レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2016年12月09日
- 登録日時
- 2017/01/24 16:22
- 更新日時
- 2018/04/02 12:45
- 管理番号
- 2016-104
- 質問
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解決
近松門左衛門『平家女護島(へいけにょごのしま)』の登場人物「千鳥」のせりふに、
方言が使われているかどうか調べたい。
「千鳥」は鬼界島の段で登場する海女。
本文中に「千鳥」が「さつまなまり」であるとあるが、後の段になると方言ではないせりふも多いような気がする。
「さつまなまり」が設定上だけのことなのか、せりふに実際につかわれているのかを調べたい。
- 回答
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「千鳥」のせりふについて書かれた資料がいくつか見つかりました。
「方言かどうか」には、「上演時のアクセント(発声のしかた)に特徴があるか」と「使われた語そのものが方言であるか」の2つの見方があると考えられます。
使われた語そのものが方言であるかについて逐語的に解説した資料は見つかりませんでした。
語そのものが方言であるかについては、以下の調べ方があります。
・作品の注を参照する → 語注に「方言」「訛」とある場合があります。
・方言辞典で調べる → 方言辞典ごとに、採録された方言の収集方法が異なりますので、凡例やまえがきをご参照ください。
詳細は回答プロセスをご覧ください。
- 回答プロセス
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1.「千鳥」のせりふについて言及された資料
作品解説で言及がないかどうか調べる。
(1)[近松門左衛門著] ; 重友毅校注『近松浄瑠璃集 下』(日本古典文学大系50)(岩波書店, 1959)
p.307~平家女護嶋 第二 頭注に「九州方言」や「訛」「訛か」とある。
p.313頭注47「鹿児島方言(全国方言辞典)」とある。
(2)藤田洋編『文楽ハンドブック』改訂版(三省堂, 2003)
p.181「平家女護島」>p.182「見どころ」
「鬼界が島に鬼はなく・・・」という千鳥の言葉は「大阪訛りを抜いている」
(3)高木浩志著『文楽に親しむ』(和泉書院, 2015)
文楽を味わう一助になれば>p.205平家女護島 p.206「千鳥は薩摩訛りです」
文楽豆知識>時代物・世話物 p.227 人形浄瑠璃における標準語は大阪弁
(4)山田庄一著『文楽』(ぎょうせい, 1990)(伝統芸能シリーズ;3)
第2章 文楽名作鑑賞>p.228 時代物 平家女護島>みどころ
「千鳥は独特な海女言葉を用いて、辺境の素朴な娘心を描き出しています」
(5)内山美樹子『浄瑠璃史の十八世紀』(勉誠社, 1989)
p.143 「平家女護島」小考―「鬼は都に」―
p.149 「文楽の現行曲では、千鳥のせりふは、故意に大阪アクセントから外れた独特の「海士訛り」で語られる。(中略)千鳥のせりふを誇張した「さつまなまり」で書いたには相違なく、その語彙上の珍しさだけでは観客への効果が十分に期し難くなった再演以降、(中略)アクセント上の日常的安定感を、ある意味で混乱させるような演出すら、必要とされた」
p.152 「「鬼界が島に鬼はなく鬼は都にありけるぞや。」は千鳥のせりふであるが、さつまなまりならぬ抽象的な文語で、地色で語られ」
→注より、
・内山美樹子. 「平家女護島」の「蜑余波(あまのなごり)」と「蜑訛り(あまなまり)」. 演劇学. 1988, (26), p.84-85.
→上演時の演出としての「訛り」について書かれている。
・坂本清恵. 義太夫節の訛り―「蜑訛り」について. 演劇研究. 1986, (11), p.114-147.
→上演時のアクセントが大阪アクセントではない場合(訛り)を版本と音声資料によって研究している。
→以上から、千鳥のせりふには、「さつまなまり」「海女言葉」「大阪訛り」「文語」が挙げられる。
→せりふを逐語的に解説している資料はなかった。
2.方言資料
・東條操編『全国方言辞典』(東京堂, 1951)
巻末「方言概説」p.877~880に「九州方言」の解説。
・平山輝男『県別方言の特色』(角川書店,1983)
・井上史雄ほか編『九州方言考5(日本列島方言叢書27)』(ゆまに書房, 1999).
