レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2012/06/26
- 登録日時
- 2012/11/03 02:01
- 更新日時
- 2012/12/13 11:16
- 管理番号
- 6000008501
- 質問
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解決
吉井勇の言葉だったと思うが、「長生きするのも芸のうち」という名言について知りたい。
- 回答
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吉井勇が桂文楽(8代目)にかけた言葉として有名。『あばらかべっそん』という桂文楽の自伝には吉井勇から「長生きするのも『芸』のうちだよ」と言われたことを心にたいせつにしまってあるという挿話があり。また吉井勇の作歌にも「長生きも藝のうちぞと落語家の文樂に言ひしはいつの春にや」という作品があり、両者とこの言葉との関係をおしはかることができる。
- 回答プロセス
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名言ということなので人生訓、金言、格言の書架にあった『日本名言名句の辞典』(小学館)をみた。作家作品別索引の「吉井勇」から、この辞典で採用されている言葉は「つまり人間てえものは何処まで往っても一人ぼっちなんだ。一人で生まれて来て一人で死んで往くんだ。」(『小しんと焉馬』より)の一つのみ。
つぎにインターネットのgoogleで「長生きするのも芸のうち、吉井勇」と検索すると複数のサイトで桂文楽へ贈られた言葉で、文部省芸術祭賞の受賞にあたってのことだという記述が見つかった。そこで桂文楽から探してみると、『日本名言名句の辞典』にはやはり項目がなかったが、落語の書架にあった『古今東西落語家事典』に「八代目桂文楽」の項目があり、昭和29年(1954年)に「素人鰻」で芸術祭賞を受賞したことや「楽屋での口癖に『ベケンヤ』『アバラカベッソン』などがあり、また早くから『死ぬまで勉強』とか『長生きも芸の内』などといっていた」(p222)とあった。
問合せの言葉と同内容の言葉が口癖として紹介されていたが、吉井勇との関わりは不明だったので、同書で紹介されている桂文楽の自伝『あばらかべっそん』(青蛙房)を確認してみると、p139に「吉井勇先生にいわれた、『文楽さん、長生きするのも『芸』のうちだよ』というこのお言葉も、私は自分のいましめとして大切に守っております。」という一文があった。これに続けて、柳永二郎が桂文楽自身の言葉として認識していたのを吉井勇のものだと訂正したことがあるという風に語られているので、桂文楽の口癖のひとつ「長生きするのも芸のうち」は吉井勇から出ているらしいことがわかる。
またインターネット上に、この文句を織りこんだ短歌が紹介されていたので、大阪府立図書館から『吉井勇全集』第三巻歌集Ⅲ(昭和39年1964番町書房)を取寄せて確認すると、「『形影抄』以後」という作品群の昭和35年の「庚子新春」という纏まりの中に、「長生きも藝のうちぞと落語家の文樂に言ひしはいつの春にや」(p517、落語家ルビ「はなしか」)の一首が見つかった。
- 事前調査事項
- NDC
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- 人生訓.教訓 (159 9版)
- 大衆演芸 (779 9版)
- 参考資料
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- 『あばらかべっそん』 桂 文楽/著 青蛙房
- 『古今東西落語家事典』 諸芸懇話会/編 平凡社
- キーワード
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- 吉井勇(ヨシイイサム)
- 桂文楽(カツラブンラク)
- 名言(メイゲン)
- 落語(ラクゴ)
- 短歌(タンカ)
- 照会先
- 寄与者
- 備考
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『吉井勇全集』第三巻(番町書房)で見つけられた桂文楽の名前が見られる歌
●落語家の文樂のことふとおもひ笑ましくなりてわれは寐むとす(p333)
●文樂の素人鰻を聞きしのち寄席の木戸出づ秋の夜みちに(p364)
●文樂が呉れし鮒佐の佃煮をさかなに夜酒酌めば螻蛄鳴く(p404)
●久しぶりに桂文樂たづね夾てわがわびずみも春に入るらし(p456)
●文樂の「あばらかべつそん」といふ本がかたる市井のさまを戀しむ(p486)
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 一般
- 登録番号
- 1000113336