レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 20190308
- 登録日時
- 2021/12/17 00:30
- 更新日時
- 2021/12/17 12:48
- 管理番号
- 中央-2021-29
- 質問
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解決
(1)現在、多くの区市町村立図書館では、その区市町村に在住・在勤・在学していることが利用登録の条件になっている。その中でも、在勤者と在学者も利用登録できるという考え方がどこから来たのかが知りたい。(2)また、いつ頃にその考えが定着していたのか知りたい。
- 回答
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都立図書館蔵書検索を、<図書館><運用><運営><地方自治><社会教育施設><公の施設><自治体 サービス>等のキーワードで検索し、該当した資料を調査した。(最終検索日:2021年10月6日)
(1)在勤者と在学者も利用登録できるという考え方がどこから来たのか
区市町村の在勤者・在学者も利用登録できるという考え方について、資料1に記述がある。
資料1 p.12-21「自治体による公共サービスの対象者と住民」(太田匡彦)
p.13-15「2 自治体の提供する公共サービスとその相手方」では、介護保険や国民健康保険と同様に、図書館の利用者資格は「(2)住民であることを要件とする行政作用」(自治体の公行政作用の対象者が法律上、住民に限定されている場合)に区分されている。
しかし、「このような行政作用に類する作用を自治体が独自の根拠を以て、当該区域内に存する非住民に対して拡張的に行うことは多くの場合、禁止されていない」(p.14)とあり、「利用者資格を限定することの容易な図書館などの公の施設について住民以外の者(在勤者など)の利用を認めることができる根拠」(p.14)は「自治体の権能が区域内に広く及ぶことに鑑みれば、住民に対する行政作用を義務付けている法律の趣旨から、区域内の非住民に対する類似の行政作用を禁止する趣旨が明確に読み取られる場合でない限り、上述の区域内の非住民に対する拡張的な行政作用は禁じられない」(p.14)ためである、と述べられている。
資料1は、「日本都市センター」のサイトでも全文が公開されている。
URL:http://www.toshi.or.jp/?p=11228
(2)在勤者と在学者も利用登録できるという考え方がいつ頃に定着していたか
資料2~5より、1960~70年代には日本でも在勤者・在学者の利用登録が行われていたことがわかる。
資料2 p.108-109「2 図書館奉仕 23 館内奉仕 234 個人貸出し 2343 貸出制限」
貸出制限について、「まず利用者の年令、住所などによる制限であるが、(中略)一般的に市内に居所または勤務先をもつ人としているが、周辺部落や町村の人々にも、希望があれば貸出したい。」(p.109)と述べている。
資料3 p.64-65「4 貸出し 4.2 貸出し利用者の資格 4.2.1 地域」
地域外から地域内への通勤通学者への貸出しについて、以下のように考え方が複数あることを述べている。
「イ. 通勤通学者へは貸出すべきではない。図書館は住民の税金によって設立されている以上、納税者をサービスの対象にすべきであって、それ以外のものを含むべきではない。他市町村で十分な図書館サービスが受けられないとすれば、よい図書館サービスをするようにそれらの市町村に要求すべきであって、通勤通学先の図書館へサービスさせるのは筋ちがいである。」
「ロ. 通勤者は通勤先の市町村の発展に一役かっている。納税というが住民税以外の地方税については通勤者も間接的に負担しているといってよいのではないか。通勤者は当然サービスの対象とすべきである。」
「ハ. 通勤者も通学者も同じく考えて、通勤通学者ともに貸出しの対象にすべきである。」(p.64)
これを踏まえたうえで、筆者は「館のおかれている状況によってどれをとるべきかは変ってくるであろう。」と述べている。(p.64)
資料3は、「国立国会図書館デジタルコレクション」の図書館送信サービス参加館内にて閲覧可能。(永続的識別子:info:ndljp/pid/2934418 最終確認日:2021年10月6日)
資料4 p.102-105「III. 貸出 B. 貸出対象」
個人館外貸出制度について、以下のように記述がある。
「地域制限の問題については現在多くの公共図書館でそれぞれ異なる措置を講じており、例えば1966(昭和41年)9月に東京都公立図書館長協議会統計調査小委員会が都内55の都・区・市立図書館を対象とした「図書の個人館外貸出制度に関する調査」によると(中略)他地区居住者でも通勤してくる勤労者、通学してくる学生、児童・生徒には貸出をみとめているばあいが多い。」(p.103-104)
理由としては、「理論的にいえば各公共図書館はそれぞれの市民の税により維持されているのであるから、他地区居住者には貸出をしないという根拠も成り立つであろうが、公共図書館の絶対数がすくなく、市民がじゅうぶんな公共図書館サービスを受け得ない現状からいえば、(中略)当面は近隣図書館との提携による図書館奉仕の相互カバーをはかるべきであろう。」(p.104)と述べている。
資料5 p.10「II 市町立図書館・読書施設の現状 1 登録・貸出手続きの簡素化がすすむ (1) 利用の制限」
図書館問題研究会が神奈川県内の市町立図書館、図書館類似施設に対して行った調査の報告書である。地域の制限については、以下のように書かれている。
「前回調査では「制限なし」が5館、他は市内在住、在勤、在学であれば館外貸出しをうけられた。今回もほぼ同様である。」(p.10)
なお、「前回調査」は1970年に実施されている。
参考文献のうち、資料1,2,4,5は都立中央図書館所蔵資料、資料3は都立多摩図書館所蔵資料である。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 図書館サービス.図書館活動 (015 9版)
- 参考資料
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- 【資料1】雑誌:都市とガバナンス 26号(2016年9月) / 日本都市センター
- 【資料2】中小都市における公共図書館の運営 中小公共図書館運営基準委員会報告 / 日本図書館協会/編 / 日本図書館協会 / 1963 <0162/44/63>
- 【資料3】貸出しと閲覧(シリーズ図書館の仕事) / 前川恒雄/編 / 日本図書館協会 / 1966.8 <0153/M141/K>
- 【資料4】図書館奉仕論(現代図書館学叢書 第4) / 北島武彦/編著 / 理想社 / 1969 <0150/2/69>
- 【資料5】神奈川の公共図書館1979 貸出しを中心とした図書館活動実態調査の報告 / 図書館問題研究会神奈川支部「貸出しを中心とした図書館活動」調査委員会/編 / 図書館問題研究会神奈川支部 / 1980.2 <0162/201/80>
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000309176