レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2011年07月20日
- 登録日時
- 2011/09/20 15:04
- 更新日時
- 2011/12/13 17:30
- 管理番号
- 埼熊-2011-080
- 質問
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未解決
天香久山が「天指山」とか「指山」と呼ばれていたことがあったそうだが、その時代はいつ頃で、その呼称の由来は何か。
秩父地方には、「藤指」「高指」「古指」「白井差」など「サス」の付く地名がかなりあるが、その由来とも関係があるのか。
- 回答
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天香久山が「天指山」「指山」と呼ばれていた時代は、複数の資料で近世(江戸時代)であることが確認できたが、それ以上の詳しい時期は確認できなかった。
また、明治期の刊行物や公文書でも「天指山」という表記があった。
なお、天香具山の山頂部分のみを「天指山」と呼称したという記述の資料もいくつかあった。
地名用語の「指【サス】」については、複数の由来があることが、確認できたが、「天指山」「指山」の呼称の由来について書かれた資料は、見つからなかった。
「天香久山」と秩父地方の地名の関係性については、確認できなかった。
天香久山が「天指山」「指山」と呼ばれた時期について
ア 近世(江戸時代)であるとかかれていた資料
『古代地名大辞典 本編』(角川文化振興財団編 角川書店 1999)
p436〈かぐやま【香具山】〉の項「近世には指山・天指山ともある。」とあり。
『日本歴史地名大系 30 奈良県の地名』(平凡社 1981)
p301〈大和三山〉の項のうち〈天香久山〉
「近世には指山とも記され(南浦町の上田家文書)、天指山ともよばれたようである(磯城郡誌)。」とあり。
※巻末の「文献解題」p920に「奈良県磯城郡誌(磯城郡誌) 磯城郡役所編刊 大正4年刊」とあり。
イ 明治期の刊行物・公文書
『大日本地名辞書 2 上方』(吉田東伍著 富山房 1989)
p373〈香具山〉の項「山は大字戒外に属し高凡十七丈、頂を天之指と呼ぶ」とあり。
(初版の刊行は明治33年。この資料は昭和44年刊行の増補版)
《奈良県立図書情報館WebOPAC》(http://opacsvr01.library.pref.nara.jp/mylimedio/search/search-input.do 2011/07/16最終確認)
〈天指山〉で検索したところ次の公文書がヒットする。
〔堺県管下大和国十市郡南浦村字天指山無格社国常立神社明細書〕. 明治十二年七月調 大和国十市郡神社明細帳 p089 1879 (奈良県庁文書)
※明治12年も天指山と呼ばれていたことがわかる。
ウ その他
『角川日本地名大辞典 29 奈良県』(「角川日本地名大辞典」編纂委員会編 角川書店 1990)
p103〈あまのかぐやま【天ノ香久山】〉の項「中でも香久山だけが「天の」と冠せられ、特別視されていたのは香久山が天から降ってきたという伝承があることによる(伊予国風土記逸文)(中略)香久山は頂上付近を天指山とも称され」とあり。
地名用語の「指」(サス、サシ)について
『地名語源辞典』(山中襄太著 校倉書房 1989)
p94〈かぐやま【香山 香具山】〉に関連記述なし。
p166〈さし【佐志 指 差】〉の項「サシという語で地名に関係ありそうな語には(1)焼畑を意味するサシ、(2)城を意味するサシ、(3)突き刺す意味のサシぐらいである。ある地名のサシが、どの意味であるかの判断はむつかしい。」とあり。
〈さす、さし【指、佐志、佐須】〉の項「焼畑の意。(中略)埼玉県秩父郡に高指、大指、蟬指、茗荷指など・・・」とあり。
『地名用語語源辞典』(楠原佑介編 溝手理太郎編 東京堂出版 1983)
p249-250〈さし【差、指、刺、曲、佐志】〉の項「①「直線的に力が働く」意。(中略)地名用語としては、「真直に伸びた状態」をいうか。②傾斜。勾配(中略)③焼畑「(『新編武蔵風土記稿』)。動詞サス(点)の連用形で、「火をともす。火をつける」意からか。あるいは②の方言用例の「傾斜地」と関連するか。④「城」の意。古代朝鮮語という。⑤日向地(鏡味)。サアシ(方言:広島、愛媛県大三島)から。
『日本古代地名の研究 日韓古地名の源流と比較』(李炳銑著 東洋書院 2003)
p120「「佐須」「指」で表記された次の地名も〈sasi【城】〉に由来したものと見られる。」とあり、 「高指(taka sasi)(埼玉県秩父郡)」の例あり。「上の地名のsasu(佐須)、sasi(指)を山中襄太(上記『地名語源辞典』)は焼畑と城の意味であるとしたが、この地名は城のあった所に由来したもののようである。」とあり。
p122(4)シキ(磯城)の記述あり。
奈良県の磯城郡の「磯城」も〈si-ki【城】〉
- 回答プロセス
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その他調査済み資料は、以下のとおり。
地名事典
『日本自然地名辞典』(山口恵一郎編 東京堂出版 1983)
『日本地名大事典 3 近畿』(渡辺光等編 朝倉書店 1967)
『大和地名大辞典』(日本地名学研究所編 名著普及会 1984)
奈良の地名事典
『奈良・京都地名事典』(吉田茂樹著 新人物往来社 2007)
『奈良の地名由来辞典』(池田末則編 東京堂出版 2008)
神話
『日本古代の神話的観想』(椎野禎文著 かもがわ出版 2002)
『天香山と畝火山 「埴使」からさぐる古代大和祭祀権の謎』(真弓常忠著 学生社 1971)
奈良の歴史・地理
『奈良県史 14 地名』(奈良県史編集委員会編集 名著出版 1985)
『奈良名所むかし案内 絵とき「大和名所図会」』(本渡章著 創元社 2007)
『地名伝承学論』(池田末則著 クレス出版 2004)(『地名伝承学』(五月書房平成14年刊)の補訂 )
地名の語源
『日本地名の語源 地名からわかる日本古代国家』(石渡信一郎著 三一書房 1999)
『地名の語源と謎』(丹羽基二著 南雲堂 1988)
山岳地名の資料
『新 日本山岳誌』(日本山岳会編著 ナカニシヤ出版 2005)
『日本山岳ルーツ大辞典』(村石利夫編著 竹書房 1997)
『日本山岳伝承の謎 山名にさぐる朝鮮ルーツと金属文化』(谷有二著 未来社 1983)
『山ことば辞典:岩科山岳語彙集成』(岩科小一郎著 藤本一美編 百水社 1993)
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本 (291 9版)
- 参考資料
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- 『古代地名大辞典 本編』(角川文化振興財団編 角川書店 1999)
- ll
- 『大日本地名辞書 2 上方』(吉田東伍著 富山房 1989)
- 『角川日本地名大辞典 29 奈良県』(「角川日本地名大辞典」編纂委員会編 角川書店 1990)
- 『地名語源辞典』(山中襄太著 校倉書房 1989)
- 『地名用語語源辞典』(楠原佑介編 溝手理太郎編 東京堂出版 1983)
- 『日本古代地名の研究 日韓古地名の源流と比較』(李炳銑著 東洋書院 2003)
- キーワード
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- 山岳-奈良県
- 天香久山
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 地名
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000091160