レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021年07月25日
- 登録日時
- 2021/07/25 12:52
- 更新日時
- 2023/03/01 13:06
- 管理番号
- Obu2021-1
- 質問
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解決
江戸時代後期の治水工法「猿尾(さるお)」について調べたい。
①「猿尾」は尾張だけなのか、全国的にあるものなのか?
②「猿尾」の名称について
③治水工事について、地域で作るのか藩で資金を調達したのか?
- 回答
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①「猿尾」は木曽三川に固有の石積み水制のこと。
②猿の尾のように、川に細長く突き出していたことから付された名称といわれる。
猿の尾のように細長い堤を川に突き出し、水勢を弱めるようにしたもので、石で被覆されたものが多い。
③幕府より命ぜられた藩が費用を負担した。(木曾三川は薩摩藩が大名お手伝い普請によって負担した。)
『国土交通省 中部地方整備局 木曽川下流河川事務所』
(https://www.cbr.mlit.go.jp/kisokaryu/KISSO/kobore66.html)
より、参考文献
①『尾張名所図絵』(宮戸松斎/著)
・「木曽川の水激流して、こなたの堤ややもすれば決し易き故、大造なる石篭に大岩を入れて幾重も積み上げ、その長さ十余間、水下へ斜に張り出させて、その篭にて水を除け、堤の平安を得せしむ。当国にても石篭を張り出させるを猿尾という方言なり。」と記載があるとのこと。
(除籍資料の為確認できず。)
②『扶桑町史 上』1998(扶桑町教育委員会/編 他)
p286
・「豊臣秀吉が木曽川の堤を築くにあたって、川石を利用し、当地の篭職人を集めて蛇篭を作らせ、それに丸石を詰めこみ築堤を試みたのが初めとされる。」
③『尾張徇行記』の北山名村の項
・「此村ハ大川ノ岸ニテ水アテツヨキ所故、猿尾九ヶ所ホトアリ、百間猿尾長九十六間横手猿尾長三百二十五間大猿尾長百三十間新猿尾長六十五間小牧猿尾長九十間横二十間中猿尾長三十四間札猿尾六十二間滑猿(尾)長六十四間横八十間金猿尾長二十八間、此猿(尾)ノ間ニ見取畠アリ」
(『扶桑町史 上』p286に記述あり。)
『大府地名考』2020(廣江安彦/著 )
p74
・「大猿尾」の地名について記述あり。
「1752(宝暦2)年横根村は180間(328m)の大猿尾を境川に築くとある」(出典は不明)
『川の百科事典』2009(高橋裕/編)
P350
・「猿尾とは:木曽三川に固有の石積み水制のこと。将監猿尾や手斧猿尾、横手堤猿尾、石田猿尾など沿川に固有名詞が付された猿尾が数多くあったが、現在石積み構造で残るものはほとんどない。猿の尾のように、川に細長く突き出していたことから付された名称といわれる。」と記述あり
『木曽川の水と尾張地域』1984(千田英元/著)
p144
・「3 猿尾 :水刎制(ミズハネセイ)の一種で、猿の尾のように細長い堤を川に突き出し、水勢を弱めるようにしたもので、石で被覆されたものが多い。
『尾張名所絵図』(宮戸松斎/著)
・川下の美濃側より草井の猿尾を画いた挿絵に次のような註がついている。「木曽川の水激流して、こなたの堤ややもすれば決し易き故、大造なる石篭に大岩を入れて積み上げ、その長さ千間(約1.8キロ)余、水下へ張り出させて、その篭にて水を除け、堤の平安を得せしむ。(以下略)と記述あり。
②・『木曽川の水と尾張地域』1984(千田英元/著)
p147
・「1608年から1609年にかけて、幕府は美濃代官岡田将監の設計により、美濃側の堤を改築させた。(中略)要所には二重、三重の堤防をつくり、猿尾が無数に作られた。(中略)尾張藩が親藩という権力によって、軍事上・治水上の見地から、美濃側の護岸増強に対し、対岸美濃の諸堤は御囲堤より低きこと3尺(約0.9m)なるべし、尾張藩の御囲堤がすすむまでは対岸諸藩の領分の普請は遠慮すべし などの不文律で、美濃側の増強を押えた。(中略)明治時代になるや、美濃側の住民達は、「もはや徳川様の時代は終った」とばかり、いっせいに堤の嵩上げを行なった。」
p149
・「徳川幕府の治水対策 幕府は水害の復旧ならびに堤防改修の際、4つの普請方法によっていた。
1.公儀普請 幕府が費用を負担し、百姓の日雇いで行うもの。
2.国役普請 幕府が地元民に国役金を賦課し、それを費用にあてて行なうもの。
3.御手伝普請 公儀普請を建前とし、諸藩に工事の助成を命じて行なうもの。費用のみを負担、または分担させる場合は御金お手伝いといった。
4.自普請 領主または住民の出願を認め、それを自費で行うもの。
p151
・③「幕府は、この水害復旧工事を含めた、木曽三川の治水工事実施計画書をつくり、大名お手伝普請をもってすることを決定し、(中略)木曾三川の治水工事のお手伝いをするよう薩摩藩に命じた。薩摩藩に命じた目的の一つは雄藩、薩摩藩の弱体化をねらったものである。」
※お手伝い:p149に解説あり。「一切の責任はお手伝いを命ぜられた藩が負わねばならなかった。しかも全額に近い経費を負担するのが常であった。」とある。
『木曽川上流部における治水工事の変遷と護岸・水制に関する調査・研究』2021(馬場真一/著)
p16
・②「猿尾」の名称について記述あり
・③治水工事について、地域で作るのか藩で資金を調達したのか? 部分の記述もあり
- 回答プロセス
