「写真結婚」とは、在米日系移民の独身男性と日本在住の女性との間で行われた見合い結婚の一種です。通常の見合いと異なるのは、結婚する二人が直接顔を合わせずに婚姻に合意し、女性は夫となる男性の写真をたよりに海を渡ったという点です。彼女たちを「写真花嫁」と呼びました。
「写真結婚」が行われた背景には、1908年(明治41年)に結ばれた日米紳士協約があります。これは当時、米国で日本人移民の排斥が活発化していたため、日本政府が米国政府と協議し、自主的に移民を制限したもので、労働移民の渡航が停止され、渡航者は観光客、学生、米国在留者の家族に限られました。こうして新たな移民が制限された結果、日本に一時帰国する時間と費用がない在米日系移民の男性は、知りあいに写真を送り、写真による見合いを依頼しました。日本で縁談成立・入籍が行われ、戸籍上の家族となれば、女性は米国に渡航することが可能となったためです。
しかし、この「写真結婚」という方法は移民排斥運動において激しい非難を受けました。道徳上問題であるという他に、「写真花嫁」が出産する子供が年々増加し、米国籍を持つ子供名義で土地を購入する日系移民が増えたためです。移民排斥論者は、「写真結婚」を禁止しなければ、将来白人は駆逐されてしまうと危機感を煽りました。こうした状況を受け、日米政府間で協議した結果、日本政府は米国政府による排日運動抑制及び排日的立法の阻止と引き換えに「写真結婚」を禁止し、1920年(大正9年)2月末をもって「写真花嫁」への渡米旅券発給を停止しました。しかし、日本政府の期待に反し、米国では1924年にいわゆる排日移民法が成立し、以後1950年代に法規が改正されるまで、新たな移民は全面的に禁止されるに至りました。
「写真結婚」に関する史料には、外務省記録「米国ニ於ケル排日問題雑件 写真結婚廃止問題」があり、このうち主要なものは『日本外交文書』大正8年第一冊に採録されています。