レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022年08月07日
- 登録日時
- 2023/01/18 14:26
- 更新日時
- 2023/02/28 11:00
- 管理番号
- 中央-1-0021611
- 質問
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解決
日米戦争の基本的原因といわれる日本陸軍によるアメリカ在華権益の侵害問題に対し、その解決策として日本側は謝罪・補償が検討され、一部実行もされたといわれている。
しかし日本側は中央の意向と現地陸軍及びその他機関との行き違いから、米国側の被害はおさまらず、憤懣は大きく、日米通商航海条約の破棄からその後さまざまな禁輸策実施に発展し日米戦争不可避の事態に発展してしまった。
アメリカのいかなる権益を侵害し、その規模はどの程度大きいものであったのか、資料、論文等あったら紹介してほしい。
- 回答
-
回答プロセス中の○印の資料を紹介した。
- 回答プロセス
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●「日本陸軍 アメリカ 対中権益 侵害」でインターネット検索してみると、以下のページがヒット。
・「インターネット特別展 公文書に見る日米交渉」
https://www.jacar.go.jp/nichibei/negotiation/index.html(2023.02.04最終確認)
https://www.jacar.go.jp/nichibei/reference/index14.html(2023.02.04最終確認)
「パネー号事件等の、日本軍によるアメリカの在中国権益侵害事件が頻発するにともなって」とあるので、パネー号事件について調べてみる。
○『第二次世界大戦 発生と拡大』軍事史学会/編集 錦正社 1990年
p95-124「揚子江の危機 再考パネー号事件」
1937年12月12日に、日本海軍航空機が中国の揚子江に停泊していたアメリカの砲艦パネー号を撃沈した事件についてまとめている。条約によって保証されている中国における外国人の権利が侵犯されたものとして取り扱われ、日本側は最終的に謝罪・賠償した。
●210.7の棚を見てみる
○『日中戦争 日本・中国・アメリカ』中央大学人文科学研究所/編 中央大学出版部 1993年
p391-465「第七章 日中戦争とアメリカ国民意識」で、パナイ(パネー)号事件を取り上げている。
特に、
p415「第一は、中国におけるアメリカの権益や財政に対する日本軍の侵犯行為に抗議する記事で、日本軍占領下の南京におけるアメリカ人施設や財産が、日本兵に頻繁に略奪されている状況を報道したものである。」
p419「アメリカが中国において歴史的に築き上げてきた「合法的」権益と権利に対する侵害であるという怒りの表明も多くなされた。その一例は、パナイ号が所属したアメリカの長江警備艦隊(ヤンツー・パトロール)は、1858年の米清条約に基づいて存在するものであり、同号は、中国において「合法的」に活動しているアメリカ国民を保護し、円滑なる交通を維持し、アメリカの外交・領事施設を守るという任務に従事していたのに~(以下略)」
p420「アメリカが中国で維持しようとしている、条約で保障された権利と利益が、日本の外交官だけでなく、日本の軍隊にも尊重されなければ、友好関係の維持は明らかに不可能である」
また、ハル国務長官のアメリカの中国権益擁護論において、日中全面戦争が始まった1937年8月時点におけるアメリカの在華権益総額として次の数字を挙げている。
p452「中国在住アメリカ人=1万人、兵隊および水兵=4000人、軍艦=3隻、アメリカ人の投下資本=1億3200万ドル、中国の債務不履行によるアメリカ債権=4000万ドル、中国在住アメリカ人の施設・財産=3500万ドル、アメリカ伝道団・慈善団体施設・財産=4000万ドル」
○『日中戦争と日本の国際関係』富岡 康二/著 富岡 康二 2019年
p246-248「二、中国をめぐる日米の「門戸開放」、「機会均等」」において、日本の主張(「門戸開放」には同意するが、「機会均等」には不同意、満州における日本の「特殊権益」擁護)に対して、米国は次のように解釈している、という記述がある。
「・日本の満州に対する「特殊権益」に関しては石井・ランシング協定により米国も承認するところであるが、権益の範囲は鉄道・産業などの一部分であるが、日本はそれを「優越的地位」と拡大解釈して、他国を排除できる権利であるとするのは問題である」
「・「門戸開放」にもかかわらず米国の大連向け輸出は60%減少し、日本の輸出は30%増加した。日本の主張は開放ではなく、封鎖に等しい。門戸開放と機会均等は両立して初めて意味を持つ。」
×『近代日本人のアメリカ観 日露戦争以後を中心に』沢田次郎/著 慶応義塾大学出版会 1999年
×『昭和時代 戦前・戦中期』読売新聞昭和時代プロジェクト/著 中央公論新社 2014年
○『日中戦争全史 上』笠原十九司/著 高文研 2017年
p313-322「9 パナイ号事件 真珠湾攻撃への序曲」
『日中戦争 日本・中国・アメリカ』にも出てきた「パナイ号事件」。