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インターネット検索にて
『国土交通省 中部地方整備局 木曽川下流河川事務所』
(https://www.cbr.mlit.go.jp/kisokaryu/KISSO/kobore66.html)
上記ページより参考文献:
『尾張名所図絵』(宮戸松斎/著)
(除籍資料の為確認できず。)
『扶桑町史 上』1998(扶桑町教育委員会/編 他)p286「猿尾」
その他館内資料にて調査。
『大府地名考』2020(廣江安彦/著) p74「大猿尾(おおざるを)」
『川の百科事典』2009(高橋裕/編)p350→「猿尾」
『木曽川の水と尾張地域』1984(千田英元/著)p144「猿尾」、p149「第6節 宝歴の治水」→「1.徳川幕府の治水対策」
p151「6.薩摩藩に治水工事を』各箇所を紹介。
『木曽川上流部における治水工事の変遷と護岸・水制に関する調査・研究』2021(馬場真一/著)
『写真でたどる木曽三川いまむかし』2012(久保田稔・中村義秋/著)記述なし
『物語 日本の治水史』2017(竹林征三/著)記述なし
(ウェブ・ページ最終閲覧日2021.7.25)
- 事前調査事項
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・「刈谷市史」調査済み。
・大府市横根町に「大猿尾」の地名がある。
「Wikipedia」より抜粋
(https://ja.wikipedia.org/wiki/猿尾堤)
猿尾堤(さるおづつみ)は、江戸時代から明治時代に木曽三川、特に木曽川で多く築かれた堤防の一種で 洪水の際、水流をさえぎり水勢を弱め本堤防の決壊を防ぐ「出シ」と呼ばれる水制施設のことである。猿尾の堤(さるおのつつみ)、猿尾(さるお)ともいう。
河道とほぼ直角に、本堤から河川に向かって設けられた小高い堤防である。洪水の水流を受け止め、流れの勢いを落とし、堤防(本堤)を守る役割がある。堰の一種とも言える。長さは100mから300m程度。石で表面を覆っている場合が多い。
堤防に対して直角方向に築かれた構造物は荒川横堤を初めとする多くの地域で見かけられるが、猿尾堤という名称は、特に愛知県、岐阜県の木曽川沿い、特に岐阜県に限定されているようである。
猿尾堤の名の由来は、その形が猿の尻から伸びた尾に見えることからである。
現在は治水の問題上殆どが失われているが、痕跡を残す箇所が多く存在する。
- NDC
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- 河海工学.河川工学 (517 10版)
- 参考資料
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千田英元/編 , 千田英元. 木曽川の水と尾張地域. 千田英元, 1984.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I026306538-00 -
廣江安彦 著 , 廣江, 安彦. 大府地名考 : 地名の歴史と由来を読み解く. [廣江安彦], 2020.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I031214678-00 -
高橋裕 [ほか] 編 , 高橋, 裕(1927-) , 岩屋, 隆夫(1950-) , 沖, 大幹 , 島谷, 幸宏(1955-) , 宝, 馨(1957-) , 玉井, 信行(1941-) , 野々村, 邦夫 , 藤芳, 素生. 川の百科事典. 丸善, 2009-01.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000074-I000560203-00 , ISBN 9784621080412 -
扶桑町教育委員会 編集 ; 扶桑町史編集委員会 編集 , 扶桑町教育委員会 , 扶桑町. 扶桑町史 上. 扶桑町, 1998.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I096652406-00 -
久保田稔, 中村義秋 著 , 久保田, 稔, 1945- , 中村, 義秋. 写真でたどる木曽三川いまむかし. 風媒社, 2012.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023639439-00 , ISBN 9784833105576 -
竹林征三 著 , 竹林, 征三, 1943-. 物語日本の治水史. 鹿島出版会, 2017.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028194100-00 , ISBN 9784306094475 -
宮戸松齊著 , 宮戸, 松齊. 尾張名所圖繪. [名古屋地下鉄振興株式会社], 1988.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I007714459-00
-
千田英元/編 , 千田英元. 木曽川の水と尾張地域. 千田英元, 1984.
- キーワード
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- 猿尾
- 治水
- 尾張
- 木曽川
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000302148