レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2014/02/19
- 登録日時
- 2014/12/22 00:30
- 更新日時
- 2016/03/14 16:22
- 管理番号
- 0000001062
- 質問
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解決
香箱(甲箱)ガニの名前の由来が知りたい。
- 回答
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(1)五木寛之著「風に吹かれて」(『五木寛之エッセイ全集 2』)p264-265によると、
「日本海側の魚については有数の権威者である岡良一氏から、こんな話を聞いた。岡氏は中野重治氏、窪川鶴次郎氏、森山啓氏などと共に四高で活躍していた往時の文学青年で、国会釣クラブのリーダーとして活躍した政治家だ。
地元の詩人だった村井さんという友人と、当時金沢に住んでいた犀星の家へ呼ばれて行った時の話である。
犀星は目の前にコウバコガニを数匹並べて首をひねって曰く、
「コウバコガニとはどう書くのかのね」
「さあ」
「定まった漢字がないのなら、ひとつわれわれで字を考えようじゃないか」
というわけで三人で頭をひねった。(中略)やがて村井青年が、
「日本海の香りを秘めたカニということで、香箱蟹というのはどうでしょう」
「うむ、香箱蟹か。なるほど」
犀星先生、何度か、掌に字を書いてみて、
「きみ、箱はちょっとあれだ。香筐蟹とした方がいいじゃないか」
と、あります。(すでにお調べのものです。)
(2)泉鏡花著「卵塔場の天女」(『石川近代文学全集 1』)p403には、
「こうばく蟹いらんかねえ、こうばく蟹買つとくなあ。」(中略)
(子をば食ふ蟹)か、と考えた。・・・・・・女が売るだけにこれは不躾だつた。香箱蟹ださうである。ことりと甲で蓋をして如何にも似て居る。」
とあります。
(3)山本健吉著「鏡花の芸術」(山本健吉全集 第11巻)p344には、
「彼(鏡花)は金沢のこうばく蟹の由来を私にしてくれたが、これは外のどんな金沢人からも聞いたことのない話であった。
ずわい蟹のめすはずっと小さくて、こうばく蟹と言う。それは香箱に似ているから、そう呼ぶのだと思っていたが、そうじゃないんだね。金沢では可愛いということを、「こうばく」と言うのだ。小さく、ませているのが「こうばく」なのだ。ずわい蟹のめすは、おすの四半分くらいの大きさだが、腹にぎっちり子がつまっていて、それが何とも言えずうまい。だからこうばくなんだね。
この泉鏡花説を石川県出身の杉森久英君にしたら、それははじめて聞く説だが、当たっているにちがいない、と言った。」
とあります。
(4)山本健吉著「妣の国」(石川近代文学全集 14)p386には、
「鏡花はこの名前について、香箱みたいな形だから、こうばく蟹というのだと思っていたが、それはまちがっていた。こうばくとは金沢では可愛いということなのだ。可愛い蟹ということだった、といった。
鏡花のこの説は、金沢でも知らない人が多い。だが私は、母がある時、「こうばくなお子や」といったことを耳にしていた。小さくて、可愛くて、しかもませている、といった感じで使う。小さくても子(味噌)をもっているこうばく蟹は、まさに可愛くて、ませているといえるであろう。」
とあります。
(5)「鏡花、犀星も悩んだコウバコ」(『頑張りまっし金沢ことば』)p106~107では、
上記の説のほかに、
・「先祖の言い伝えでは、高貴な人が食べたから香箱という漢字を当てた」
・「甲羅の中の子が真っ赤で爪などは白い。その対照的な色合いから紅白となった」
などの説も載せています。
(6)『石川県方言彙集』p70によると、
「こーばくな」を「マセクラシイ、オトナブル」としていて、こういう方言があることは確かなようです。
(7)小林輝冶著「鏡花による方言の問題一、二-「凧(いか)あげ」と「こうばく蟹」-」(『金沢都市民俗文化研究所研究報告書 平成23年度』)p22には、
「金沢ではませた子のことをコウバクな子やっていうがや。コウバク蟹は小さいが甲羅が赤いやろ。それで人前でこっちの顔の赤くなるようなことも平気でいう、それがコウバクながや、そういうコウバクな子のイメージに重ね「コウバク蟹」といういうわけや。コウバクなという方言を正面から教えられて成程と合点した。今からもう五〇年以上前に聞いた話である。」
とあります。
- 回答プロセス
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Google booksで検索してヒットしたもの、方言関連の図書を確認。
- 事前調査事項
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五木寛之著「風に吹かれて」(『五木寛之エッセイ全集 2』)p238、p263~265にあり。
- NDC
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- 水産業 (66 9版)
- 参考資料
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- 1 五木寛之エッセイ全集 2 五木/寛之?著 講談社 1979.10 914.6/1594/2
- 2 石川近代文学全集 1 小林/輝冶?[ほか]編集 石川近代文学館 1987.7 K908/3/1
- 3 山本健吉全集 第11巻 山本/健吉?著 講談社 1983.10 910.8/22/11
- 4 石川近代文学全集 14 小林/輝冶?ほか[編集] 石川近代文学館 1993.9 K908/3/14
- 5 頑張りまっし金沢ことば 北国新聞社編集局?編 北国新聞社 1995.5 K810/33
- 6 石川県方言彙集 石川県教育会∥編 国書刊行会 1975 K810/6
- 7 金沢都市民俗文化研究所研究報告書 平成23年度 金沢都市民俗文化研究所?編集 金沢都市民俗文化研究所 2012.3 K381/1001/011
- キーワード
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- 香箱ガニ
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000165192