レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019/11/28
- 登録日時
- 2019/12/26 00:30
- 更新日時
- 2019/12/26 00:30
- 管理番号
- 滋2019-0029
- 質問
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解決
河合乙州(おとくに)について知りたい。
(1)乙州の家「観桂坂」の読み方や場所。大津宿の宿場の家並図(江戸と現代の位置)や、問屋のわかるもの。
(2)芭蕉の幻住庵に住んでいた時期。
- 回答
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(1)乙州の家「観桂坂」の読み方や場所について
「観桂坂」の読み方は、田尻紀子氏が論文「乙州・智月の生没年」のなかで、「江南観桂坂」の観桂を「つきみ」とルビをふっています。
乙州の住居については、すでに荒滝雅俊氏による先行研究論文『乙州が新宅』考」があります。その要旨によれば、乙州の住居の場所は、現在の大津市松本にあたる松本村にあったと想定されています。以下、同論文から引用します。
「(大津の――引用者註)松本村は、乙州とは無縁の場所ではなかった。乙州は……(中略)自らを「江南観桂坂の散人」と記している。/「観桂坂」であるが、元禄二年刊『京羽二重織留』巻六に「月見坂 松本山にあり。むかし天智天皇月見の為に御幸ありし所なり。今は田畑となれり。又、東三條院も月見に御幸ありしおり車かへしの坂とも云へり。古歌に行末は秋やたつらん月見坂やすらふそでにむすぶ白露」とあるので、松本村にあった名所と考えられる。したがって、乙州の隠居所が松本村にあったことになる。(後略)」
上記「『乙州が新宅』考」の考察に基づくならば、「観桂坂」が大津市松本にあるであろうことは想定できても、現在のどこに位置するかの特定もできず、その名自体が伝承されていない以上、当時、どのように読まれていたかは不明です。
次に、大津の宿場町の地図については、インターネットを使って、当館HP内の「近江デジタル歴史街道」にて、デジタル画像を御覧いただけます。(2019年10月4日現在)
http://www.shiga-pref-library.jp/wp-content/libfiles/da_img/1001248.djvu?djvuopts&navpane=thumbnails,left&zoom=page
なお、『能勢朝次著作集 第7巻』月報に、宗政五十緒氏による「智月の夫、佐右衛門のこと」という論考が掲載されており、それによれば、乙州の姉(のちに乙州が彼女の養嗣子になるため母)である智月の夫、佐右衛門は大津の問屋役・伝馬役であり、大津市史編さん室にある元禄8年10月に作成された古絵図を確認したところ、「大津市の中ノ京町(中京町)に確かに佐右衛門という人の家があることが知られた。/……(略)延宝五年四月作成の古絵図の写真版もあった。この絵図にも亦、同じ場所に佐右衛門という人の家が記されている」とあります。文章はその後、この佐右衛門が智月の夫と確定できるかどうかの論証を行い、次のように結論づけています。
「この佐右衛門は多分、天和三年六月から元禄八年十月までの間に死没したのであろう、と一応考えられる。/……(略)そして延宝五年の古絵図に記されている佐右衛門は智月の夫のことであり、その後、乙州が佐右衛門の通称を襲ったのが、元禄八年に見える佐右衛門であろうと考えるのである」。
乙州の家については、佐右衛門の家と同一であり、場所については、大津市史編さん室所蔵の上記地図で確認できます。
大津市史編さん室は、現在、大津市政策調整部 市政情報課が窓口となっており、電話番号は077-528-2718、ホームページのURLは下記の通りです。(2019年10月4日現在)
https://www.city.otsu.lg.jp/shisei/tokei/corner/1390533253782.html
(2)芭蕉の幻住庵に住んでいた時期
吉江久弥氏編による『おくのほそ道』解説によれば、芭蕉が幻住庵に滞在したのは元禄3年(1690年)4月6日から7月23日までとありました。
そこで『芭蕉年譜大成』で確認したところ、「四月六日 国分山の幻住庵に入る。前日までは義仲寺の草庵を主宿としていた。……(中略)/七月二三日 幻住庵を引き払い、一旦大津に出る」とあり、裏付けがとれました。
なお、以後の年譜を辿りましたが、芭蕉が亡くなる元禄7年(1694年)10月10日まで、近江国(滋賀県)内の滞在記録はありますが、幻住庵に住んだ事実は確認できませんでした。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本史 (210 8版)
- 参考資料
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- 1 古典俳文学大系 6 蕉門俳諧集 1 集英社 1976年 2-9113-6 p.440(笈日記),p.458(句),p.534(泊船集)
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2 古典俳文学大系 5 芭蕉集 集英社 1975年 2-9113-5 (「泊船集」巻1~巻5) -
3 おくのほそ道 松尾芭蕉∥著 勉誠社 1982年 2-9155-マ pp.103-104(幻住庵滞在日数) -
4 日本俳書大系 3 蕉門俳諧 後集 日本俳書大系刊行会 1926年 2-P308-3 p.20(句) -
5 芭蕉辞典 飯野哲二∥編 東京堂 1960年 3-9113-イ p.388(句) -
6 芭蕉事典 松尾 靖秋∥ほか編 春秋社 1978年 R-9113-マ p.21(元禄4年9月4日),p.496(年譜) -
7 近江の芭蕉 いかいゆり子∥著 いかいゆり子 2015.4 S-9200- 15 p.226(乙州の略歴) -
8 解釋學 第16輯 解釈学事務局 1996年 S-9211- 96 pp.66-72(「『乙州が新宅』考」(荒滝雅俊著)) -
9 能勢朝次著作集 第7巻 連歌研究 能勢朝次∥著 思文閣出版 1984年 2-9108-ノ 栞pp.3-4(「智月の夫、佐右衛門のこと」(宗政五十緒著)) -
10 俳諧人名辞典 高木蒼梧 巌南堂 1970年 R-9113-タ pp.218-219(乙州の略歴) -
11 国書総目録 第2巻 か-く 岩波書店 1989年 L-0251-2 p.404(きさらぎ) -
12 俳文学大辞典 尾形仂∥[ほか]編 角川書店 1995年 R-9113-オ p.202(きさらぎ) -
13 古典俳文学大系 8 蕉門名家句集 1 集英社 1976年 2-9113-8 pp.84-96 -
14 田尻 紀子、乙州・智月の生没年、連歌俳諧研究、1988(75) 臨川書店 1988年 pp. 29-32 -
1 島崎藤村『夜明け前』作品論集成 1 剣持武彦∥編 大空社 1997年 2-9102-シ -
2 島崎藤村『夜明け前』作品論集成 2 剣持武彦∥編 大空社 1997年 2-9102-シ -
3 島崎藤村『夜明け前』作品論集成 3 剣持武彦∥編 大空社 1997年 2-9102-シ -
4 島崎藤村『夜明け前』作品論集成 4 剣持武彦∥編 大空社 1997年 2-9102-シ
- キーワード
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- 河合乙州l
- 乙州
- 観桂坂
- 芭蕉
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 人物
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000271603