レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2022年06月02日
- 登録日時
- 2022/06/11 16:05
- 更新日時
- 2022/07/12 21:19
- 管理番号
- 県立長野-22-044
- 質問
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解決
画家で詩人の高村光太郎が大正2年(1913年)の夏に上高地に2か月ほど滞在している。このことについて、『信濃毎日新聞』の記事など、その時の様子がわかるものはあるか。はあるか。
- 回答
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『安曇村誌 第3巻』 安曇村誌編纂委員会編 安曇村 1996 【N232/65/3】p.784「高村光太郎と『智恵子抄』」に
光太郎は、大正二年八月、徳本峠を越えて上高地に入り、二か月間清水屋に滞在して油絵を描い
た。光太郎はこのときのことを『智恵子抄』に収められた散文「智恵子の半生」に書いている。九
月にはのちに妻となった智恵子も来て、いっしょに写生に歩きまわったが、このとき清水屋で同宿
したウェストンに彼女のことを妹さんか夫人かと尋ねられ、「友達ですと答えたら苦笑していた」
という。また、二人のことが東京の新聞に「山上の恋」という見出しで誇張して書かれたという記
述もある。
とあった。
また、日本アルプスを世界に紹介したとして著名なウォルター・ウェストンの日記にも、この夏のやり取りが記載されている。『日本アルプス登攀日記』 W.ウェストン著 三井嘉雄訳 平凡社 1995 【786/113】p.198の「8月11日 月曜日」の記述の訳注に、
[ウェストンが嘉門次小屋を訪ねた日、温泉で高村光太郎、茨木猪之吉、窪田空穂たちがウェスト
ンから、夫人が風邪を引いたので静かにしてほしい、と申しこまれた]
とある。ただし、この『日本アルプス登攀日記』によると8月31日には、ウェストン夫妻は上高地を出発し、明科に向かっている。白馬周辺で登山をした後、9月5日以降軽井沢を経て横浜へ戻っている。この『日本アルプス登攀日記』は9月5日の記述を収録したところで終わっている。
『窪田空穂全集 第6巻』窪田空穂著 角川書店 1965 【N980/57/6】[最終確認2022.6.13] に所収されている「日本アルプスへ」という紀行文中に、大正2年8月に高村と上高地で逢ったことが書かれている。p.71の付図にその時に一緒だった茨木猪之吉が描いた、窪田空穂、谷江風、真山孝治、高村光太郎と茨木自身の似顔絵がある。これは空穂の扇子に描かれていて、「8月13日上高地にて」とある。
『窪田空穂全集 第11巻』 窪田空穂著 角川書店 1965 【N980/57/11】[最終確認2022.6.13] p.217-221に「高村君の事それこれ」(『高村光太郎全集 第7巻』(筑摩書房版 1976【918.6/232-1/5】の月報5に所収されたもの)がある。清水屋での様子、ウェストンとのやり取りの記述があった。加えて、窪田が上高地を降りて帰宅する日と、長沼智恵子が上高地入りする日が重なったため、高村が窪田に同行し徳本峠へ行き、島々から上ってきた智恵子と出会うくだりも書かれている。ただし、日付の記載がないため、正確な日付は不明。
『窪田空穂全集 別冊』 窪田空穂著 角川書店 1968 【N980/57/別】[最終確認2022.6.13] p.16-167の「上高地渓谷行」には、当時詠んだ短歌と共に清水屋のことが
「みしみしと廊下つたひて」は、清水屋の実態である。小さな二階屋で、二階には三室あり、一
室にはウェストン夫妻、一室には私たち、いま一室には高村君がいた。階段をあがり降りすると家
が揺れた。「灯かげ」は石油ランプであった。
高村君は以前からの知り合いで、友達づきあいをしていた。茨木君はこの家へ来てからの知り合
いで、つき合いは後年まで続いた。山岳画家で、岳人と称されている。穂高で写生をしつつ故人と
なられたのであった。
と書かれている。なお、『窪田空穂全集』は「図書館・個人送信資料」として、国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている。
『信濃毎日新聞』については、「信濃毎日新聞データベース」を「高村」「ウェストン」「上高地」「白骨(しらほね)」などで検索したが、当該記事のヒットはなかった。また、『長野新聞』については、マイクロフィルムを大正2年7月25日から9月30日まで見ていったが、該当する記事を確認できなかった。一部ピントが合わない部分もあり内容確認できない記事もあった。
なお、『読売新聞』大正2年8月9日第5面の「よみうり抄」に
高村光太郎氏 過日信州白骨温泉に赴きたるが秋季まで滞在して製作に従事すべしと
とある。また、『読売新聞』大正2年10月11日第5面の「よみうり抄」に
高村光太郎氏 今夏より信州白骨温泉にありしがこの程帰京せりと
とあった。
なお、『高村光太郎資料 第4集』 文治堂書店 1977 【918.6/232/6】p.441-442に、「美しい山の上の恋-洋画家連口アングリ-」(大正2・9・5『東京日日新聞』の引用、および註)、窪田空穂「田代沼」(大5・7『日本アルプスへ』天弦社の引用、および註)があった。また、『高村光太郎資料 第6集』 文治堂書店 1973 【918.6/232/4】のp.229-242に、「新しい女智恵子」(大2・9・10『国民新聞』の引用、および註)がある。
