デヴァターは固有名詞ではないので、どのような女神ということはできないようです。
『國學院雜誌 106(3)』,p.1-13, 2005-03
宮元 啓一 /著「デーヴァター(devata)について (特集 インドにおける神概念の諸相)」
でデヴァターについて詳しく解説しています。(宮元氏の論文はインターネットで公開されています)
p.2「本稿で問題とする「デーヴァター」というのは、「デーヴァ」にいわゆる抽象名詞を作る接尾辞「ター」が付いたものである。」
宮元氏は、論文の中で、『ブッダ:神々との対話 サンユッタ・ニカーヤⅠ』(岩波文庫 1986)を訳した中村元氏の「デーヴァター」の考察を紹介しています。
以下は中村氏の解釈です。
p.3「「devatAはdevaのあとに、抽象名詞としての語尾 -tA が付加された抽象名詞であって、神たる状態('condition or tate of a deva')、神性(divinity)を意味する。さらに神的な存在(divine being, deity, fairy)を意味する。実質的にはdevaと同じことであり、崇拝される存在はみなdevatAと呼ばれる。わが国の学者はこの語を「神格」と訳すことがある。天神神祇というのがそれに当るであろう。雲井昭善『巴和小辞典』には「神祇」とも訳している。
(中略)
長井真琴先生は講義のうちで devatAは鬼神を意味し、devaよりも低級の神であると言われたことを記憶している。
(中略)
そうして最初期の仏教においては全体としてdevaはもと神を意味する語であるが、devatAあるいは神の子(devaputra)というときには、低次の神を意味すると言えよう。」
結論として宮元氏は下記のように記します。
p.12「「デーヴァター」は、「デーヴァ」の単なる抽象形ではなく、わたくしたちのすぐ身近に臨在する力、あるいは力を持つものとしての神、あるいは世界に内在し世界を流出せしめる力としての世界創造原理である。」
また、下記資料にも「デヴォダ」の説明が記載されていますが、固有名詞ではありません。
『アンコールワットの彫刻』(伊東照司/著 雄山閣 2009.5)
p.15「アンコールワットの美術第一の魅力が、第一廻廊の大壁面浮彫にあれば、第二には、アンコール・ワットの建物全体に彫りつくされた、女神像の姿にある。(略)一般に「アプサラス」とか「デヴォダ」と呼ばれる。(略)デヴォダはクメール語で女神を意味する。」
補足として、インドの個々の女神について書かれた資料を紹介します。
『女神たちのインド』(立川武蔵/著 せりか書房 1990.6)
個々の女神の絵、像の写真があり、索引もついています。
『藝 1』,p.53-87, 2003-03-20
菅原 太/著「逸脱する造形 : アンコール・ワット女神像の変容 」
では、女神像(デヴァター)の浮き彫り像について解説しています。(こちらの記事はインターネットで公開されています)