レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2000/07/26
- 登録日時
- 2010/08/27 02:00
- 更新日時
- 2016/12/16 17:16
- 管理番号
- 長野市立長野-00-034
- 質問
-
未解決
唐詩選 丁仙芝「渡揚子江」の一文が「海盡邊陰靜」と「海盡邊音靜」と本によって二通りあるが、どちらが正しいのか
- 回答
-
どちらの説もあるようですので、どちらが正しいか確定することができませんでした。
【追記:2016年12月16日】
国立国会図書館レファレンス協同データベース事業サポーター 寺尾様より、
初唐詩の作者・作品に関する異説について、以下の論文のご紹介がありましたので追記しました。
初唐詩の作者・作品に関する異説について : 宋之問の詩のばあい
安東俊六
中国文学論集 2, p.1-10, 1971-05-01
http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/recordID/9823
http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/9823/p001.pdf
- 回答プロセス
-
『唐詩選』(東方書店 1989)p89
『漢詩選 6』(集英社 1996)p248
『唐詩選』(明治書院 1996)p91
は「音」
『唐詩選 中』(朝日新聞社 1996)p80
『名勝唐詩選 下』(日本放送出版協会 1996)p50
『唐詩選 上』(岩波書店 1983)p334
は「陰」
となっている。
また、
『漢詩選 6』では注に「一本に音が陰になっている。それなら海上の陰気をいう。」
とあり、両方の説があることが示されている。
『唐詩選 上』では「辺陰 海上に立ち上る陰気ととる説、岸辺のかげととる説、視野のはてのうすぐらいあたりととる説がある。また「辺音」となっている本もあり、岸辺の波の音、辺境地帯の騒乱の音などと解釈が分かれている。いずれにしても上の「海尽」の解釈と関係する。」とあり、解釈にも違いがあることがわかる。
別件として、この詩は作者についても論争があるよう。
『名勝唐詩選 下』では作者は孟浩然となっており、注に「丁仙芝の作とも言われている」とある。
『唐詩選 中』でも「ちなみに「国秀集」は、これを孟浩然の作とするが、現存の「孟浩然集」には収録されていないという事情もあり、しばらく、丁仙芝の作として取り扱っておく。」とある。
【追記:2016年11月7日】
「全唐詩庫」で著者から検索をしてみると、2人ともに「渡扬子江」がヒットする。肝心の詩のほうも2句目の2文字以外は一緒である。
・丁仙芝 序号14 巻数114 号014 (2句目・空波)
http://www16.zzu.edu.cn/qtss/zzjpoem1.dll/viewoneshi?js=114&ns=014 <最終確認:2016年11月7日>
・孟浩然 序号122 巻数160 号122 (2句目・京江)
http://www16.zzu.edu.cn/qtss/zzjpoem1.dll/viewoneshi?js=160&ns=122 <最終確認:2016年11月7日>
レファレンスは5句目の「海盡邊陰靜」「海盡邊音靜」についてだが、全唐詩庫では「海尽边阴静」となっている。
そこで全唐詩庫以外の「全唐詩」を検索できるサイトを2つ確認した。
・キーワード「全唐詩 渡揚子江」にて検索
「維基文庫、自由的圖書館」
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%B8%A1%E6%8F%9A%E5%AD%90%E6%B1%9F
「全唐詩全文檢索」
http://cls.hs.yzu.edu.tw/Tang/tangats/Tang_ATS2012/Srch_ListShow.aspx?TsId=03381140006
http://cls.hs.yzu.edu.tw/Tang/tangats/Tang_ATS2012/Srch_ListShow.aspx?TsId=04311600186
<いずれも最終確認:2016年11月7日>
どちらも「海盡邊陰靜」であった。(なお、「盡」は「尽」の、「邊」は「边」の繁体字なので同じ)