- 回答プロセス
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1 『高村光太郎全集』第1巻(誌)、第9巻(随筆)、第14巻(書簡)第18巻(総目次) 高村光太郎著 筑摩書房 1976【918.6/タ】で関係年代を確認する。
2 当館契約の「信濃毎日新聞データベース」で、「高村」「光太郎」「上高地」などをきーわどに検索するが、当該記事は確認できない。
3 上高地のある南安曇郡安曇村(現・松本市)の村誌を調べる。高村の滞在についての記述があった。この記事にウェストンとのやり取りが書かれていたので、ウェストンの著作を探すこととする。
4 『日本アルプス登攀日記』に大正2年夏があったので、内容を確認する。日記には、日本人の画家たちが騒いでいてうるさいといった個所があった。ウェストンの日記には名前が出てこないが、8月11日の訳注で、高村、茨木、窪田の名前が見られた。ウェストンの日記には、高村と智恵子についての記述はない。
5 歌人の窪田空穂(松本出身)の全集から、大正2年夏の作品、日記、随筆などを探す。ウェストンとのやり取りや、高村が智恵子を迎えに徳本峠へ行く様子が書かれていた。また、茨木が扇子に書いた似顔絵も掲載されていて、日付が記されていた。
6 『安曇村誌 第3巻』にあった東京の新聞に「山上の恋」として書かれた新聞を探す。当館契約のデータベース「朝日クロスサーチ(朝日新聞)」「ヨミダス(読売新聞)」「毎索(毎日新聞)」で、大正2年を「高村」で検索した。高村光太郎の上高地行きについての記事は読売新聞のみ。「山上の恋」は確認できなかった。
7 『高村光太郎資料』を調べる。当該新聞記事、窪田空穂の随筆などが、掲載されていた。
8 「ウェストンに彼女のことを妹さんか夫人かと尋ねられ、『友達ですと答えたら苦笑していた』という。」と『安曇村誌 第3巻』が引用している部分について、智恵子の上高地入りの日程(9月)とウェストン夫妻の日程とがかみ合わないため、ウェストンとのやり取りがいつのものかわかる資料は確認できなかった。
- 事前調査事項
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『高村光太郎全集』は確認済み。
- NDC
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- 日本文学 (910 10版)
- 詩歌 (911 10版)
- 日本画 (721 10版)
- 参考資料
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安曇村誌編纂委員会/編 , 安曇村誌編纂委員会 , 安曇村誌編纂委員会. 安曇村誌 第3巻. 安曇村, 1998-03.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I058940672-00 (【N232/65/3】p.784) -
W.ウェストン [著] , 三井嘉雄 訳 , Weston, Walter, 1861-1940 , 三井, 嘉雄, 1936-. 日本アルプス登攀日記. 平凡社, 1995. (東洋文庫 ; 586)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002399466-00 , ISBN 4582805868 (【786/113】p.198) -
窪田 空穂/著 , 窪田‖空穂. 窪田空穂全集 第6巻. 角川書店, 1965.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I005622566-00 (【N980/57/6】) -
窪田 空穂/著 , 窪田‖空穂. 窪田空穂全集 第11巻. 角川書店, 1965.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I005622571-00 (【N980/57/11】 p.217-221) -
窪田 空穂/著 , 窪田‖空穂. 窪田空穂全集 別冊. 角川書店, 1968.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I005622589-00 (【N980/57/別】 p.16-167) -
高村 光太郎/著 , 高村‖光太郎. 高村光太郎資料 第4集. 文治堂書店, 1973.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I005623020-00 (【918.6/232/6】p.441-442)
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安曇村誌編纂委員会/編 , 安曇村誌編纂委員会 , 安曇村誌編纂委員会. 安曇村誌 第3巻. 安曇村, 1998-03.
- キーワード
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- 高村光太郎
- ウェストン
- Weston, Walter
- 窪田空穂
- 上高地
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000317214