レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021/05/18
- 登録日時
- 2021/06/02 00:30
- 更新日時
- 2021/08/19 11:54
- 管理番号
- 9590276
- 質問
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未解決
「真福八端」とは、カトリックで新訳聖書の「マタイによる福音書」の第5章3節から10節をさす言葉である。
なぜ「真福八端」と呼ぶようになったかという歴史的な経緯や、この言葉を最初に使った人は誰かを調べたい。
また、古い聖書の中に、「真福八端」という言葉が使われているかを確認したい。
- 回答
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「真福八端」という言葉の日本における歴史的経緯は、貴館調査済の資料①にあるとおり「漢籍天主教書による訳語」で、中国における訳語が日本にも流入し、日本のカトリック教会でも用いられたというのが一説であると考えられます。
パントーハの『七克』に真福有八端の語があり、平田篤胤の『本教外篇』に引用されていることは、資料②に記載があります。
『七克』と『本教外篇』の関係については、資料③、④にも言及があります。
『七克』は1614年に北京で刊行されたということで(資料③)、インターネットで閲覧可能な『七克』(資料⑤、⑥)に「真福有八端」とあるのは確認できました。
資料⑧、⑨で日本カトリック教会による最初の聖書であるとされる『聖福音書』(資料⑦)を確認したところ、「真福八端」の記載がありました。
その他の古い聖書での使用状況や歴史的経緯の詳細は、合理的な検索手段のない調査、精読を伴う網羅的な調査となり、当館のレファレンス・サービスの範囲を超えるもので、お受けできません。
また、資料の詳細については、利用者ご自身でご確認ください。
【 】内は国立国会図書館請求記号です。
資料①
日本キリスト教歴史大事典編集委員会 編『日本キリスト教歴史大事典』教文館、1988.2【HP2-E1】
* 「真福八端」の項(p.706)に、「漢籍天主教書による訳語」である等の説明があります。
資料②
海老沢有道[著]『日本の聖書:聖書和訳の歴史 (講談社学術文庫)』講談社、1989.12【HP13-E52】
* 第二章の「4 平田篤胤の『本教外篇』」(pp.83-85)に、同書が天主教書の影響を受けていること、パントーハの『七克』から改作されずに引用された文言に「真福有八端」とあること等が紹介されています。
資料③
上智学院新カトリック大事典編纂委員会 編『新カトリック大事典 第2巻』研究社、1998.1【HP2-G5】
* 「七克」の項(p.1221)に、「明代の中国で活躍したスペイン人のイエズス会会員パントーハ(漢名,龐廸我)著のキリスト教倫理書(中略)1614年北京刊」等の説明があるほか、本多利明『西域物語』、平田篤胤『本教外篇』との関連等、江戸時代の日本における状況についても記載があります。
* 全国漢籍データベース( http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/kanseki?detail )で、書名に「七克」と入力して検索すると、京都大学等で1614(万歴42)年刊の漢籍を所蔵していることがわかります。
資料④
坂本春吉 著『平田篤胤の復古神道とキリスト教:本教外篇の研究』坂本イナ、1986.7【HA26-E2】
* p.4に「その後、文化三年、三十一歳で『本教外篇』を書いているが、(中略)下巻は龐廸我(パントハ)著『七克』からの抜き書きであるから」とあります。
資料⑤
タイトル 七克. 巻之1-7 / 龐廸我 撰述
著者/作者 Pantoja, Diego de, 1571-1618
出版事項 京都(北京) : 始胎大堂, 1798
* 書誌事項は早稲田大学図書館のデータによります。
https://waseda.primo.exlibrisgroup.com/permalink/81SOKEI_WUNI/b5ftmg/alma991009677749704032
「フルテキストを表示」のリンクをクリックすると表示されるページ( https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_d0411/ )のうち、1のPDFファイルの52ページ右に「真福有八端」の記載があります。
資料⑥
タイトル 七克. 巻之1-7 / 龐廸我 撰述
著者/作者 Pantoja, Diego de, 1571-1618
京都(北京) : 始胎大堂, 1798
* 書誌事項は早稲田大学図書館のデータによります。
https://waseda.primo.exlibrisgroup.com/permalink/81SOKEI_WUNI/b5ftmg/alma991009049909704032
* 「フルテキストを表示」のリンクをクリックすると表示されるページ( https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ha07/ha07_03117/ )のうち、1のPDFファイルの52ページ右に「真福有八端」の記載があります。
資料⑦
高橋五郎 訳『聖福音書 上』天主公教会、明28,30【特18-693】
* 本書が日本カトリック教会による最初の聖書であることは、資料⑧、⑨に記載があります。
* p.40に真福八端の記載があります。
国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開しています。
p.40のURL:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/825594/29
資料⑧
伊藤敦子「聖書和訳の歴史」(『Katholikos = カトリコス:南山大学カトリック文庫通信』(8) 1997.7.1 pp.2-3【Z21-B30】)
* p.2に、「日本カトリック教会初の和訳聖書は、『聖福音書 上』(1895(明治28)年刊)と『聖福音書 下』(1897(明治30)年刊)」の記載があります。
* 国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開しています。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8215088/1
資料⑨
岡村 光章「国立国会図書館所蔵聖書目録」(『参考書誌研究』(34) 1988.7.25 pp.29-76, 表2枚【Z21-291】)
* 国立国会図書館所蔵の聖書についてまとめられています。資料⑦については、p.53に「日本カトリック教会における最初の聖書」として挙げられています。
* 国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開しています。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3051262?tocOpened=1
〔主な調査済資料・ウェブサイト〕
○聖書の和訳について
秋山憲兄 著『本のはなし:明治期のキリスト教書』新教出版社、2006.6【HP71-H30】
鈴木範久 著『聖書の日本語:翻訳の歴史』岩波書店、2006.2【HP13-H107】
吉野政治 著『明治元訳聖書成立攷 (研究叢書;528)』和泉書院、2020.10【HP13-M55】
○聖書の漢訳について
塩山正純 著『初期中国語訳聖書の系譜に関する研究』白帝社、2013.2【HP13-L9】
村岡典嗣 著『日本思想史研究 増訂』岩波書店、1940【121.02-M958n-(th)】
* 「漢譯聖書源流考」の項(pp.441-465)があります。
* 国立国会図書館デジタルコレクション(国立国会図書館/図書館送信参加館内公開)
ウェブサイトの最終アクセス日は2021年5月17日です。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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・「真福八端」を『日本キリスト教歴史大事典』で調べると、「キリスト山上の垂訓中のマタイ5:3-10をいう。漢籍天主教書における訳語で、明治以来のカトリック教会でも用いられた。」とあり。
・質問者から、『七克』、『本教外篇』などの古い書物に出ているらしいとの情報あり。国立国会図書館デジタルコレクションにて平田篤胤の『本教外篇』に、「真福八端」を確認( https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2565329/11 )。『本教外篇』は、『七克』(Pantoja, Diego de)を引用したとされるため、古典籍総合データベースにて『七克』を調べたが確認できず。また明治以降の古い聖書にて、「真福八端」は確認できず。
- NDC
-
- キリスト教 (190 10版)
- 参考資料
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 人文(レファレンス)
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000299744