レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022/05/31
- 登録日時
- 2022/07/13 00:30
- 更新日時
- 2022/07/14 00:30
- 管理番号
- 6001056536
- 質問
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解決
幕末の奄美大島では「砂糖地獄」と呼ばれるような薩摩藩による圧政が敷かれていたが、奄美大島に一時居住していた西郷隆盛が、当時の奄美大島の状況についてどう感じていたのかが分かるような資料はないか。
- 回答
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奄美大島の過酷な状況について、西郷隆盛本人が書き残した記録はほとんど見つからず。
その他、当時の書簡や、後世に様々な人から聞き取った内容を記録した言行録、評伝などを調査し、奄美大島での西郷の考え方や行動を知る参考になる資料をいくつか紹介。
■西郷隆盛の書簡
・『大西郷全集 第1巻』([西郷隆盛/著] 大西郷全集刊行会 1926)
西郷隆盛関係の文書をまとめた資料。「第一次謫居時代」(p.133-188)の「二七 税所、大久保への書 安政六年二月十三日」(p.151-156)は、奄美大島着島から三十日ほど経過した頃に、改革派の同志である税所篤、大久保利通に出した手紙で、その中で西郷は藩吏の苛政について、次のように言及している。
「何方におひても苛政の行れ候儀、苦心の至に御座候。當島の體誠不忍次第に御座候。松前の蝦夷人捌よりはまた甚敷御座候次第、苦中の苦、實に是程丈けは有之間敷と相考居候處驚入次第に御座候。」(p.153)
その他、以下の資料に収録されている奄美謫居時代の書簡も確認したが、基本的には自分の生活や政治についての内容で、島民の様子に触れているものは見つからず。
・『西郷南洲書簡集』(西郷南洲/[著] 実業之日本社 1911)
・『西郷隆盛文書 (日本史籍協会叢書)』(西郷隆盛 日本史籍協会 1923)
■言行録
・『南洲翁謫所逸話 2版』(東郷中介/著 川上孝吉 1909)
国立国会図書館デジタルコレクション(インターネット公開)(2022/5/31現在)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/993115/14
西郷隆盛の謫所(配流先)での逸話集。p.4-5(14コマ)「細民ヲ救助スル事」には、「翁常ニ心ヲ細民ノ救助ニ傾ケ鰥寡孤独廃疾等憫ムヘキモノアレハ僅ニ受クル所ノ禄ヲ割キテ之ヲ施与シ専ラ島民ヲ愛撫セシ」、p.5-6(14-15コマ)「製糖に関スル島民ノ苦情ニ対シ翁ノ斡旋」には、薩摩藩の過酷な取り立てについて聞いた西郷が、「常ニ之ヲ憂ヘタリ」と書き、藩吏・相良角兵衛に意見したという逸話が書かれている。
・『西郷隆盛獄中記:奄美大島と大西郷』(昇曙夢/[著] 坂元盛秋/編 新人物往来社 1977)
春陽堂昭和2年刊“奄美大島と大西郷”の現代語訳。
第一章大島潜居時代 「細民の救済と自己の修養」と題して、先述のエピソードあり(p.38-40)。
・『語り継がれた西郷どん:発掘!維新スクラップブック (朝日新書655)』(一坂太郎/著 朝日新聞出版 2018.2)
明治時代の新聞スクラップブックにあった記事をまとめたもの。山本渾沌著「大島謫居の南洲翁」(p.67-84)に西郷についての様々な逸話が記録されている。解説によると、山本は西郷とは面識がないが、明治44年頃、奄美大島在住時に逸話を聞き取ったものとのこと。
■評伝
概ね、前出の書簡や言行録に収録の逸話に基づいた記載あり。
・『西郷隆盛のすべて』(五代夏夫/編 新人物往来社 1985.6)
p.49-68 山田尚二「西郷隆盛と奄美」において、著者は前述の書簡を引用しながら、当時の奄美地域の状況を説明している。
「隆盛は着島早々民政を見て驚いた。
何方においても苛政の行なわれ候儀、苦心の至りにござ候。当島の体(てい)、誠に忍びざる次第にござ候。
松前の蝦夷人捌きよりはまだ甚敷(はなはだしく)、御座候次第、苦中の苦、実に是程だけはあるまじく相考え居り候処驚き入る次第にござ候。
(中略)隆盛は疲弊した島民には同情したが、個々の島民の複雑な心情までは、なかなか理解できなかった。(中略)隆盛が悪代官相良角兵衛(さがらかくべえ)を懲らしめた話は有名であるが、奄美での苛政は、代官の動向で左右されるというものではなかった。」(p.51-52)
・『西郷隆盛 (人物叢書新装版)』(田中惣五郎/著 吉川弘文館 1985.8)
島民を救うために藩吏に意見した逸話などの記述あり。
p.77-80 大島の西郷
