レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2010年08月19日
- 登録日時
- 2010/08/30 16:48
- 更新日時
- 2010/09/08 17:15
- 管理番号
- 福井県図-20100819
- 質問
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解決
癌 という字は、いつから使われているのか。また癌 という字について、白川静先生はどのように解釈しているのかが知りたい。
- 回答
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白川先生の字書3部作には、詳しい解釈がありませんでした。白川先生の『字通』、『日本国語大辞典』の記述から、「癌」の字は、中国の宋代からある。日本でも1666年に最初の用例があるが、一般的に使われるようになったのは、1843年ごろからといえそうです。
1:白川静『字統』新訂 2004.12 平凡社 ISBN:4-582-12806-8 より
形声 声符は嵒(がん)。嵒は岩山をいう。悪性の腫瘍で、その組織が次第に増大して嵒のようになるところから、癌という。胃腸・乳・舌・子宮などに生ずることが多い。最も処理・解決の困難なことをたとえていう。
2:白川静『字通』1996.10 平凡社 ISBN:4-582-12804-1 より
形声 声符は嵒(がん)。嵒は岩の初文。悪性の腫瘍で、その組織が次第に増大して岩のようになるので、癌という。宋代の〔衛済宝書〕や楊士瀛の〔仁斎直指方〕に、その症状についての記載がある。
3:『字訓』には、記載なし。
4:『日本国語大辞典』第2版 第3巻 2001.3 小学館 ISBN:4-09-521003-6 より
「癌」1.(注:本文は丸数字)一般に悪性腫瘍をさし、癌腫と肉腫を含むが、狭義には癌腫のことをいう。*合類医学入門(1666)一六「已に潰て深く陥り岩の如きを癌と為す」
(中略)
語誌
(1)「癌」の字は、国字の説もあるが、既に中国宋代の「仁斎直指方」に見える。日本では、1.(本文は丸数字)に挙げた「合類医学入門」のほか、「病名彙解」等が早い例である。
(2)医学知識の関係で、これらでは、内臓癌より乳癌についての記述が中心であるが、例えば「病名彙解」にある「乳岩は治し難き症なり」や、日本で初めて全身麻酔で乳がん摘出手術に成功した華岡青洲の「乳巖治験録」のように、「乳巖」「乳岩」と記したのが一般的であった。
(3)佐藤泰然が一八四三年下総に順天堂を建て、そこで乳がんの手術を行った際、その記録に「乳癌」を使用した。
- 回答プロセス
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1.白川静先生の字書3部作、『字統』『字通』『字訓』を見る。→詳しい解釈はない。
2.1.に詳しい解釈がなかったことから、国字の可能性を考え、新潮日本語漢字辞典、大言海を見る。→新潮日本語漢字辞典には、「国字」とある。大言海には、詳しい解釈がない。
3.「国字」ならば、と『国字の字典』1990.9 東京堂出版 ISBN:4-490-10279-8をみる→出典が「大字典」になっている。
4.『大字典』上田万年/ほか編 1985.6 講談社→詳しく字について説明されてはいない。
5.『大漢和辞典』 諸橋轍次/著 を見る→詳しい字の解説はないが、国字ではなさそう。
6.『日本国語大辞典』を見る。語誌に、中国宋代にこの字が見られ、日本では乳岩、乳巖という記述が一般的だったが、1843年の乳癌手術の記録には、「乳癌」が用いられたとの記述あり。
- 事前調査事項
- NDC
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- 音声.音韻.文字 (821 8版)
- 辞典 (813 8版)
- 参考資料
- キーワード
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- がん
- 癌
- 漢字
- 字源
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000070636