・日本放送協会編『全国方言資料: 第6巻 九州篇』(日本放送出版協会, 1966)
・日本放送協会編『全国方言資料: 第9巻 へき地・離島篇 Ⅲ』(日本放送出版協会, 1967)
・橋口満著『鹿児島県方言辞典』(桜楓社, 1987)
※その他参考資料(近松の表現について)
・木谷蓬吟. “浄瑠璃語の特異性”. 国語文化講座 第4巻: 国語芸術篇. 朝日新聞社, 1941, p.128-144.
p.134-135「近松はまた、大阪の方言を基準として、各地の方言を如才なく採り入れ、民衆芸術としての効果を狙っている。……大阪方言も実際では、各地方言の大阪化したものや、……近松は常に此等方言を盛んに作中に利用したから、長州語とか藝州語とか、或は薩摩、長崎、会津、四国、九州の方言などの混入となつたことは当然であるが……」
・浮橋康彦, 真下三郎著 ; 表現学会監修『小説と脚本の表現 : 井原西鶴・近松門左衛門』(表現学大系 / 表現学会監修;各論篇 ; 第7巻)(教育出版センター, 1986)
近松門左衛門>世話物の表現>第三章 近松の表現(真下三郎)
p.161 「しかしまた、現実に行われていることばをそっくりそのまま科白に用いて、果たしてそれで効果があがるか」「それについて近松は一家言をもち」「「難波土産」に次のようにある」
→以下引用部分は「近松の言説(「難波みやげ」発端抄)」として「近松浄瑠璃集 下 」p.356~に掲載あり。
- 事前調査事項
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CiNii Articlesで「近松」「方言」などで検索してみた。
近松が大阪の方言を使っているという文献はあった。
- NDC
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- 方言.訛語 (818 9版)
- 戯曲 (912 9版)
- 参考資料
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日本古典文学大系 第50. 岩波書店, 1959.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000953256-00 (NCID:BN01071258
別タイトル:近松浄瑠璃集. 下) -
藤田洋 編. 文楽ハンドブック 改訂版. 三省堂, 2003.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000004074604-00 , ISBN 4385410488 (NCID:BA61586844) -
髙木浩志 著. 文楽に親しむ. 和泉書院, 2015.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I026316125-00 , ISBN 9784757607453 (NCID:BB18551209) -
山田庄一 著. 文楽. ぎょうせい, 1990. (伝統芸能シリーズ ; 3)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002028668-00 , ISBN 432401812X (NCID:BN04289612) -
内山美樹子 著. 浄瑠璃史の十八世紀. 勉誠社, 1989.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002067539-00 (NCID:BN04089996) - 内山美樹子. 「平家女護島」の「蜑余波」と「蜑訛り」. 1988. 演劇学. (26) p.84-85.
-
坂本 清恵. 義太夫節の訛り--「蜑訛り」について. 1986-06. 演劇研究 (11) p. p114~147
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I2803431-00 -
東条操 編. 全国方言辞典. 東京堂, 1951.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000885868-00 (NCID:BN01744326) -
平山輝男 編. 全国方言辞典 1 (県別方言の特色). 角川書店, 1983. (角川小辞典 ; 33)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001602248-00 (NCID:BN01766114) -
井上史雄 [ほか]編. 九州方言考 5. ゆまに書房, 1999. (日本列島方言叢書 ; 27)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002855419-00 , ISBN 4896688538 (NCID:BA44199830) -
日本放送協会 編. 全国方言資料 第6巻 (九州編). 日本放送出版協会, 1966.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000934547-00 (NCID:BN0536400X) -
日本放送協会 編. 全国方言資料 第9巻 (へき地・離島編 第3). 日本放送出版協会, 1967.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000934550-00 (NCID:BN0536400X) -
橋口満 著. 鹿児島県方言辞典. 桜楓社, 1987.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001865359-00 , ISBN 427302182X (NCID:BN01206641) -
国語文化講座 第1-6巻. 朝日新聞社, 1942.(第4巻: 国語芸術篇)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000685466-00 (NCID:BN02590341) -
表現学大系 各論篇 第7巻. 教育出版センター, 1986.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001814665-00 , ISBN 4885829194 (NCID:BN00699463)
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日本古典文学大系 第50. 岩波書店, 1959.
- キーワード
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- 近松門左衛門
- 平家女護島
- 千鳥
- 方言
- 浄瑠璃
- 文楽
- 薩摩訛り
- さつまなまり
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 学生
- 登録番号
- 1000207235