レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 20200405
- 登録日時
- 2020/06/14 11:04
- 更新日時
- 2020/12/16 16:30
- 管理番号
- 651
- 質問
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解決
西洋の画家の絵は、印象主義、ロマン主義、古典主義などいろんな主義があるけれど、どの派にも必ず裸体(を描く人)がいるのはなぜか。裸体を描く理由が書かれている本が読みたい。
- 回答
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下記の資料を紹介した。
①『ART GALLERY テーマで見る世界の名画 5』集英社 2018.1 (兵庫県立図書館請求記号:723/178/5)
p77 「ヌード」の系譜
「いったいぜんたい古代ギリシャ人は何に突き動かされて、あれほどにも裸体にこだわったのだろう。
人間中心主義からというが、それがなぜ裸体に直結したのか。また、自然模倣の芸術理念によるともいうが、
その「自然」ががなぜ裸体を意味するのか…中略…彼らは人体に魅了され描かずにおれなかったのでは、と推測するばかりだ。」
p81 絶対美は存在するか
「裸体像研究における古典的名著『ザ・ヌード』で、著者のイギリス人美術史家ケネス・クラークは、「nuked」(はだか)と「nude」を厳然と区別している。
前者は「着物が剥ぎ取られている」だけの、「不格好な憐れむべき」状態で、「幻滅と狼狽を感じさせる」のに対して、後者は「均整のとれた、すこやかな、自信に満ちた肉体、再構成された肉体のイメージ」だという。…中略…つまり見たくもなければ見せたくもない未完成の「はだか」を、見たいし見せたい完成した「ヌード」へ高めること。裸体を美術の主題とする意義はそこにある、というわけだ。」
②『ザ・ヌード 裸体芸術論 理想的形態の研究』ケネス・クラーク 著 美術出版社 1973(701.5/5)
③『日本大百科全書 18』小学館 1987.11(031/68/18)
ヌード「…裸体の造形表現は、…古代ギリシアに入って著しく盛んになり、とくに彫刻において多くの傑作を生んだ。それは、ギリシアでは神人同形同性の宗教観から、人体の理想像あるいは理想的人体美をしきりに追求していた結果である。
…ルネサンス以後、ギリシア神話や聖書からテーマをとった裸体画、裸身像がふたたび盛んになった。…
このように、宗教的理由からギリシア神話や聖書や水浴光景のテーマに限定されて許されていた裸体表現も、ワトー、ブーシェらのロココ時代の美的見地からの裸婦描写を経て、19世紀も後半になると、神話や聖書などの光景を借りずに、直接的に取り上げられるようになる。ロダンの彫刻やルノアールの裸女などがその代表である。そして、アカデミーの美術教育ではヌード・デッサンが必須(ひっす)科目として定着したし、彫刻では男女の裸身像、絵画では裸婦をテーマにしたものが一般化した。…」
④『西洋美術の歴史 7 19世紀』小佐野重利 ほか編集委員 中央公論新社 2017.2(702.3/83/7)
p308-313 アカデミズム絵画の変質
「…第二帝政期のサロンでは歴史画に近い主題ですら快楽主義的な観点から扱う、比較的小さなサイズの作品が称賛と人気を得たのである。顕著な傾向は少なくとも三つ指摘できる。…
第二に、サロンにおけるヌードの氾濫がある。ただし男性裸体像でなく、女性ヌード、官能的な裸婦像である。…神話の女神を口実に官能的なヌードを鑑賞する中産階級の偽善的な趣味によく呼応したのである。…」
p316-321 3 マネと1863年の世代
≪草上の昼食≫と≪オランピア≫
p320「1865年のサロンに出品して、…いかに≪オランピア≫が痛撃をくらわしたのかがよく理解されよう。このように、裸婦像の現代化に取り組んだ≪草上の昼食≫と≪オランピア≫だが、…対象の単純化と色面の対比が力強く精彩のあるイメージを生み出すのに成功したのである。
⑤『西洋の美術 造形表現の歴史と思想』菊地健三・島津京・浜西雅子 著 晶文社 2014.4(702.3/80)
p79-80 「…古典古代において裸婦画は、神の捧げものとして基本的に裸体の男性が表現されていたし、それを否定した中世世界では裸体の表現そのものが希有なものであった。…」
また、このほかに下記の資料も所蔵しています。
⑥『美学とジェンダー 女性の旅行記と美の言説』エリザベス・A.ボールズ 著 ありな書房 2004.8(935.6/7)
⑦『衣を脱ぐヴィーナス 西洋美術史における女性裸像の源流』C.M.ハヴロック 著 すずさわ書店 2002.9(712.3/27)
⑧『女神のこころ 聖なる女性をテーマにした芸術と神話』ハリー・オースティン・イーグルハート 著 現代思潮新社 2000.12(163/42)
下記に、インターネットから閲覧できる資料もご紹介します。
◇「画家ジャン=ジャック・エンネル--裸婦画が意味するもの」林 良児 著 『愛知県立大学外国語学部紀要. 言語・文学編 (46)』p195-224 2014
https://aichi-pu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1702&item_no=1&page_id=13&block_id=17
p.219 「美術の歴史は、古代ギリシアの世界から現在に至るまで、人体美がこの世で最も美しいものの一つとして芸術家の創造力を支えてきたことを教えてくれる。18世紀ドイツの古代学者ヴィンケルマンは、古代ギリシアにおいては人間の肉体は美しいものとされ、若者たちは、男性女性を問わず、美しい肉体を目指したことを説く。…エンネルの裸婦像は昇華された美しい人間の存在である。エンネルが、自ら描く裸婦の向こうに見ていたものは人体の美を称揚した古代ギリシアの美の理念、すなわち、彼が「古代のもっとも偉大な彫刻家」と認めていたフェイディアスの彫像に象徴されるような、古代ギリシアにおける人間存在の真実と言い換えることができる美の理念であると言ってよい。」
