レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021年04月23日
- 登録日時
- 2021/07/13 12:29
- 更新日時
- 2021/07/14 09:35
- 管理番号
- 0000110914
- 質問
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解決
山口県のことわざとして、夏の終わり、秋のはじめに吹く涼しい風のことを表す「女おどし」というものがあるか。10月に入って急に涼しい風が吹くけれども長続きせず、女たちが秋冬用の夜具や服を取り出すことからきているといい、20年位前の朝日新聞の気象欄に載っていた。現在でもこのことわざを使うことがあるかどうかも知りたい。
- 回答
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下記資料1及び2に収録されている以下の文献に「十月の女威し」あり。
資料1:兼常彌富・藤井禎輔「防長俚諺集(三) 佐々並俚諺集(二)」(「防長史学」2巻1号 1930 p74-77)
資料2:内田伸 編「防長叢書3 防長のことわざ」(1961 p21)
資料1には、意味として「一時急に寒くなるので冬物の用意の必要を女に感じさせるを言ふ」とある。「威」には「おど」の読みが振ってあるが、「女」には読み仮名なし。「佐々並」(ささなみ)は地名で、旧旭村、現在の萩市佐々並にあたる。
資料2には、意味として「十月になると急にひえこむこと」とある。読み仮名は振られていない。
なお、本書のことわざについて、編者は、まえがきで、自身で集めたものに加えて「防長史学誌」や「各市町村誌」からも拾ったとしており、県内の特定の地方で用いられたものかどうかは不明。
なお、資料3の「佐々並に伝わる俚言」の項には収録されていなかった。
また、資料4に、「嬶おどし」(藤元温子 作)という題の詩が収録されている。内容を確認したところ、詩句としては「嬶おどし」の語は使われていないが、内容としては、初秋の衣替えの季節をうたったもの。「嬶」には読み仮名なし。
同じく、中国新聞2001年10月22日生活A面の投稿記事(随筆)「こだま 「かかおどし」」に、既に亡くなっている投稿者(広島県豊田郡在住とある。)の母親が、かつて投稿者に「「かかおどし」言うて、秋口にいっとき急に寒うなるんは、はよう冬物の支度をせえ言うことなんよ」と言っていた、との記述がある。
「女おどし」の語が掲載されていた資料は比較的古いため、現在は使われていないことわざである可能性がある。
- 回答プロセス
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「聞蔵2ビジュアル」(朝日新聞)、「ヨミダス歴史館」(読売新聞)、「G-search新聞雑誌記事横断検索」にて、キーワード「おんなおどし」「おんな威し(脅し)」「女おどし」「女威し(脅し)」「おなごおどし」「おなご威し(脅し)」で検索、関係する記事なし。
山口県関係の方言語彙集・ことわざ集を確認
市町村史誌類の民俗の項を確認
当館雑誌記事検索にて、「ことわざ」「りげん」で検索してヒットした文献を確認
「かかあおどし」である可能性に思い当って、「聞蔵2ビジュアル」「ヨミダス歴史館」「G-search新聞雑誌記事横断検索」にて、キーワード「嬶おどし」「嬶威し(脅し)」「かかおどし」「かか威し(脅し)」「かかあおどし」「かかあ威し(脅し)」で、それぞれ検索。
Googleにて"嬶おどし"で検索、山口県立大学郷土文学資料センターの「郷土文学関係雑誌細目」のうち、「らくだ」のページがヒット。第9号に「嬶おどし」(藤元温子 著)という題の詩がある。内容を確認したところ、詩の章句としては「嬶おどし」の語は使われていないが、内容としては、初秋の衣替えの季節をうたったもの。
なお、藤本温子の著作を確認したが、この詩及び解説は含まれていなかった。
天気・風に関する資料を確認
倉嶋厚 著『季節みちくさ事典』(東京堂出版,1995.4)p228-229に、鹿児島のことわざとして、「十月の女だまし」を紹介している。引用元の尚学図書 編集『故事・俗信 ことわざ大辞典』(小学館,1982.4)p559によると、以下のとおり。
