レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020年09月11日
- 登録日時
- 2020/12/19 12:03
- 更新日時
- 2020/12/20 15:42
- 管理番号
- 0000110871
- 質問
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解決
「外国旅券規則」(明治33年6月外務省令第2号)第2条に、旅券下付に係る願書の記載事項として、「氏名、本籍地、身分、族称、年齢、職業、旅行地名、旅行ノ目的」とあるが、明治35年1月の「山口県廰 外國旅券下附表」(外交史料館蔵)では、「旅券番号、氏名、族称、身分、本籍地、年齢、保証人又は移民取扱人の氏名若は社名、旅行地名、旅行目的、下附月日」とあり、項目が異なっている。旅券の申請は所在地の官庁に申請することになっているが、山口県における旅券下付の根拠法令について知りたい。
- 回答
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「外国旅券規則」(明治33年6月外務省令第2号)と、「山口県庁外国旅券下付表」(明治35年1月)との主な記載事項の差は、後者に「保証人又ハ移民取扱人ノ氏名若ハ社名」が追加されていることだと思われる。
この追加事項については、当時、移民として海外に赴く場合、国の「移民保護法」と、それを承けた県の「移民保護法及海外旅券規則施行ニ関スル規定」により、仲介する「移民取扱人」か、または2名の保証人を届け出る必要があったため、記載されているものと思われる。
明治35年(1902年)1月当時の県の旅券に係る規程として、「移民保護法及海外旅券規則施行ニ関スル規定」(明治33年3月16日県令第26号)がある。同規定の本文は、「防長新聞」明治33年(1900年)3月20日付け1面(資料1)に掲載されている。(助詞や送り仮名がひらがなで表記されている。)
参考までに、同規定における旅券下付に係る記載事項については以下のとおり。(引用に当たって、漢字は新字体とした。以下同じ)
第一条 渡航の許可又は旅券の下付を得んとする者は其の願書に渡航の目的、年限、本籍、住所、職業、族称、年齢及生年月日を詳記し氏名は傍訓を付し戸籍謄本を添付すべし(以下、第2条まで略。家族等の渡航に関する規定)
第三条 移民保護法施行細則第二条第三条第四条に依る保証人は二人とす(以下略。保証人の条件等)
上記県規定の第3条に記載された、明治35年1月当時の「移民保護法施行細則」は、明治29年5月27日外務省令第3号と思われる。同細則第2-4条は以下のとおり。
第二条 渡航ノ許可ヲ受ケント欲スル移民ハ渡航地名、渡航ノ目的及渡航年限ヲ詳記シ、原籍地ノ地方長官(東京府ハ警視総監)ニ出願スヘシ
前項ノ移民ニシテ移民取扱人ニ依ル者ハ渡航願書ニ移民取扱人ヲシテ連署セシメ且ツ契約書ヲ提示スヘシ移民取扱人ニ依ラサル者ニシテ保証人ヲ要スル地ニ渡航スルトキハ渡航願書ニ保証人ヲシテ連署セシメ且ツ保証書ヲ提示スヘシ
第三条 移民保護法第三条ニ依リ保証人ヲ定メシムヘキ場合ハ外務大臣之ヲ告示ス
第四条 移民保護法第三条ニ掲クル保証人ハ其ノ原籍地ノ地方長官(東京府ハ警視総監)ニ於テ適当ト認ムル者ニ限ル
なお、この「官報」は、国立国会図書館デジタルコレクションに収録されており、インターネット上で利用できる。
国立国会図書館デジタルコレクション:官報. 1896年05月27日
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2947151/1
また、上記細則で記載されている、明治35年1月当時の「移民保護法」は、明治29年4月7日法律第70号と思われる。その第三条は以下のとおり。
第三条 行政庁ハ渡航スヘキ地ノ状況ニ因リ移民取扱人ニ依ラサル移民ヲシテ適当ト認ムル二人以上ノ保証人ヲ定メシムルコトヲ得(以下略。保証人の役割等を規定)
なお、この『法令全書』は国立国会図書館デジタルコレクションに収録されており、インターネット上で利用できる。
国立国会図書館デジタルコレクション:法令全書. 明治29年
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/787999/67
- 回答プロセス
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外国旅券規則を確認。なお、「山口県廰 外國旅券下附表」(外交史料館蔵)は、収録されている資料を見つけることができなかったため未確認。
国立国会図書館デジタルコレクション:法令全書 明治33年「外国旅券規則」(明治33年6月外務省令第2号)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/788017/183
自館レファレンスデータベースにて、「旅券」で検索、ヒットした事例から、「防長新聞」明治33年3月20日号1面2段に「海外渡航者に関する規定」として、当時の関係法令が記載されていることが分かる。同資料を確認。
当該年代の山口県報は未所蔵(山口県文書館で所蔵)。県例規集を確認、『加除自在現行山口県令規全集 第4綴』(山口県文書課 編纂,帝国地方行政学会,1937.12)に、「移民保護法令竝外国旅券規則執行規則」(大正5年3月17日県令第8号)が掲載されており(p276-5)、「明治40年7月山口県令第60号外国渡航許可竝旅券下付出願規定」を改正したとある。
明治40年7月の県報目次を確認。県令第60号は7月16日制定、「明治38年7月山口県令第45号廃止」とある。明治38年7月の県報を確認、1210号(7月18日)に、「外国渡航許可竝旅券下付出願規定」(県令第45号)があり、「移民保護法及海外旅券規則施行ニ関スル規定」(明治33年3月16日県令第26号)を改正した、とある。明治35年当時の規定は、防長新聞掲載の明治33年3月16日県令第26号と思われる。
明治33年3月16日県令第26号の条文を確認し、依拠した当時の国の法令(改正時期)について、「日本法令索引」で確認。
「移民保護法施行細則」(明治29年5月27日外務省令第3号)→明治40年6月8日外務省令第3号により改正
「移民保護法」(明治29年4月7日法律第70号)→明治34年4月9日法律第23号、明治35年2月13日法律第4号により改正されているが、当該条文は改正対象でない。これ以降、明治40年4月10日法律第33号により改正
なお、移民保護法第3条で規定されている、移民にあたって保証人が必要な国は、「北米合衆国,加拿陀,濠洲諸島,布畦国,遥羅国(アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ハワイ、シャム(?タイ?)」(明治29年6月2日外務省告示第7号)及び「墨西寄国,伯刺西爾国(メキシコ、ブラジル)」(明治30年5月21日外務省告示第5号)
当時の移民施策については、角山幸洋著「榎本武揚とメキシコ殖民移住(2)」(「關西大學經済論集」3511-69,1985.5.25)も参考にした。
http://hdl.handle.net/10112/14391
- 事前調査事項
- NDC
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- 国際法 (329 9版)
- 人口.土地.資源 (334 9版)
- 参考資料
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- 1.海外渡航者に関する規定. 防長新聞縮刷版 明治33年1-3月 3月20日 (p1)
- キーワード
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- 旅券
- 移民・植民 (日本)--歴史--明治
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000291004