当館の地域資料をお調べしましたが、故事の出典や古名を示す近世資料を確認することができませんでした。調査結果及び調査過程で得られた参考情報を以下のとおりお知らせします。
1 山名由来の故事の起源について
『栃木百名山の山名由来』(手塚晴夫/著 随想舎 2015)のp.18-19「三本槍岳」では、三藩の国境説を挙げ、白河藩成立の寛永4(1627)年以降の故事として記されています。今回確認した複数の資料にこの故事の掲載がありますが、通説を裏付ける出典(近世資料)は確認できませんでした。
なお、明治期に発行された資料からこの故事を確認できたため、この頃には通説として広まっていたことが伺えます。
・『三斗小屋誌』(田代音吉/著 下野史談会 1984)※明治44年発行の復刻
p.9「三本槍」
2 三本槍岳以前の山名について
三本槍岳の古名は確認できませんでしたが、明治初期の地図に「三方槍」という別名を確認できましたのでお知らせします。
・『栃木縣管下下野全図 上野三郡區画明細繪圖』(新井勝重 明治9年)
図中に「三方槍/此峯俗ニ三ボンヤリト云」とあり。
※貴重資料扱いとしていますが、電子化しており館内の端末から閲覧・印刷が可能です。
3 その他
以下の資料からは故事の出典となる情報を確認できませんでした。
・『日本百名山』(深田久弥/著 新潮社 1964)
p.63 ※起源等の情報は確認できませんでしたが、三藩の国境説に加え、「五月五日の節句にそれぞれ槍を携えて登山」との情報が記載されていました。「5月5日」について述べられていたのはこの資料のみで、出典は不明です。
・『日本山岳ルーツ大辞典』(村石利夫/編著 竹書房 1997)
・『新日本山岳誌 改訂』(日本山岳会/編著 ナカニシヤ出版 2016)
・『日本の地誌 6』(山本正三/〔ほか〕編 朝倉書店 2009)
・『日本山嶽志』(高頭式/著,日本山岳会/編 大修館書店 1975)※明治39年博文館発行の復刻
・『栃木県大百科事典』(栃木県大百科事典刊行会/編、発行 1980)
・『角川日本地名大辞典 9 栃木県』(「角川日本地名大辞典」編纂委員会/編 角川書店 1984)
・『日本歴史地名大系 9 栃木県の地名』(平凡社 1988)
・『那須町誌 前編・後編』(那須町誌編さん委員会/編 那須町 1976)
・『黒羽町誌』(黒羽町誌編さん委員会/編 黒羽町 1982)
・『栃木縣史 第1巻(地理編)』(田代善吉/著 田代善吉/著 臨川書店 1972)※昭和8年下野史談会発行の復刻
・『下野史談 第7巻第1号~第6号』(下野史談会)※合冊製本で保管
第7巻第1号 p.21-26「三本槍岳」(上野啓吉/識)
・『栃木県史 史料編 近世4』(栃木県史編さん委員会/編 栃木県 1975)
・『栃木県史 通史編4』(栃木県史編さん委員会/編 栃木県 1981)
・『栃木県史 通史編5』(栃木県史編さん委員会/編 栃木県 1984)
・『那須温泉史』(那須町教育委員会事務局生涯学習課文化財係/編 那須町教育委員会 2005)
・『三斗小屋温泉誌』(三斗小屋温泉誌刊行委員会/編、発行 1989)
・『那須の文化誌 自然・歴史・民俗を読む』(那須文化研究会/編 随想舎 2006)
・『那須野の地名』(大田原晴雄/著 那須文化研究会 1989)
・『日光道中と那須野ケ原』(阿部昭/編 吉川弘文館 2002)
・『日本古地図大成』(海野一隆/〔ほか〕編 講談社 1972)
・『奥州道中分間延絵図 第2巻 佐久山 八木澤陣屋 大田原 鍋掛 越堀』(児玉幸多/監修 東京美術 2000)
・『那須記』(黒尾東一/編著、発行 1969)※写本那須記を編集発行
・『下野国誌 校訂増補』(河野守弘/著,佐藤行哉/校訂 下野新聞社 1989)※嘉永三年初版の校訂増補
・『黒羽藩政史料 創垂可継』(黒羽町教育委員会/著 柏書房 1968)
・『栃木県郷土誌』(田代善吉/著 歴史図書社 1981) ※昭和17年下野史談会発行の復刻
・『栃木県那須郡誌 復刻版』(千秋社 2001)※「那須郡誌」大正13年、「那須群制史」大正12年を合本収録
・『増補那須郷土誌 再編復刻版』(渡辺金助/著 ヨークベニマル 1994)※大正6年金林堂発行の復刻
・『那須野ヶ原』(佐藤一誠/著 交通世界社 1901)
・『那須の史蹟と名勝』(栃木県/編、発行 1926)