「陰暦九月になると涼しくなるが、十月には小春日和のあたたかい天候になり、十一月には急に寒さが来る。十月にうっかりして冬物の用意を忘れないようにせよという教え。(大隅地方の諺。「大隅」)」
なお、同書の「おんな」p228-232、「おなご」p207、「かかあ」p243の項には記述がなかった。
また、『季節みちくさ事典』では、鹿児島で聞いた話として「晩秋に突然現れた寒さに、主婦があわてて冬支度すると、またあたたかさが戻る」という意味で、「鹿児島のおなごだましといふ寒さ」(川井田翆歩、『南日本歳時記』(南日本新聞社))の句を引いている。
「おなごだまし」については、原田種夫 ほか著『九州方言考』(読売新聞社,1982.6)に宮崎県諸県地方の方言として、「秋口に一時的に寒くなることがあるが、その季節の移りかわりの急激さをいい、女性があわてて冬支度してだまされる意という。」とある。
なお、このほか確認したが関係する記述がなかった資料は以下のとおり。
市町村史(誌)のうち、民俗を扱った章または巻があるもの(方言、俚言、衣服、年中行事に関する記述を確認)
下関市市史編修委員会 編修『下関市史 民俗編』(下関市,1992.3)
豊浦町史編纂委員会 編纂『豊浦町史 3 [民俗編]』(豊浦町役場,1995.11)
豊北町史編纂委員会 編『豊北町史 (二)』(豊北町,1994.3)
宇部市史編纂委員会 編纂『宇部市史 自然環境・民俗方言篇』(宇部市史編纂委員会,1963.5)
山口市 編集『山口市史 史料編 民俗・金石文』(山口市,2015.3)
徳地町史編纂委員会 編集『徳地町史 改訂版』(徳地町役場,2005.9)
秋穂町史編集委員会 編『秋穂町史』(秋穂町,1982.3)
小郡町史編集委員会 編『小郡町史』(小郡町,1979)
阿知須町史編さん委員会 編『阿知須町史』(阿知須町,1981.8)
波多放彩著『阿東町誌』(山口県阿武郡阿東町,1970)
萩市史編纂委員会 編『萩市史 第3巻』(萩市,1987.3)
川上村史編集委員会 編『川上村史 資料編』(川上村,2000.3)
田万川町史編さん委員会 編『田万川町史』(田万川町,1999.3)
須佐町誌編集委員会 編『須佐町誌』(須佐町,1993.3)
波多放彩 著『福栄村史』(福栄村史編集委員会,1966.5)
むつみ村教育委員会 編『むつみ村史』(むつみ村,1985.9)
防府市史編纂委員会 編集『防府市史 史料 1』(防府市,2000.3)
岩国市史編纂委員会 編纂『岩国市史 上』(岩国市役所,1970)
松岡 利夫『由宇町史』(由宇町史編纂委員会,1966)
錦町史編さん委員会 編集『錦町史 民俗編』(錦町,1995.9)
中本 三十一 編『美川町史』(美川町,1969)
光市史編纂委員会 編『光市史』(光市,1975)
大和町史編纂委員会 編『大和町史』(大和町,1983.10)
長門市史編集委員会 編『長門市史 民俗編』(長門市,1979.12)
偉人「村田清風」を生んだ三隅町の歴史と民俗編集委員会 編『偉人「村田清風」を生んだ三隅町の歴史と民俗』(三隅町,1973)
日置町史編纂委員会 編『日置町史』(日置町,1983)
油谷町史編纂委員会 編『油谷町史』(油谷町,1990.8)
柳井市史編纂委員会 編集『柳井市史 総論編』(柳井市,1988)
大畠町史編纂委員会 [編集]『大畠町史』(大畠町,1992.6)
美祢市史編集委員会 編『美祢市史』(美祢市,1982)
美東町史編さん委員会 編『美東町史 改訂版 通史編』(美東町,2004.11)
秋芳町史編集委員会 編『秋芳町史 改訂版』(秋芳町,2004.3)
新南陽市史編纂委員会 編『新南陽市史』(新南陽市,1985.11)
熊毛町史編纂委員会 [編集]『熊毛町史』(熊毛町,1992.3)
鹿野町誌編纂委員会 編集『鹿野町誌 増補改訂』(鹿野町,1991.7)
小野田市史編集委員会 編集『小野田市史 民俗と文化財』(小野田市,1987)
山陽町史編集委員会 編集『山陽町史』(山陽町教育委員会,1984.3)
久賀町誌編纂委員会 編『山口県久賀町誌』(久賀町誌編纂委員会,1954.3)
