レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019/10/09
- 登録日時
- 2019/12/26 00:30
- 更新日時
- 2019/12/26 00:30
- 管理番号
- 滋2019-0017
- 質問
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解決
『中江藤樹』(清水安三著、東出版、1942年)p.189に載っているC図について教えてほしい。 C図は、藤樹書院にある神龕(しんがん)の盾間の桁の左側にある模様です。
同書ではこの図を「出牛」と解説してますが、中国では別の漢字になるらしいので、中国での読み(漢字)もあわせて回答ください。
※事前調査資料
キリシタン文字の関連資料:『活字印刷の文化史』、『キリシタンの文化』、『漢字字体史研究』
- 回答
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この図は、『藤樹書院神龕の扉の易卦について』清水安三著によると、「藤樹の祖父吉長の位牌を安置してある神龕の正面左扉に彫られてある易卦[エキケ]である。この絵模様〓[注:質問のC図と同じ図]は二字の漢字「出牛」を模様化せるものである。」と説明しています。
出牛については、上記の図書には次のように書かれています。
「往時キリシタン達は、神と呼ばないで、でうすでうすと言っていた。そして漢字には提宇斯と當てはめていたが、この埼玉縣の出牛村の地名から推して「出牛」ともかいたことがわかる。」
また、『山里の殉教者たち』では、「同村[注:渡瀬村]から南へ約八キロ、秩父路へぬける中間地点にあたる「出牛峠[でうしとうげ]」は、実は「デウス峠」が訛ったものだ、という説がある。」と表記されています。
さらに、同書において、「「デウス」とは、「神」を意味するポルトガル語である。新井白石は、その著「西洋紀聞」の中で、「デウスといふもの、漢に訳して天主[テンチュ])とす。これ、彼れ此れ声音(発音)近きにとれること、たとえばイエズス(イエス・キリスト)と訳して耶蘇[セース])とするがごとし。蛮字[ばんじ](ポルトガル語)もとより読むべからず。漢字を借りて、その音声をうつせるのみ。その義(意味)蛮語にありて、漢字にあるにはあらず。」として、デウスは「天の主」という意味ではなくて「天地万物の創造者」を表すポルトガル語であるとして指摘しているが、当時「デウス」なる言葉を耳にした郷里の人達が、それを「出牛」と表記したとしても別に不思議ではなく、[以下略]」と記載しています。
さらに、『日本キリスト教歴史大事典』の「神」の項目では、次のように解説されています。
「一方、84年以来(※1584年を指す――引用者註)布教が進められた中国では、当初から<天主>を用リッチ,M.(※マッテーオ・リッチを指す――引用者註)の『天主実義』などの日本流入により、江戸初期の知識人の間ではキリシタン宗を天主教とも称した。」
このように中国では1500年代のキリスト教伝来以来、Deus=神は、天主と表記されていたことになります。
なお、このことについて、「基督教用語 「天主」について ―その成立についての考察― 」という論文があります
( https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=4780&item_no=1&page_id=13&block_id=21 関西大学学術リポジトリ参照 2019.11.8現在)。
これによれば、訳語「天主」の成立について、「未だ日中両国において互いに対立する見方、即ち、音訳日本語説、音訳中国語説、意訳日本語説、意訳中国語説が併行しているのが現状である」とされ、この論文では、「『天主』は日本の音訳語でも、中国の音訳語でもなく、意訳語と見なすべきであるが、日本と中国のどちらにおいても先に意訳されたのかは未詳である。」と結論されています。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本思想 (121 8版)
- 参考資料
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- 1 中江藤樹 清水安三∥著 東出版 1967年 5-1215- 67 pp.189-192
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2 中江藤樹の研究 清水安三∥著 桜美林学園出版部 1948年 S-1215- 48 pp.192-193(「出牛」の写真あり) -
3 藤樹書院神龕の扉の易卦について 清水安三∥著 基督教研究会 1957年 5-1915- 57 pp.102-103 -
4 山里の殉教者たち 北沢文武∥著 さきたま出版会 1994年 3-1982-キ pp.16-17 -
5 日本キリスト教歴史大事典 日本キリスト教歴史大事典編集委員会∥編集 教文館 1988年 R-1903-ニ p.321 -
1 大航海時代叢書 第Ⅱ期 8 中国キリスト教布教史 1 岩波書店 1982年 2-2909-8 -
2 大航海時代叢書 第Ⅱ期 9 中国キリスト教布教史 2 岩波書店 1983年 2-2909-9 -
3 角川日本地名大辞典 11 埼玉県 「角川日本地名大辞典」編纂委員会∥編 角川書店 1980年 291.03 pp.818-819
- キーワード
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- 中江藤樹
- 出牛
- キリスト教
- 藤樹書院
- 清水安三
- デウス
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 図書館
- 登録番号
- 1000271592