レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2015/04/10
- 登録日時
- 2015/07/16 00:30
- 更新日時
- 2015/07/16 00:30
- 管理番号
- 6001009018
- 質問
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解決
「寛政重修諸家譜20巻」において、第1366(338ページ)上段「諸兄より正成までの世系は舊家橘氏の惣括にみえたり」という文がありますが、楠家は舊家橘氏の子孫であるという証明ができる書物をさがしたい。
- 回答
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まず橘氏の出自であることが記されている資料を紹介します。
1.史料
・『日本古典文学大系 34 太平記』(岩波書店 1960.1)
97頁 「河内國ニ橘正成ト云者アリキ」の記述があります。
・『日本古典文学大系 87 神皇正統紀・増鏡』(岩波書店 1965.2)
「神皇正統紀」に「河内国ニ橘正成ト云者アリキ」という記述があります(p.173)。
・『神皇正統記 教育社新書』(北畠親房/原著 教育社 1980.6)
上記の現代語訳で、267頁 「河内国に橘(楠木)正成という者がいた」の記述があります。
・『国史大系 [第60巻下] 尊卑分脉 第4篇』(黒板勝美/編輯 吉川弘文館 1987)
45-55頁に「橘氏」の系図が収録されており、51頁に「正成」の名が記されています。
※『故実叢書』の『尊卑文脈』は国立国会図書館のデジタルコレクションで一般に公開されています。
・『群書系図部集 第六』(続群書類聚完成会 1985)
14-17頁にも2種類の系図が載っています。
・『広文庫 第6冊 き、く』(物集高見/著 広文庫刊行会 1926)
704-710頁 に「楠木氏」の項目があり、その中に数点の資料が引用されており、橘氏出自と書かれた資料があります。
〇「本朝武家評林」:井手左大臣橘諸兄公十一代ノ後胤
〇「楠木氏の家紋(故実叢書安斎随筆)」:或説に、楠は井手左大臣諸兄公の末孫也
〇「牛馬問(温知叢書)」:橘諸兄公・・・是れ河陽候正成の先祖なり
※『広文庫』も国立国会図書館のデジタルコレクションで一般に公開されています。
2.事典等
・『姓氏家系大辞典 第2巻』(太田亮/著 角川書店 1963)
2053-2060頁に「楠木」の項目があり、「太平記」の記述を引用して「此の氏の橘氏なることは疑ひなきが如し」と書かれています。ただし系図に関しては『尊卑文脈』以外にも異なった系図があることも紹介されています。
・『日本家系・系図大事典』(奥富敬之/著 東京堂出版 2008)
326-329頁が「楠、楠木」の項で、329頁に橘諸兄以来の系図が記されています。
全部で4種類あり(尊卑分脈』、「梶川系図」、「楠氏系図」、「美作玉林院橘系図」)、いずれも少しずつ人名が異なっています。
・『日本人名大事典2』(平凡社 1979.7)
この資料は、「新撰大人名辞典」(1937~41年刊)の改題復刻です。
406-407頁に「楠木氏」の項目があり「本姓橘氏。敏達天皇四代の孫、左大臣橘諸兄の後胤にして、長く河内国金剛山の西に居る」と書かれています。
・『大辞典 7・8 カワ-クトン』(平凡社 1953)
588頁 楠氏(クスノキウジ)「敏達天皇四代の孫橘諸兄後裔」の記述があります。
以上が、お尋ねの楠木氏の出自は「橘氏」である旨記載されている資料です。
ただし現在は、『国史大辞典』や『世界大百科事典』のように「信憑性が少ない」、あるいは「不明」としている資料が多いように見受けられました。
参考までに数点紹介します。
・『世界伝記大事典 日本・朝鮮・中国編 2 かと~さ』(ほるぷ出版 1978.7)
189頁 「その家系については、“太平記”にも橘諸兄の後胤とあり、また正成自身も‘橘朝臣’と署名しているものもあって、楠木氏が橘氏から出たことは当時、人々によって認められていたのだろう。しかし現在それを実証することは困難であり、また疑問もある。(中略)要するに楠木氏と正成の前身は、河内国の一土豪であったということのほかは深いベールに包まれて、詳しいことは何一つわかっていないのである。」の記述があります。
