考古学関係の辞典では次のような記述があります。
『日本考古学用語辞典 改訂新版』(学生社 2004)
持送:建築上の用語。本来突きだした部分を支える施設であるが、考古学では石室の積み方などで、扁平な石材を上方にのぼるにしたがい次第に内傾させて積みあげる技法などの場合に用いる(427p)。
『最新日本考古学用語辞典』(柏書房 1996)
持送式架構:古墳石室壁体を構築する際の石積み法の一種。最下部の基礎石の上に扁平な石を積み上げるのに、上にいくにしたがってしだいに内側にせり出すように積む方法で、最上部に天井石をのせて、その重さで壁体をおさえ石室を堅固にする。たんに持送りともいう (326p)。
『新日本考古学小辞典』(ニューサイエンス社 2005)には持送式架構の項に比較的詳しい記述があります(403,404P)。畿内の芝山古墳、紀伊の岩橋千塚、阿波の美馬地方の段の塚穴式石室、朝鮮半島の例、群馬の伊勢塚古墳の写真が掲載されています。参考文献に挙げられている尾崎喜左雄『横穴式古墳の研究』(当館請求記号【375/131】)の第1篇は「横穴式石室構築に関する基礎研究」で、石室の構造、材質、壁の積み方についての記述があり、参考になると思われます。
古墳石室の持送式架構の例としては他に『考古学を知る事典』(東京堂出版 平成15)に
「この横穴式石室はまず、北九州地方に登場した。もっとも古い例は福岡県老司(ろうじ)古墳や同鋤崎(すきざき)古墳の横穴式石室である。この石室の構築方法は、扁平な割り石を持ち送り状に積み上げており、竪穴式石室と共通する。」(323p)とあります。
各古墳の概要、参考文献については『日本古代遺跡事典』(吉川弘文館 平7)、『図説西日本古墳総覧』(新人物往来社 1991)などの事典で知ることができます。一例として大阪の芝山古墳については、『日本古代遺跡事典』に挙げられている参考文献『日本古墳文化論』(W・ゴーランド著 創元社 昭56)を当館にも所蔵しており(請求記号【320.2/871】)参考になると思われます。
なお「持送り」は上記『日本考古学用語辞典』にあるように建築上の用語ですので、ご参考までに建築関係の辞典の記述を下記に記します。また当館所蔵『建築装飾図譜 第7輯』(洪洋社 1918)【727/1】には持送りの意匠の図が収録されています。
『建築用語辞典』(技報堂出版 1995)957p
持送り:水平の突出部を構造的または装飾的に支承するために設けるもの。種々の形がある
持送りアーチ:組積造で、石材などを順次せり出して積上げアーチ状としたもの
持送り積み:壁などから突出した持ち送りの組積み
持送り庇:柱または間柱から持送り板をくり出してつくった庇。普通はなげし(長押)の上につけられる。
『建築大辞典 第2版』(彰国社 1993)1648p
壁や柱の垂直面から水平に突出させて庇、梁、棚、出窓などの上の荷重を支持する部材またはその構法。構造材に意匠を施すものもある。