レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 20200812
- 登録日時
- 2021/01/15 00:30
- 更新日時
- 2021/03/22 13:55
- 管理番号
- 0401002196
- 質問
-
未解決
熊本でかつて作られていた「穂増米(ほませまい)」について、その来歴と江戸時代から明治にかけてどのように広まり、どのくらいの規模で作られていたのかなどがわかる資料が見たい。菊池川流域での栽培や収穫した米の船での搬出の様子等が載っているとよい。
- 回答
-
以下の資料を紹介した。
①『日本水稲在来品種小事典』西尾敏彦/著,農山漁村文化協会,2020年
p.98-99:水稲在来品種一覧の中に
「穂増(穂益)(ほませ)」があり、育成者:ませ女・育成年:天保4年(1833)・育成地:熊本県八代郡高田村(八代市)・来歴:中生、大粒。麦あと栽培に好適。病害虫に強。ただし収量は望めず。明治28年第4回内国勧業博に「各地ニテ多ク耕作セル稲」
として紹介、4県が出品。明治末に熊本県で3,000~4,000ha普及とあり。
文中に引用・参考文献7冊が紹介されていた。そのうち自館所蔵があったものは以下の3冊。
【①の参考文献に紹介されていた資料(自館所蔵あり)】
②『日本農業発達史 2 ―明治以降における―』農業発達史調査会/編著,中央公論社,1978年
p.293:熊本県の稲種類名に「早ホマシ、ホマシ等」とあり。
p.329:第三九表の全国主要稲品種分布表(1899年)の熊本の中に「穂増」あり。
p.416:文中に「多胡穂増」とあり。
p.452:小粒の例として「穂増」あり。
③『日本農業発達史 6 ―明治以降における―』農業発達史調査会/編著,中央公論社,1978年
「九州地方における水稲品種の変遷」の四 熊本県の二、中生種としてp.643に「穂増」が載っており、「本種は寒房とともに本県の最も古き中生種に属するもののごとく、神力及び雄町の普及以前に相当広く平坦地方に分布せるものと推定される。明治末年においても中生種としての栽培面積は雄町に次いで約三~四、〇〇〇町歩に上り、特に八代・葦北両郡に多く天草・下益城の諸郡がこれに次いだ。本種の衰微は主として早穂増への転換によるものと認められる。上記以外の平坦部諸地方においては大部分中正種より晩生種への転換をなしたるに反し上記の諸地方は特に三化螟虫(メイチュウ)の被害の激甚なりしため早植慣行のもとにおいては晩生種の栽培不可能にして本種が神力の侵入から取り残されたものであろう。しかし、本種でもなお年々螟虫の被害が少からず、さらに早熟の早穂増等にその位置を譲ることを余儀なくされ漸次消滅したものと解される」とあり。
一、早生種としてp.641に「早穂増」がありその記述の中に「本種は明治二十七年(一八九四)八代郡の一篤農家により穂増中より選出せるものといわれる」とあり。
④『近世稲作技術史 その立地生態的解析』嵐嘉一/著,農山漁村文化協会,1976年
p.135に肥後米(城北米)の品種として「穂増」という表記あり。
なおp.140に暖地各県における小銘柄の地域別格差として熊本県も載っているが、「穂増」の名前は出ていない。
p.220~の第5節 熊本県のいわゆる「晩化栽培」について、という節も時代が大正に入っており「穂増」については書かれていない。
この他にも載っている箇所があるかもしれないので依頼者自身に確認してもらうこととする。
【①の参考文献の中で国立国会図書館デジタルコレクションで見られるもの】
㋐『米穀論』大脇正諄,裳華房,1900年
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/839779 (インターネット公開2021.2.18最終確認)
118コマ:「「穂增」関西諸國におおし莖太く長さ三尺三寸許無芒にして穂の長さ七寸許粒付蜜なり米粒大く光澤宜しく腹白なし収穫期節及び収量共に前種に似たり」とあり。
123コマ:熊本県の品種として名前あり。
㋑『農事試験場特別報告』第25号農商務省農事試験場,1908年
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1084045 (インターネット公開2021.2.18最終確認)
「米ノ品種及其分布調査」
13コマ:熊本の品種として名前あり,
24コマ:四四 「穂増(ヲマセ)(熊本縣八代郡高田村)天保年間ノ頃高田村ノませ女之ヲ撰出セリ」とあり。(※参考文献では資料名が『農事試験場特別研究報告』となっている)
㋒『六石実収日本一の稲作』戸上信次,興文社,1915年
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/954910 (インターネット公開2021.2.18最終確認)
89コマ:「穂益種は、肥後より移植されたる品種であるが、短期にて成熟するから、麥跡(早稲は麥の成熟を待たれず)に植うることが出来ると言つて、重寶がられてゐる、性質は頑健、病蟲害の患は少ない、男ぶりは甚宜しいが、収量がちと少ない、夫は其筈だ、群集生活力が坪千本位だから致し方がない」とあり。
85コマ:中稲種に「穂益」とあり。
【ブラウジングで探した資料】
⑤『稲 品種改良の系譜(ものと人間の文化史86)』菅洋/著,法政大学出版局,1998年
p.62:「穂増」についての記述(ませ女が選出したことや穂増という名前についての考察など)あり。
p.126:穂増から早穂増への改良について6行ほど記述あり。
