レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2011年07月08日
- 登録日時
- 2011/07/08 17:49
- 更新日時
- 2015/02/26 13:04
- 管理番号
- 国音2011-0001
- 質問
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解決
マタイ受難曲、61a.レチタティーヴォ(福音史家部分)中の、イエスの磔刑の時刻について、“sechsten Stunde ・・・neunten Stunde”と書かれている原文に対し、「昼の12時、…3時」と訳す例があるが、それは何故か?
- 回答
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日本語聖書では、現在の時法による時刻のみを記し、ユダヤ新約時代の時法由来の表記(併記)をしない例が数多く見られる(当館所蔵の6種類の聖書[2011.7.8現在]は、12時、3時のみの表示)。そうした日本語聖書の表記状況や古い時法の日本での理解度・浸透度の低さを勘案し、マタイ受難曲の日本語訳の中には、原文の古い時法に基づくドイツ語表記(sechsten Stunde, neunten Stunde)の直訳である第六時、第6の刻、第6刻、第九時、第9の刻、第9刻等の表記(併記)を行わないものもあったのではないか?と推測する。
以下、補足説明
「バッハ全集」(②参照)の訳者、樋口隆一先生は以下のように記されている。「邦訳にあたり、聖書の章句〔マタイ福音書第26章と第27章と雅歌6,1(第30曲)〕は、『聖書 新共同訳』(日本聖書協会 1987年)に準拠した。ただし、ドイツ語歌詞はルター訳のドイツ語聖書にもとづいているため、両者の解釈が明らかに異なる場合には、ドイツ語歌詞に即して訳出した。」
又、古い時法について、『新共同訳 聖書事典』(⑥参照)には、「新約時代のユダヤでは、日の出から日没までの日中時間を12に区分する考え方が一般化しており(ヨハネ 11:9)、これを日の出から順次「第1の刻」「第2の刻」・・・と称した。1つの刻の長さは季節によって差が生じるので、今日の1時間と同じではない。新共同訳では、次のように便宜的に今日の時間におおよその換算をしてある。」との記述が見られる。更に、それに続く時刻に関連する一覧からは、「新共同訳 昼の12時、正午 直訳 第6の刻 新共同訳 午後3時 直訳 第9の刻」といった内容も読み取れる。
その点、「新約聖書 新約聖書翻訳委員会訳」(⑤参照)の記載方法は、原文と傍注という形で書き分けており、『聖書 新共同訳』『新共同訳 聖書事典』を平衡して見る複雑さや、平衡作業による誤解を避ける一つの方向を示すものと評価できる。(なぜなら、日の出から日没までを12区分した時法による第六刻は“ほぼ正午頃”で、同様に第9刻は“ほぼ午後三時”〔即ち、現在の時法へのおおよその換算〕とはすぐにはわからない。聖書だけを読んだ者は“昼の十二時”“三時”と疑念なく思い、聖書事典の一覧だけ見たものは、単純に“第6の刻を昼の12時、正午”“第9の刻を午後3時”と誤読する可能性がある。)ただ、新約聖書翻訳委員会訳の惜しい点は、注の中もしくは、直近になぜ“ほぼ”なのか、の解説がない点である。それがあると、もっと納得がいったと思われる。
◆情報 ・日本聖書協会HPから、「新共同訳」または「口語訳」聖書の本文検索のできるページに行くことができま
す。聖書ウィキペディアの外部リンクには、口語訳、新共同訳、KJV、ギリシャ語、ヘブル語聖書の検索、
並行表示へのリンクや舊約聖書,新約聖書(明治版、大正版)を読めるリンク他、大変貴重な情報を入手
することのできるリンクがはられています。
・「日本聖書協会:カトリックと共同で「標準訳」を--2016年刊行めざし聖書新翻訳に着手」『クリスチャン
新聞』 2010年03月14日号 というヘッドラインもネットで検索することができ、新たな翻訳の可能性を見
ることができます。(2013.2.27現在)
- 回答プロセス
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マタイ受難曲関係の楽譜/CD 対訳・解説等での確認と、聖書及び聖書関連文献の調査を行う。
- 事前調査事項
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〔質問内容確認文献〕
①『J.S.バッハ マタイ受難曲』 全音楽譜出版社 2000 p317
“Und von der sechsten Stunde an war eine Finsternis über das ganze Land bis zur neunten Stunde”
「さて、昼の十二時(第六時)から地上の全面が暗くなって、三時(第九時)に及んだ。」(対訳 皆川達夫)
②『バッハ全集 第8曲 ミサ曲、受難曲〔2〕』 小学館 解説書p208|81
“①の原文に同じ”
「さて、昼の12時に、全地は暗くなり、それが3時まで続いた。」(対訳 樋口隆一)
〔関連参考文献〕
③Die Bibel : nach der Übersetzung Martin Luthers : mit Apokryphen und Wortkonkordanz Stuttgart/[herausgegeben von der Evangelischen Kirche in Deutschland und vom Bund der Evangelischen Kirchen in der DDR] : Deutsche Bibelgesellschaft, c1990
“Und von der sechsten Stunde an kam eine Finsternis über das ganze Land bis zur neunten Stunde”
④「聖書 新共同訳」(日本聖書協会 1999)
「さて、昼の十二時に全地は暗くなり、それが三時まで続いた」(マタイ27:45)
⑤「新約聖書 新約聖書翻訳委員会訳」(岩波書店 2004)
「さて、第六刻から、闇が地のすべてを襲い、第九刻に及んだ。」(マタイ27:45)
〔第六刻には、ほぼ正午頃。第九刻には、午後三時頃。の傍注が付されている。〕
- NDC
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- 聖書 (193)
- 参考資料
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- ⑥『新共同訳 聖書事典』2004 日本キリスト教団出版局 p715 時間区分
- キーワード
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- マタイ受難曲
- 歌詞
- 聖書
- 翻訳
- ユダヤ新約時代の時法由来の表記
- 現在の時法による時刻
- sechsten Stunde
- neunten Stunde
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 元教員
- 登録番号
- 1000088217