・『日本史大事典2』(平凡社 1993.2)
991頁に「楠木氏」の項目があり、「橘氏を称するが出自は不明」と書かれています。
・『日本中世史事典』(阿部猛/編集 朝倉書店 2008.11)
393頁「楠木正成」の項目に「父は橘正遠といわれるが未詳・・・橘氏を本姓とするとされるが詳細は不明」と書かれています。
・『鎌倉・室町人名事典』(安田元久/編 新人物往来社 1990.9)
165-167頁に「楠木正成」項目があり、そこには「本姓は橘姓、橘諸兄の子孫と称し、菊水の家紋を用いた。父は正遠と伝えているが判然としない」との記述があります。
・『黒田悪党たちの中世史』(新井孝重/著 日本放送出版協会 2005)
235頁に正成や正行の署名から楠木氏が橘氏の出である、と記載されています。
なお、この説は、次に紹介する『楠木正成』の中で、妥当性を欠き、「疑う余地がある」と改められています(63頁)。
・『楠木正成』(新井孝重/著 吉川弘文館 2012)【中之島図書館所蔵】
57-63頁の「楠木氏はどこから来たのか」の節には、生田目経徳の『楠木氏新研究』を引いて、任官するには源・平・藤・橘のいずれかの姓が必要で、「正成のときになって兵衛尉に任官するため、橘氏を借りたのではないだろうか」(62頁)と書かれています。
・『楠木氏新研究』(生田目経徳/著 吉川弘文館 1935)【中之島図書館所蔵】
は、楠木系図の諸本等を検討して楠木氏の橘氏出自を否定するものとなっています。
系図の諸本を検討している、と記したとおり、楠木氏の橘氏出自に否定的ではありますが、上記を含むさまざまな系図が記載されています。
この本は中之島図書館所蔵の資料ですが、国立国会図書館のデジタルコレクションでも図書館間送信で閲覧することができます。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1684963(2015/04/10現在) (こちらは改訂版です)
[事例作成日:2015年4月10日]
- 回答プロセス
- 事前調査事項
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国史大辞典、世界大百科事典
- NDC
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- 伝記 (280 8版)
- 参考資料
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- 日本古典文学大系 34 岩波書店 (97)
- 日本古典文学大系 87 岩波書店 (173)
- 神皇正統記 北畠/親房∥原著 教育社 (267)
- 国史大系 [第60巻下] 黒板/勝美∥編輯 吉川弘文館 (45-55)
- 群書系図部集 第6 塙/保己一∥編纂 続群書類従完成会 (14-17)
- 広文庫 第6冊 物集/高見∥著 広文庫刊行会 (704)
- 姓氏家系大辞典 第2巻 太田/亮∥編 角川書店 (2053-2060)
- 日本家系・系図大事典 奥富/敬之∥著 東京堂出版 (326-329)
- 日本人名大事典 2 平凡社 (406-407)
- 大辞典 7・8 平凡社 (588)
- 世界伝記大事典 日本・朝鮮・中国編 2 ほるぷ出版 (189)
- 日本史大事典 2 平凡社 (991)
- 日本中世史事典 阿部/猛∥編集 朝倉書店 (393)
- 鎌倉・室町人名事典 安田/元久∥編 新人物往来社 (165-167)
- 黒田悪党たちの中世史 新井/孝重∥著 日本放送出版協会 (235)
- 楠木正成 新井/孝重∥著 吉川弘文館 (57-63)
- 楠木氏新研究 生田目/経徳∥著
- キーワード
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 書誌事項調査
- 内容種別
- 人物・団体
- 質問者区分
- 個人
- 登録番号
- 1000177329