レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2019年7月1日
- 登録日時
- 2020/10/28 14:37
- 更新日時
- 2021/03/02 09:20
- 管理番号
- 関大総図 19B-4J
- 質問
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解決
兵藤裕己「日光山縁起と山民―伊勢三郎をめぐって―」(『国文学解釈と鑑賞 52(9) 1987)には以下の記述がある(p.106)。
「近世の猿屋・猿曳の徒はしばしば小山姓を名のり、右巴の紋(秀郷流小山氏の定紋)を付けて下野から出たという由緒を語っていた(『猿屋文書』)」
この「猿屋文書」を探している。
- 回答
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「猿屋文書」なる資料は見つけることができませんでした。
ただし、調査の過程で以下の情報が分かりましたので、参考までにお伝えします。
飯田道夫『猿まわしの系図』の第2章「先学の猿まわし学」では、猿まわしの由来を述べた資料として下記2種類の「猿屋伝書」(「猿屋文書」ではありません)について説明されています。
①阿部正信『駿河雑志』(正しくは『駿国雑志』)に掲載の伝書
②「異本猿屋伝書」(「猿廻記」)
まず、②は『郷土研究』2巻11号に、逸木清流「異本猿屋伝書」(「猿廻記」)として本文が収録されています。また、上記『猿まわしの系図』や、織田紘二「近世大道芸人資料(十六) 猿まわしの系譜(五)」(『芸能』10巻3号)に本書の概要が説明されています。伝書の本文を通覧するに、猿廻しの祖として、建久年間、頼朝公の頃、東国の国司であった小山判官なる人物を挙げ、かつ小山家の定紋が三ツ頭の左巴であることが述べられています(pp.678-680)。同じ『郷土研究』の3巻2号には、太田貞吉「「異本猿屋伝書」を読みて」と題する関連記事の掲載があり、ここでは、猿屋の司となった小山判官はその紋章が三頭の左巴とあることから、下野都賀郡の小山氏に由緒があるのではないかと推測されています(p.101)。
次に、①は『駿国雑志』の「猿屋町 並猿引の事」という項目中に、猿屋惣左衛門という者が「伝ふる所の一巻」として収録されています(pp.264-272)。なお、『猿まわしの系図』では『駿河雑志』と記述されていますが、正しくは『駿国雑志』です。こちらの内容も、簡単ではありますが、『猿まわしの系図』や、「近世大道芸人資料(十八) 猿まわしの系譜(七)」(『芸能』10巻5号)で紹介されています。こちらの原文は漢文ですが、ざっと通覧するに、小山判官政氏という名前は見えるものの、紋章や下野については記述が見当たりませんでした。
また、関連する資料として、柳田国男「猿廻しの話」(『定本柳田国男集』第27巻所収)に、猿まわしの祖についての言及があります(pp.336-340)。ここでは、柳田自身、確実な例証を挙げることはできないと断ったうえで、猿引の大元は近江の小野氏で、彼らが下野に移って今日の猿引の元祖をなしたこと、今日の猿引はいずれも小野氏の紋章である右二つ巴の紋をつけていること、地方の猿引きの権威なるものが美濃、大和、紀伊、尾張などに存しているが、それらの家の記録には悉く先祖は下野より出たとされていること等が述べられています。しかしながら、小山氏についての言及は見当たりませんでした。
上記のとおり、「猿屋伝書」をはじめ関係資料を調査しましたが、お求めの「猿屋文書」の内容に合致するものは見つかりませんでした。
強いて言うならば、内容的に近いのは、柳田国男「猿廻しの話」のようです。先に挙げた「近世大道芸人資料(十六) 猿まわしの系譜(五)」(『芸能』10巻3号)にも、上記「猿廻しの話」について言及があり、猿まわしの大元は近江の小野氏で、彼らが東国に下って、二荒山との縁から下野に定着し、土地の名家小山氏と結びつく経緯があったのかもしれない、と推測されています(p.106)。ただ、仮にそうだとしても、上記の各資料を見るに、紋章については記述が錯綜しており、秀郷流小山氏と、近江の小野氏との関係もはっきりせず、猿屋の多くが小山姓を名乗っていたという記述も見当たりません。以上を総合するに、お探しの「猿屋文書」は、少なくとも今回調査した上記①、②とは全く別の資料であると考えられます。
その他、日光や関東の猿引きに関連した論考として以下の論文があります。こちらも参考までにお知らせします。
大熊哲雄「近世関東における猿引の存在状況」『部落問題研究』 120号
大熊哲雄「日光神領の猿引について」『部落問題研究』125号
大熊哲雄「近世関東における猿引の諸相」『部落問題研究』140号
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 風俗習慣.民俗学.民族学 (380)
- 大衆演芸 (779)
- 参考資料
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- 飯田道夫著. 猿まわしの系図. 人間社, 2010. , ISBN 9784931388581 (当館請求記号 K*779.5*イ, 当館資料番号 102860122)
- 逸木清流. 異本猿屋伝書(猿廻記). 郷土研究. 2(11) (当館請求記号 M*380.5*K6, 当館資料番号 002696371)
- 織田紘二. 近世大道芸人資料(十六) 猿まわしの系譜(五). 芸能. 10(3) (当館請求記号 M*770.5*G3, 当館資料番号 202505341)
- 太田貞吉.「異本猿屋伝書」を読みて. 郷土研究. 3(2) (当館請求記号 M*380.5*K6, 当館資料番号 002696380)
- 阿部正信著 ; 中川芳雄, 安本博, 若尾俊平校注・解説・編集. 駿国雑志 第1巻. 吉見書店, 1976. (当館請求記号 *291.54*A2*1-1, 当館資料番号 300900601)
- 柳田國男著. 定本柳田國男集 第27巻. 筑摩書房. (当館請求記号 L24*380.8*211*27, 当館資料番号 230432140)
- キーワード
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- 猿回し
- 関東地方--風俗・習慣
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 卒業生
- 登録番号
- 1000288728