「全唐詩庫」で出てきていた「阴」が読めなかったのでネット検索してみる。
「Weblio日中中日辞典」がヒット。読みが「yīn」と判明。
http://cjjc.weblio.jp/content/%E9%98%B4 <最終確認:2016年11月7日>
『講談社中日辞典(第3版)』で「yīn」の項目を確認。「阴」の繁体字が「陰」と判明。
ただし、同じ「yīn」の項目に「音」も確認。
そこで各々の「唐詩選」がどの本を底本としているか確認したが、東方書店以外は複数のものを使用していた。
東方書店は戸崎允明(淡園)のものを使用しており、『漢文大系 第2巻』にて確認できるが、「音」となっている。
岩波書店のものも戸崎允明(淡園)のものを含む複数のものを使用しているが「陰」と違っている。
よって岩波書店は複数の資料により「陰」としたよう。
なお、『国訳漢文大成』(釈清潭 訳・注)においても「音」である。
そもそも「唐詩選」が何なのかを、各資料の序文や『集英社世界文学大事典』にて確認したところ、成り立ちに疑問の残るものであることが判明。
それでもなお、日本においては受け入れられ数々の注釈書が著されたとあり、はっきりとしたことはわからなかった。
いくつかの本が「全唐詩」なども参考にしているとのことだったので、こちらも『集英社世界文学大事典』にて確認。
こちらも「多くの欠陥を有する」とあり「(6)出所の不注記」とあった。
よって、大半の資料は「陰」「音」について記してあるが、「陰」「音」のどちらが正しいかはわからないままとなった。
『中国の古典28』(学研)によると「国秀集」には孟浩然の作、「唐音統籤」には丁仙芝の作としているそうだが、こちらは原文の確認ができなかった。
なお、2句目の違いについては『唐詩選 中』にあるとおり「国秀集」では孟浩然の作とし「京江」に作るとし、そちらの解釈も載っていた。
【追記:2016年12月16日】
国立国会図書館レファレンス協同データベース事業サポーター 寺尾様より、
初唐詩の作者・作品に関する異説について、以下の論文のご紹介があったので追記する。
初唐詩の作者・作品に関する異説について : 宋之問の詩のばあい
安東俊六
中国文学論集 2, p.1-10, 1971-05-01
http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/recordID/9823
http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/9823/p001.pdf
- 事前調査事項
- NDC
-
- 詩歌.韻文.詩文 (921)
- 参考資料
-
- 『唐詩選』石川 忠久/校註 東方書店 1989.11 <921ト> , ISBN 4-497-89261-1
- 『漢詩選 6』齋藤 晌/〔訳〕著 集英社 1996.09 <921カ6> , ISBN 4-08-156106-0
- 『唐詩選 (新書漢文大系 6)』目加田 誠/〔訳〕著,渡部 英喜/編 明治書院 1996.06 <921ト> , ISBN 4-625-57306-8
- 『唐詩選 中』高木 正一/著 朝日新聞社 1996.12 <921タ2> , ISBN 4-02-259007-6
- 『名勝唐詩選 下』高木 重俊/著,石 嘉福/著 日本放送出版協会 1996.07 <921タ2> , ISBN 4-14-001771-6
- 『唐詩選 上(岩波クラシックス 43)』李 攀竜/編,前野 直彬/注解 岩波書店 1983.09 <921ト>
- 『講談社中日辞典 第3版』相原 茂/編集 講談社 <R823コ> , ISBN 978-4-06-265343-5
- 『漢文大系 第2巻 増補版』富山房編集部/編 富山房 <082カ>
- 『国訳漢文大成 文学部 第5巻』東洋文化協会 <082コ>
- 『集英社世界文学大事典 2』『世界文学大事典』編集委員会/編 集英社 <R903シ2> , ISBN 4-08-143002-0 (p749-750「全唐詩」)
- 『中国の古典 28』藤堂 明保/監修 学研 <082チ> , ISBN 4-05-400109-2
- キーワード
-
- 丁仙芝
- 孟浩然
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 登録番号
- 1000070509