レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2018-11-05
- 登録日時
- 2018/11/12 14:01
- 更新日時
- 2022/06/07 12:40
- 管理番号
- 2019-123
- 質問
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解決
遠藤周作著「鉄の首枷」という小説に、小西行長と加藤清正が不仲だったという内容があったが、遠藤周作が参照した一次史料に不仲だという記述が本当にあったのかを確認したい。
(漢文は読めないので、書き下し文か、現代語に訳されているものがよい。)
- 回答
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堀杏庵著『朝鮮征伐記』に小西行長と加藤清正の不仲についての記述がありました。
詳細は回答プロセスをご確認下さい。
- 回答プロセス
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1.本学契約データベース「JapanKnowledge Lib」で小西行長、加藤清正について調査
"小西行長", 『日本大百科全書(ニッポニカ)』 (参照 2018-11-12)
「キリシタンの戦国大名。素性は、その父隆佐(立佐)(りゅうさ)とともに明らかでないが、隆佐の次男として生まれ、早くキリシタンの洗礼を受けたらしい。その教名が「アゴスチーニョ」(アウグスチヌス)であり、当初弥九郎(やくろう)のちに摂津守(せっつのかみ)、通常「ツノカミ」と称せられたことは内外の史料が一致している。1585年(天正13)羽柴秀吉(はしばひでよし)(豊臣秀吉(とよとみひでよし))の紀州征伐において水軍の長として活躍し、まもなく小豆(しょうど)島、塩飽(しわく)諸島、室津(むろつ)の支配者となる。(中略)1592年(文禄1)、第一軍の将として朝鮮の釜山(ふざん)に渡り、ソウルを陥れ、さらに平壌まで占拠したが、明(みん)国の征服を不可能と考え、早くより明の沈惟敬(しんいけい)と交渉してこの戦いを講和に持ち込もうとした。」
"加藤清正", 『日本大百科全書(ニッポニカ)』 (参照 2018-11-12)
「安土(あづち)桃山時代の武将。秀吉「子飼い」の肥後熊本の大名。1585年従五位下(じゅごいのげ)主計頭(かずえのかみ)に叙任。(中略)しだいに石田三成、小西行長らの講和派のために孤立化し、ついに1956年(慶長1)讒訴(ざんそ)され、伏見(ふしみ)に蟄居(ちっきょ)を命ぜられる。」
2.事前事項調査を確認。
「鉄の首枷」『遠藤周作文学全集 第10巻』新潮社 1999.4-2000.7
p.130「『宣祖実録』『宣祖修正実録』などによれば~」とあり。
p.123「『西征日記』」あり。
(1)『宣祖実録』について調査
本学契約データベース「JapanKnowledge Lib」で「宣祖実録」を全文検索
"朝鮮", 『国史大辞典』 (参照 2018-11-15)
「国王が死亡すると、一代の事跡を編年体でまとめた「実録」が編纂された。『李朝実録』と総称される(韓国では『朝鮮王朝実録』と呼ぶ)この記録は、太祖から哲宗に至る二十五代千七百六巻全巻が現存する。「実録」の編纂ははじめ春秋館が行い、のちに特設の実録庁に移管された。戦火などによる亡失を避けるため四部を作成し国内各地の史庫に分置された。豊臣秀吉軍の侵入の際にはかろうじて全州史庫本のみが亡失を免れ、乱の終結後これをもとにして活字印刷で復元が行われ、王宮内と要害の地四ヵ所に新たに設置された史庫に分置された。「実録」の編纂は前王代の政治評価につながるため党争の具となり、『宣祖実録』のように、後代、改修されるものもあった。韓国併合後、朝鮮総督府の手ですべてソウルに集められ、五台山史庫本が東京帝国大学に寄贈されて関東大震災で大部分を焼失した。『李朝実録』は、備辺司の記録である『備辺司謄録』や国王の動静記録である『承政院日記』『日省録』とともに李朝時代の基本史料となっている。」
とあり。
①『李朝実録』を本学契約データベース「JapanKnowledge Lib」で検索
"李朝実録", 『日本大百科全書(ニッポニカ)』(参照 2018-12-21)