◆『人物画の話』小磯良平 著 美術出版社 1951(少年美術文庫 ; 302)国立国会図書館デジタルコレクション
※国立国会図書館デジタルコレクションの図書館送信参加館内で閲覧可能な資料です。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1630217
18-19コマ 「裸体の油絵…裸体は着物その他いろいろな邪魔物がなく、裸の美しい丸味をもった絵とか、量感とか質とかの美しさを表現するには、最もよい題材だからです。裸体を描いて、しっかりと腕に自信をつけることが出来れば、他のものはまず表現出来るものなのです。…裸体ははでな色がありませんから、勉強するのには最も良い題材であるわけで、またいろいろ美しい形の変化を見ることが出来、身体の重心とか、動きとか傾きとか、そういう絵に一ばん大切なものを勉強することが出来るのです。」
インターネット最終確認日:2020年4月5日
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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【レファレンス協同データベース】
◇西洋の絵画や彫像では、なぜ女神や女性のヌードが多いのか。若桑みどりの著作以外のもので、ジェンダーの観点から書かれたものがほしい。
(https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000111853)
◇西洋美術における裸婦画の歴史(古代~現代)、成立、展開などがわかる本。
(https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000193666)
- NDC
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- 芸術 (7)
- 絵画.書.書道 (72)
- 洋画 (723)
- 参考資料
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青柳 正規 監修 , 青柳‖正規. ART GALLERY 5. 2018.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I081450836-00 , ISBN 9784081570751 -
ケネス・クラーク 著 , 高階 秀爾 共訳 , 佐々木 英也 共訳. ザ・ヌード : 裸体芸術論. 美術出版社, 1973.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I045975886-00 -
日本大百科全書 18 (にほんけーはな). 小学館, 1987.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001880202-00 , ISBN 4095260181 -
小佐野重利, 小池寿子, 三浦篤 編集委員 , 小佐野, 重利, 1951- , 小池, 寿子, 1956- , 三浦, 篤, 1957- , 尾関, 幸 , 陳岡, めぐみ , 三浦, 篤, 1957-. 西洋美術の歴史 = A HISTORY OF WESTERN ART 7. 中央公論新社, 2017.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I027984559-00 , ISBN 9784124035971 -
菊地健三, 島津京, 濱西雅子 著 , 菊地, 健三, 1946- , 島津, 京 , 濱西, 雅子. 西洋の美術 = The history and thought of Western Art : 造形表現の歴史と思想. 晶文社, 2014.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I025383732-00 , ISBN 9784794968425 -
エリザベス・A.ボールズ 著 , 長野順子 訳 , Bohls, Elizabeth A , 長野, 順子, 1950-. 美学とジェンダー : 女性の旅行記と美の言説. ありな書房, 2004.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007426668-00 , ISBN 4756604846 -
C.M.ハヴロック 原著 , 左近司祥子 監修 , 左近司彩子 訳 , Havelock, Christine Mitchell , 左近司, 祥子, 1938- , 左近司, 彩子, 1972-. 衣を脱ぐヴィーナス : 西洋美術史における女性裸像の源流. アルヒーフ, 2002.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000004338252-00 , ISBN 4795401705 -
ハリー・オースティン・イーグルハート 著 , 矢鋪紀子 訳 , Austen, Hallie Iglehart , 矢鋪, 紀子, 1971-. 女神のこころ : 聖なる女性をテーマにした芸術と神話. 現代思潮新社, 2000.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002945482-00 , ISBN 4329004151
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青柳 正規 監修 , 青柳‖正規. ART GALLERY 5. 2018.
- キーワード
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- 裸体画
- ヌード
- 西洋
- 画家
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000283122