大島町役場 編集『周防大島町誌 復刻版』(大島町役場,1994.11)
橘町史編集委員会 編『橘町の民謡・伝説集 俚諺・俗信・謎々集』(橘町,1980.3)
和木町史編纂委員会 編『和木町史』(和木町,2003.10)
田布施町史編纂委員会 [編]『田布施町史』(田布施町,1990.12)
阿武町史編さん委員会 編集『阿武町史 下巻』(阿武町,2000.3)
当館作成の県内雑誌記事索引により「ことわざ」「りげん」のキーワードで検索しヒットした山口県関係雑誌記事
伊藤作一「防長俚諺集(一) (小野田地方)」(「防長史学」1巻1号,1930,p35-39)
藤井禎輔「防長俚諺集(二)…佐々並村地方」(「防長史学」1巻2号,1930,p34-36)
古谷武雄「関の諺」(「郷土」25集,1979,p75-76)
吉岡教一「ことわざ俚言から考える」(「宇部地方史研究」10号,1982,p117)
古沢政士「天候に関する諺」(「仁幾女」第1号,1984,p42-43)
「豊北町で使われる方言・ことわざ」(「仁幾女」第6号,1989,p54,58)
林芙美夫「田布施地方の諺(1)-(6)」(『田布施地方史研究会会誌』p36-37,46-48,77-78,119-120,135-136,142-144)
山中敬子「「俚諺」について」(「美須美」1号-10号,1990-1999)
関谷顕「諺(ことわざ)」(「歴考」11号,2008,p6-7)
ことわざを収録した山口県関係資料
大岡昇『岩国の民俗と俚諺』(岩国市立岩国図書館,1974)
徳山農業改良普及所 編『下松地方に伝わる言い伝えことわざ集』(徳山農業改良普及所,1975)
山中六彦『山口県方言辞典 新訂』 (マツノ書店,1975)
阿東町郷土史研究会 [編]『史跡と民話の町 その2』(阿東町郷土史研究会,1975.2)
蔵田契介 編『俚諺方言集』(蔵田定雄,1979)
瀬田静香『八代の民俗 第2輯』(瀬田静香,1981.12)
秋穂町中央公民館 [編]『ふるさと秋穂の故事ことわざ集』(秋穂町中央公民館,1991.8)
林芙美夫 編著『田布施地方の口承文芸 民話・民謡・ことわざ』(田布施町教育委員会,1998.5)
ふるさと平田を見つめる同好会 編集『方言・ことわざ集』(ふるさと平田を見つめる同好会,2008.1)
西川暁『御庄ウォーク』([出版者不明],2017.12)
有元光彦 編『山口県のことば』(明治書院,2017.5)
- 事前調査事項
- NDC
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- 伝説.民話[昔話] (388 9版)
- 参考資料
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- 1.兼常彌富・藤井禎輔. 防長俚諺集(三) 佐々並俚諺集(二). 防長史談会, 1930. 防長史学 2巻1号 p74-77
-
2.防長民俗叢書発行所 , 防長民俗叢書発行所 , 伊藤 武 , 内田/伸 , 坂倉 道義 , 内田/伸 , 内田/伸. 防長民俗叢書 1-5. 防長民俗叢書発行所, 1960.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I068478994-00 (3-p21) -
3.萩農業改良普及所 [編] , 萩農業改良普及所. わがふるさと佐々並 : 生活誌. 萩農業改良普及所, 1987.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I060845915-00 (p103-107) - 4.藤元温子. 嬶おどし. 1978. らくだ 9 p. p33
- キーワード
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- 俚諺
- ことわざ
- 季節
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土 言葉
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000301698