朝鮮、李朝の政治、社会、経済、文化に関する基本史料。李朝25代(太祖~哲宗)各王代の史実を政府がそのつど編纂(へんさん)した、編年体を主とする全1706巻に及ぶ膨大な記録である。韓国では『朝鮮王朝実録』とよぶ。哲宗以後の高宗・純宗実録は植民地統治下の1935年に完成され、これを含めてよぶこともある。初めは一部、やがて四部、のち五部が作成された。学習院大学東洋文化研究所と韓国国史編纂委員会から、それぞれ縮刷本が出版されている。日本、中国との関係資料も多く、そのほか琉球(りゅうきゅう)、南方諸島、欧米との関係記事もあり、東アジア国際関係の記録としても重要な意味をもっている。
②『李朝実録』を本学OPACで検索
島尻勝太郎, 中村栄孝, 谷川健一編『三国交流誌』(日本庶民生活史料集成;第27巻)』
赤澤英二編『朝鮮王朝実録抄 : 中世美術史料』
→宣祖実録は含まれず
③『朝鮮王朝実録』を確認
朴永圭 [著]『朝鮮王朝実録』キネマ旬報社 , 2012.3
→部分的に抜粋した形での日本語訳はあったが、掲載されていた箇所には小西行長と加藤清正についての記述は見られなかった。
3.『西征日記』について調査
(1)本学契約データベース「JapanKnowledge Lib」で検索
"西征日記"『 国史大辞典』 (参照 2018-11-19)
「花園妙心寺の僧天荊が第一次朝鮮侵略(文禄の役)の際、小西行長・宗義智の軍に従軍した時の日記。記事は文禄元年(一五九二)三月十二日から同年八月十日に及んでいる。天荊は博多聖福寺の僧景轍玄蘇らとともに朝鮮外交僧としての経験をもち、その文筆の技術をもって従軍し、朝鮮民衆を生業に就かせるための榜文を書いたり、朝鮮軍と軍事上の駆引きをする際の交渉文を書いたりした。これらのいきさつや、小西・宗軍の動向が具体的に記されている。豊臣秀吉の朝鮮侵略関係の基本史料。『続々群書類従』史伝部に所収。」
とあり。
(2)『續々群書類従』を確認
『續々群書類従』 国書刊行会編
→「西征日記」は第3 史傳部に所収されているが、漢文のため、利用者の求めるものではない。
(3)国立国会図書館OPAC検索
松本愛重編『豊太閤征韓秘録 第1集』成歓社, 明27.10
デジタルアーカイブにて全文Web公開 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/773087(参照 2018-12-21)
→「西征日記」の収録はあるが、漢文のため、利用者の求めるものではない。
4.「鉄の首枷」を確認。
『遠藤周作文学全集 第10巻』新潮社 1999.4-2000.7
(1)p.174に「清正の報告」で「行長の欺瞞があかるみに出た」という記述あり。
また、「太閤は激怒した。「小西奴を呼び出せ、首をはぬべしと訇しり給う」(堀杏庵『朝鮮征伐記』)」と記述あり。
①『朝鮮征伐記』を本学契約データベース「JapanKnowledge Lib」で調査
"朝鮮征伐記" , 『国史大辞典』(参照 2018-11-19)
「文禄の役の記録。藤原惺窩の門弟堀正意(杏庵)が万治二年(一六五九)にまとめたもの。九巻。天正十八年(一五九〇)、豊臣秀吉が朝鮮に服属強要したこと、文禄の役における漢城(ソウル)陥落、小西行長の平壌占領、明提督李如松の平壌攻撃と小西行長の敗退、加藤清正の咸鏡道侵入、日明講和交渉などの記述がある。文禄・慶長の役に出陣した諸大名がみずからを誇示した戦記と異なり、客観記述に徹している。松本愛重編『豊太閤征韓秘録』一所収。」
②本学所蔵分を確認
堀杏庵著『石山軍記 . 豊臣鎭西軍記 . 朝鮮征伐記 / 堀正意撰 . 朝鮮物語 / 大河内秀元撰』(通俗日本全史 / 早稲田大学編輯部;第20巻(補遺))
p.46に「小西め呼び出せ、首を刎ぬべしと訇しり給ふ」と記述あり。
→遠藤周作が『朝鮮征伐記』を参照したことが確認できた。
p.26に「小西も三奉行も加藤主計と仲悪しかりければ」と記述あり。
p.15に「主計ノ頭と攝津守と仲悪しくて、互ひに功を争ひけるに」と記述あり。
→遠藤周作が参照した史料(『朝鮮征伐記』)に不仲であるという記述があったことが確認できた。
(2)p.114に「清正と小西の対立は(中略)更に深刻」化していたとあり。
注記に「森山恒雄「豊臣期海外貿易の一形態」(『東海大学紀要』第八輯)」とあり。