「西郷は、島の改革についてもさまざまと藩に進言している。名瀬の在番役相良角兵衛をたずねて、「農作物は天候その他によって豊凶の年に差がある。年の初めに確定の収穫をさだめ、これに相違するものを罰するのは政の道ではない」と島民の拘留を釈放するよう依頼した。相良は大きなお世話であるという態度をとったので、これでは藩公の徳をけがすものとして見聞役の木場伝内につげ、そのはからいで釈放の方法がとられた。島民の西郷にたいする敬愛はさらに加わったのである。」(p.79-80)
・『西郷隆盛:「無私」と「胆力」の人 (鹿児島人物叢書5)』(上木嘉郎/著 高城書房 2008.3)
p.51-67 第三章 奄美大島での雌伏
「否応なしに、島民の生活の惨めさがわかってくる。この頃大久保や税所宛て書いた手紙で、藩の苛政のせいで島民の生活の苦しさは「松前の蝦夷人(アイヌ)などよりはまだ甚だしく」と形容している。隆盛は、自分の扶持米を割いてしばしば極貧の島民に施したこともあり、そのために自分の衣食にさえ不足し(後略)」(p.53)
・『西郷隆盛:人を相手にせず、天を相手にせよ (ミネルヴァ日本評伝選)』(家近良樹/著 ミネルヴァ書房 2017.8)
p.69-70 苛政への怒り
既出の『大西郷全集 第1巻』で紹介した書簡を引用している。
■その他
・『奄美大島物語 増補版』(文英吉/著 南方新社 2008.1)
昭和32年刊の復刊。p.121-124で、西郷隆盛について触れている。島民の困窮を訴え、藩庁に反省を促した上申書の概要についても記載あり。
・『近世奄美の支配と社会 (南島文化叢書5)』(松下志朗/著 第一書房 1983)
「はじめに」のp.9-12で西郷隆盛について触れている。
・『奄美大島史』(坂口徳太郎/編著 三州堂書店 1921)
「二 翁の龍郷流謫」(p.347-352)
次の論文は、西郷隆盛の評伝類における奄美時代の西郷について論考したもの。参考までに紹介。
・高江洲昌哉「西郷隆盛伝と「奄美」」『JunCture:超域的日本文化研究』7(名古屋大学大学院文学研究科附属「アジアの中の日本文化」研究センター 2016.3) p.18-29
名古屋大学学術機関リポジトリで公開(2022/5/31現在)
https://nagoya.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=29056&item_no=1&page_id=28&block_id=27
[事例作成日:2022年5月31日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 個人伝記 (289 10版)
- 日本 (291 10版)
- 参考資料
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- 大西郷全集 第1巻 [西郷/隆盛∥著] 大西郷全集刊行会 1926 (151-156)
- 西郷隆盛獄中記 昇/曙夢∥[著] 新人物往来社 1977
- 語り継がれた西郷どん 一坂/太郎‖著 朝日新聞出版 2018.2 (67-84)
- 西郷隆盛のすべて 五代/夏夫∥編 新人物往来社 1985.6 (49-68)
- 西郷隆盛 田中/惣五郎∥著 吉川弘文館 1985.8 (77-80)
- 西郷隆盛 上木/嘉郎∥著 高城書房 2008.3 (51-67)
- 西郷隆盛 家近/良樹‖著 ミネルヴァ書房 2017.8 (69-70)
- 奄美大島物語 増補版 文/英吉∥著 南方新社 2008.1 (121-124)
- 近世奄美の支配と社会 松下/志朗∥著 第一書房 1983 (9-12)
- 奄美大島史 坂口/徳太郎∥編著 三州堂書店 1921 (347-352)
- https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/993115/14 (国立国会図書館デジタルコレクション:『南洲翁謫所逸話』(2022/5/31現在))
- https://nagoya.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=29056&item_no=1&page_id=28&block_id=27 (高江洲昌哉「西郷隆盛伝と「奄美」」(2022/5/31現在))
- キーワード
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- 西郷隆盛(サイゴウタカモリ)
- 奄美大島(アマミオオシマ)
- 薩摩藩(サツマハン)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 人物・団体
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000318702