レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 20191129
- 登録日時
- 2021/08/27 00:30
- 更新日時
- 2021/08/29 16:24
- 管理番号
- 中央-2021-18
- 質問
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解決
ワインに生じるコルク臭のような香りの原因物質について、次の3点が知りたい。
(1)コルク汚染ではなく発酵醸造段階で生じた場合の原因や原因物質は何か
(2)その原因物質は清潔な醸造容器に移し替えることでしばらくすると消えるか
(3)人体に対する害はあるか
- 回答
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都立図書館蔵書検索を、件名<ぶどう酒><におい>やキーワード<ワイン><香り>で検索したほか、論文が検索できるデータベースを<ワイン><コルク><臭><原因>等のキーワードを組み合わせて調査し、該当した資料を調査した。
なお、以下の調査結果には、後日追加で調査した内容も含まれる。
(1)コルク汚染ではなく発酵醸造段階で生じた場合の原因や原因物質について
コルク臭の基本的な発生原因は、コルク材の汚染のようであるが、次の資料1~5にそれ以外の発生原因に関する記述が見出せた。
資料1
「第20章 ワインの欠陥」のうち、p.443-444「カビによる汚染」の項目に関連する記述がある。
コルク臭全般の原因物質について「コルク臭の原因物質は(中略)「2,4,6-トリクロロアニソール(TCA)」であり、これはコルクガシの樹皮の割れ目に存在するアオカビと、木材の防腐剤として使用されるフェノール類、そして殺菌する際に使用する塩素系化学物質との反応によって生成する」と書かれている(p.443)。
また、その前の段落には、コルク汚染以外によるコルク臭の原因として、次のような記述がある。
「コルク臭にいくらか似た土の香りを持つブドウ品種もある(中略)さらに、酸化などほかの要因がにおいに関係している場合もある(p.443)」
なお、コルク臭については、「第17章 パッケージ素材」のうち、p.367-369「打栓用の材料 ・天然コルク」にも関連の記述がある。
資料2
p.250-251「第4章 3-9) コルク不良による品質劣化」
「コルク臭の主な原因物質は、2,4,6-トリクロロアニソール(TCA)あるいは2,4,6-トリブロモアニソール(TBA)である」という記述があり、発生の経路について解説している。
コルク材の汚染以外の経路としては、p.250-251に次のような記述がある。
「TCAがワイナリー全体に蔓延し、数本の特定のワインだけでなく、製造したワイン全体が汚染された事例も発生している。これは、木樽、出荷に使う木パレット、セラーの木材等がTCAに汚染され、それがワインに移るという順番で発生する。(中略)タンパク安定処理に使うベントナイトもTCAを吸着する特性があるので、注意が必要である」
なお、p.8-10「第1章 1-2)-(4) ワインの欠陥臭(オフフレーバー)」のp.9にも、ワインのオフフレーバーとその生成原因等をまとめた表(「表2 ワインのオフフレーバー」)があるが、ここで「コルク臭(ブショネ)」の「生成原因」として挙げられているのは、「コルク材のカビ汚染と残留塩素の反応」のみである。
資料3
「第2部 第18章 理想のワイン栓を求めて」の「コルク―たぐいまれな天然物質」の項目のうち、p.294-295「TCAの発生源」に関連する記述がある。「TCAはコルクだけに発生するわけではないし、TCAだけが原因でコルク臭が生まれるわけでもない」としたうえで、TCA以外の原因物質として、「TCAではないクロロアニソール類」や、2004年に新たに発見されたものとして「2,4,6-トリブロモアニソール(TBA)」を紹介している(p.295)。
なお、TBAについては、「TBAの前駆物質はTBP(トリブロモフェノール)で、TBPは建物内で殺虫剤として使われる物質(中略)TBPが使われたことがあれば、樽も、コルクも、プラスチックも、すべてTBPに汚染される可能性がある」と書かれている(p.295)。
資料4
p.426-432「ワイン中のTCAが香りに及ぼす作用と仕組み」(加藤寛之)
「5.TCAの分析例 1.ワインの例」で、コルク材の汚染以外の例として、ワインの樽を貯蔵している貯蔵庫が原因の事例を紹介している。
この事例における原因物質は、「2,4,6-トリブロモアニソール(TBA)」とある(p.429)。
なお、この記事は、「J-STAGE」(科学技術振興機構)でインターネット公開されている。
https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan.109.426
資料5
p.177-184「コルクからのカビ臭原因物質(ハロアニソール)除去技術」(但馬良一)
コルクからのカビ臭問題について、「最も頻度の高いのがコルクを起源とするものである」としたうえで、「コルクの外に(中略)醸造室などの建材や土壌が起源になり得ることも示唆されている」と書かれている(p.178)。
こちらの記事も、「J-STAGE」でインターネット公開されている。
https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan.107.177
なお、次の資料6は、不快臭も含むあらゆる香りの正体や、 においと味わい等について解説している資料で、ワインの香りに関する章もあるが、コルク臭に関する記述は見出せなかった。
資料6
p.2-3「これが、ワインの中に感じるにおい。」の図では、においをあらわす言葉、123種が円形の図(カラー)で表され、動物、乳製品、還元臭、酸化臭等のにおいが分類されているが、コルクやカビに該当するものはない。
(2)その原因物質は清潔な醸造容器に移し替えることでしばらくすると消えるか
コルク臭の原因物質について、清潔な容器に移し替えるだけで消えると書かれた資料は見出せなかった。
関連する記述があった、資料1及び資料5を紹介する。
資料1(再掲)
p.444に「TCAの成分は調理している間に蒸気とともに揮発する」との記述がある。
資料5(再掲)
ワイン自体からの除去方法ではないが、コルクからのカビ臭関連物質の除去方法として、「水蒸気処理は有効」と書かれており、具体的な実験結果が示されている(p.183)。
(3)人体に対する害はあるか
コルク臭がするワイン全般についての記述だが、こちらも同じく資料1に関連の記述が見出せた。
資料1(再々掲)
「このにおいがするワインは無害ではあるが、飲めた代物ではない」とあるほか(p.443)、「TCAによって汚染されたワインでも、料理酒としてならば使用できる」とも書かれている(p.444)。
【調査した主なデータベース】
・「CiNii Articles」(国立情報学研究所) https://ci.nii.ac.jp
・「J-STAGE」(科学技術振興機構) https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja
なお、以上のデータベース等の最終検索日及び最終アクセス日は、2021年8月3日である。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 食品工業 (588 9版)
- 参考資料
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- 【資料1】イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門 / ディヴィッド・バード 著,佐藤圭史,村松静枝,伊藤伸子 訳 / エクスナレッジ / 2019.12 <588.5/5834/2019>
- 【資料2】新ワイン学 / 戸塚昭, 東條一元 編集幹事, 清水健一 [ほか]執筆 / ガイアブックス / 2018.12 <588.5/5798/2018>
- 【資料3】新しいワインの科学 / ジェイミー・グッド著, 梶山あゆみ 訳, 藤見利孝 監修 / 河出書房新社 / 2014.11 <588.5/5596/2014>
- 【資料4】雑誌:日本醸造協会誌 109巻 6号(2014年6月) / 日本醸造協会 / 2014.6
- 【資料5】雑誌:日本醸造協会誌 107巻 3号(2012年3月) / 日本醸造協会 / 2012.3
- 【資料6】においと味わいの不思議 知ればもっとワインがおいしくなる / 東原和成 [ほか]著, 鹿取みゆき ナビゲーター / 虹有社 / 2013.9 <498.5/6482/2013>
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000303740