p317抜粋「日本海軍と政府はパナイ号事件にたいして、日本軍機の乗員がパナイ号の星条旗を認識できずに中国艦船と誤って爆撃、撃沈した「誤爆」であったとひたすら謝罪、アメリカ側が請求するとおりの賠償金を全額支払った。(中略)日本ではアメリカ政府の謝罪・賠償受け入れで「円満解決」されたとして、以後、現在にいたるも、パナイ号事件がもった深刻な歴史的意味が考えられていない。」
下巻は記述なし。
p316に、以下の本でパナイ号事件を詳しく取り上げているとの紹介あり。
○『日中全面戦争と海軍-パナイ号事件の真相-』笠原十九司/著 青木書店 1997年
p137「それまでの都市爆撃において、アメリカ人のキリスト教伝道団が経営する病院や学校、教会施設がいくつも爆撃の被害を受けていた。」
p146「アメリカ人の施設・財産に対する、海軍機の爆撃――外務省の誤爆の弁明と陳謝――海軍機の爆撃――外務省の誤爆の弁明と陳謝そしてもっとひどい爆撃――この反復による爆撃のエスカレートがやがてパナイ号事件に行き着くことになる。」
p207「(略)米英恐れるに足らず、という海軍の慢心が、ブリュッセル会議以後さらに増長され、しだいに英、米などの在華権益を駆逐しようという意図さえ含むようになり、空爆作戦による外国人の施設・財産・生命の侵害に対して無神経になっていった。」
×『海軍の日中戦争-アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ-』笠原十九司/著 平凡社 2015年
・国立公文書館「アジア歴史資料センター」
https://www.jacar.go.jp/(2023.02.04最終確認)
「パナイ号」「パネー号」でひくと当時の文書が見られる。
●Googleブックスで検索
○『安吾さんの太平洋戦争』半藤一利/著 PHP研究所 2013年
p107「すなわち、ちょっと戻るが、昭和十三年十二月三十一日、駐日アメリカ大使グルーが日本政府に抗議通牒を突きつけてきた。その内容は、中国における米国の権益が日中戦争のために実に六百件近くも侵害されているという事実、それと日本政府が声明する「東亜新秩序」なるものが、あまりにも専断的であり、とうてい承認しがたいということ、などについてであった」
×『太平洋戦争への道-開戦外交史-3 新装版』日本国際政治学会太平洋戦争原因研究部/編 朝日新聞社 1987年
○『太平洋戦争への道-開戦外交史-4 新装版』日本国際政治学会太平洋戦争原因研究部/編 朝日新聞社 1987年
p189-190 野村外相とグルー大使との間の日米国交調整の交渉において、グルー大使が野村外相に非公式な文書として手交した文書の中で、日本の在華アメリカ権益の侵害について以下の5点を指摘している、との記述あり。
1.アメリカ人財産への不断の爆撃。爆撃被害は戦争勃発以来187件、死者4人負傷50人に達する。
2.爆撃による以外の財産の侵害および侮辱。203件に上る。
3.中国の被占領地域でなされているアメリカその他西欧諸国への宣伝運動。
4.日本当局およびその代理機関によるアメリカ貿易の制限。米国権益をして数百万ドルの損害を被らしめ、また米国のある種の大産業を死滅の危機にさらしている。
5.中国においてアメリカが持っている条約上の権利(海関管理機関の存続、外債利子支払い、治外法権等)。
○「対中勢力圏化構想と九カ国条約、1933~35:外務省の対中政策と日米関係」湯川勇人
『神戸法学年報』29:191-217 2015年
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/81009137.pdf(2023.02.04最終確認)
p200(PDF11枚目)「(2)満洲における石油業の統制」
これをずっと読んでいくと、p204(15枚目)に下記の記述あり。
「このような日本の対応を受けて、グルーは「日本政府は満州国におけるアメリカの石油権益を保護する意図は明らかになく、これ以上の東京での外交交渉は何ら効果を示さないであろう(略)」
中国における石油の権益についての対立があったことがわかる。
○『南京事件資料集 1 アメリカ関係資料編』南京事件調査研究会/編訳 青木書店 1992年
p26「日本軍の民間人の生命・財産への爆撃の一例」で、爆撃を受けた日付や被害が記録されている。このほかにも主にパナイ号事件・南京事件のアメリカに関係する資料が多数収録されている。
●駐日アメリカ大使グルーについて調べてみれば、彼の抗議通牒の具体的な中身なども分かるか?
△『日米開戦の悲劇 ジョセフ・グルーと軍国日本』福井雄三/著 PHP研究所 2012年
p96「アメリカが九カ国条約に固執したのは、シナ大陸におけるアメリカの経済的権益が、シナ事変での日本軍の軍事行動によって侵害されている、というのがその理由だった。」
具体的な記述ではないので紹介せず。
×『駐日米国大使ジョセフ・グルーの昭和史』太田尚樹/著 PHP研究所 2013年
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本史 (210 10版)
- 参考資料
- キーワード
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- 太平洋戦争
- 米国対中権益
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000327551