ヘルマン・ヘッセ「少年の日の思い出」 」
このほか、国立国会図書館の蔵書検索(http://opac.ndl.go.jp/)で
タイトルに「少年の日の思い出」と入力して検索すると、内容情報に「少年の日の思い出」を含む図書を探すことができます。
また、CiNii[サイニィ] - NII論文情報ナビゲータ(http://ci.nii.ac.jp/)で
キーワードに「少年の日の思い出」と入力して検索すると、内容情報に「少年の日の思い出」を含む論文を探すことができます。
ご覧になりたい資料がありましたら、所蔵館を調べて、資料の取り寄せや複写依頼をすることが可能です。
(インターネットの最終アクセス:2011年3月4日)
- 回答プロセス
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(回答後に得た情報)
伊藤里絵,宇佐木仁人著「リサーチ大作戦 ヘルマン・ヘッセの時代の「20ペニヒ」は現在の日本円ではどのくらい?」(『図書館の学校』41号 2003.5)p11-13
という記事があるとの情報を得て記事の内容を確認したところ、次のような情報が掲載されていた。
著者が住んでいる外国人ハウスの隣りの部屋のスイス人によると、「19世紀末の「20ペニヒ」は今の日本のお金で食パン2斤ほどの価値」ではないかとのこと。
また、出典は明らかにされていないがインターネットで調べた結果として、世界最初の文庫シリーズの「レクラム文庫は値段を背表紙についた★の数で表していて、1867年当時、★一つが40ペニヒ、当時の為替相場で20銭だったそうです。」とのこと。
なお、レクラム文庫の価格について『レクラム百科文庫 ドイツ近代文化史の一側面』によると、1867年に創刊したレクラム文庫は「価格計算に基づいて、平均ページ数が設定され、それを基本単位として発行順に通し番号がつけられ」「ひとつの番号に対して2銀グロッシェン(通貨改革に伴って、1874年からほぼ同額の20ペニヒとなる)という価格が設定された。」この「価格設定は、その後長い間変更されることなく1916年まで」続いた。「一つの番号に一つの星印を与える価格表示制度は、1917年に価格導入された時に導入されたもののようである」と記載あり。
また、1冊20ペニヒという値段と、当時のドイツ人の平均的な収入とを比較した記述がある。(p75-76)
- 事前調査事項
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中学校の国語の教科書に掲載されている、ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』。
- NDC
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- 小説.物語 (943 9版)
- 貨幣.通貨 (337 9版)
- 参考資料
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- 『ヘッセ全集 2』(ヘッセ著 高橋健二訳 新潮社 1982) (9100916644)
- 『世界コイン図鑑 カラー版』(平石国雄,二橋瑛夫編・共著 日本専門図書出版 2002) (0105715796)
- 『明治大正国勢総覧 復刻版』(東洋経済新報社編 東洋経済新報社 1982) (9101341317)
- 「国立国会図書館調べ方案内 過去の貨幣価値を調べる(明治以降)」(http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-102809.php)
- 「昭和40年の1万円を、今のお金に換算するとどの位になりますか?(日本銀行)」(http://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/history/11100021.htm/)
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『世界少年少女文学全集 15(飛ぶ教室 ほか)』(ケストナー作 高橋健二訳 東京創元社 1960) (9600363734) - 『レクラム百科文庫 ドイツ近代文化史の一側面』(叶勝也著 朝文社 1995) (1101441990)
- キーワード
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- 『少年の日の思い出』
- 貨幣価値
- ヘルマン・ヘッセ
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000097154