①CiNii Articlesで検索
森山恒雄.豊臣期海外貿易の一形態 : 肥後加藤氏領における関係史料の紹介. 東海大学紀要. 文学部. 1966, vol.8, p.9-28
がヒット。CiNii論文PDFでWeb公開
https://ci.nii.ac.jp/els/contents110000195660.pdf?id=ART0000563197(参照2018-11-19)
p.27「『征韓偉略』には小西行長と清正の確執は京城司馬門内の薬鄽路(薬種街)をめぐる問題があったと伝えている」とあり。
②『征韓偉略』を確認
国文学研究所データベースで全文確認
http://base1.nijl.ac.jp/iview/Frame.jsp?DB_ID=G0003917KTM&C_CODE=0214-12404(参照 2018-11-19)
巻之一二十六頁に「司馬門内薬鄽路」「行長怒」、二十七頁に「清正曰背軍令但貪私利何似商賈之行哉。行長大怒欲刺之」「清正行長大愧服曰」
とあったが、書き下し文、または現代語訳は見つけられなかった。また、遠藤周作が『征韓偉略』を参照したという事実も確認できず。
- 事前調査事項
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遠藤周作著「鉄の首枷」の注記に『宣祖実録』『西征日記』とあったが、どちらも漢文だったので読めなかった。
- NDC
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- 日本史 (210 9版)
- 朝鮮 (221 9版)
- 個人伝記 (289 9版)
- 参考資料
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遠藤周作 著 , 遠藤, 周作, 1923-1996. 遠藤周作文学全集 第10巻 (評伝 1). 新潮社, 2000.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002863027-00 , ISBN 4106407302 (NCID:BA41173047) -
早稲田大学編輯部 編 , 早稲田大学出版部. 通俗日本全史 第20巻. 早稲田大学出版部, 1913.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I002191234-00 (NCID:BN12974394) -
朴永圭 著 , 神田聡, 尹淑姫 訳 , 朴, 永圭 , 神田, 聡 , 尹, 淑姫, 1953-. 朝鮮王朝実録 改訂版. キネマ旬報社, 2012.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023423944-00 , ISBN 9784873763910 -
国書刊行会/編 , 国書刊行会. 続々群書類従 第3. 続群書類従完成会, 1970.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I010964944-00 (NCID:BN02919709) - 『世界大百科事典』 ,JapanKnowledge Lib (参照 2018-11-12)
- 『日本大百科全書(ニッポニカ)』, JapanKnowledge Lib (参照 2018-11-12)
- 『国史大辞典』, JapanKnowledge Lib (参照 2018-11-15)
- 国文学研究資料館データベース(参照 2018-11-15)
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遠藤周作 著 , 遠藤, 周作, 1923-1996. 遠藤周作文学全集 第10巻 (評伝 1). 新潮社, 2000.
- キーワード
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- 小西行長
- 加藤清正
- 鉄の首枷
- 遠藤周作
- 朝鮮征伐
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 日本史
- 質問者区分
- 学生
- 登録番号
- 1000245666