【Googleブックスを「穂増米」で検索してヒットし、自館所蔵があった資料】
⑥『熊本県史 近代編 第1』熊本県/編,熊本県,1961年
p.386:「穂増(ホマセ)は天保年間、八代郡高田村(八代市)ませ女が撰出した品種であるが、明治末まで雄町と共に主要な品種として栽培されたものである」とあり。
p.391:「〔穂増〕前述したように、本県において撰出されたもので、大粒であるが品質は良くない。寒坊とともに本県の最も古い中生種に属するもののようで、明治二〇年頃神力種が増加するまでに、相当広く(平坦地方八代郡・芦北郡及び菊池郡)普及したものと思われる。本種は明治二七年(一八九四)八代郡太田郷村亀田嘉次郎が早穂増を撰出している」とあり。
p.389とp.400には品種名として名前あり。
⑦『明治農書全集 第2巻 稲作・一般』農山漁村文化協会,1985年
p.17:品質を評価されている肥後の米として「白玉、実成、穂増、満願寺」とあり。
p.22:p.17にある品種の説明として「穂増」あり。これには「粒つきが密で、米粒は大きく、光沢もよい。腹白はなく、品質良好で収量も少なくない」とあり。
p.34:選種という章に流行米として「白玉、神力、穂増、坊主、奈良稲、関取」と名前があり。
⑧『明治農書全集 第3巻 稲作』農山漁村文化協会,1986年
p.63:「(12)穂増 現熊本県八代市のマセ女が天保四年(一八三三)に選出したとされる品種。「おませ」と呼ぶ。関西地方に多く栽培された。稈は太く、無芒で穂の長さは七寸ほど、粒つきが密で、米粒は大きく、光沢もよい。腹白はなく、品質良好で収量も少なくない」とあり。
p.56:「輸出米の産出国および稲名」の表の中に「肥後国 菊池郡 白玉・宝成・穂増・万願寺」と米名と地名が載っている。
⑨『菊池市史 下巻』菊池市史編さん委員会/編,菊池市 1986年
p.598:「菊池米改良の成果」に穂増の名前あり。
【関連サイト】
花の香酒造「穂増」 http://www.hananoka.co.jp/homashi/ (2020年8月現在)
- 回答プロセス
-
依頼者より『日本水稲在来品種小事典』に載っているのではないかとの情報があり、まずそこから調査を始めた。
p.98-99水稲在来品種一覧に名前が出ており「穂増」の他に「穂益」という字を書くことや、引用・参考文献の紹介もあった。
挙げられた参考文献8冊のうち4冊所蔵していたため、それぞれの中身を調査し「穂増」と表記がある箇所を探した。
また3冊は国立国会図書館デジタルコレクションで見ることが出来たため、これも中を調査した。
この他、自館蔵書の関連ジャンルの書架をブラウジング、Googleブックスで「穂増米」「穂増」「穂益」のキーワードで検索して、載っている資料を探した。
また熊本で見つけられた品種とのことだったので郷土資料フロアでもブラウジングを行った。
集めた資料の「穂増」という言葉が出てくる箇所は探しておいたので、依頼内容にあった「菊池川流域での栽培や収穫した米の船での搬出の様子」などが書かれているかについては、資料を全て依頼者自身で確認してみるとのことだった。
- 事前調査事項
- NDC
-
- 食用作物 (616 10版)
- 農業史.事情 (612 10版)
- 九州地方 (219 10版)
- 参考資料
-
- 日本水稲在来品種小事典,西尾 敏彦/著,農山漁村文化協会,2020.3 (p.98,p.134-135|0141836171|/616.2/ニ/)
- 日本農業発達史 2 明治以降における,農業発達史調査会/編著,中央公論社,1978. (p.293,p.329|0111217279|/612.1/ニ/2/)
- 日本農業発達史 6 明治以降における,農業発達史調査会/編著,中央公論社,1978. (p.643,p.641|0111217428|/612.1/ニ/)
- 近世稲作技術史,嵐 嘉一/著,農山漁村文化協会,1976. (p.135|0110613874|/616.2/ア/)
- 稲,菅 洋/著,法政大学出版局,1998.5 (p.62,p.126|0116886243|/616.2/ス/)
- 熊本県史 近代編 第1,[熊本県]/編,熊本県,1961. (p.386,p.389,p.391,p.400|0110600640|D/201/ク/)
- 明治農書全集 第2巻 稲作・一般,農山漁村文化協会,1985年 (p.17,p.22,p.34|0111944369|/610.8/メ/2/)
- 明治農書全集 第3巻 稲作,農山漁村文化協会,1986年 (p.56,p.63|0111959581|/610.8/メ/3/)
- 菊池市史 下巻,菊池市史編さん委員会/編,菊池市,1986.7 (p.598|0140751736|/219.4/キ/2/)
- 明治三十九年の農場日誌,[荒毛 千代蔵/著],同成社,2008.3 (p.75,p.141|0118455047|/610.7/ア/)
- 稲作大百科1,農文協,農山漁村文化協会,2004. (記載なし|0118012681|/616.2/ノ/1/)
- 米の事典 稲作からゲノムまで,石谷孝佑/編,幸書房,2002. (記載なし|0118169911|/616.2/イ/)
- 図説 米の品種,日本穀物検定協会,1989. (記載なし|0114677628|/616.2/コ/)
- 佐賀米と肥後米(日本産業史大系8 九州地方),山田竜雄/著,東京大学出版会,1960. (記載なし|0111436184|/616.2/ヤ/)
- 肥後米改良果報 第1編,中村貞介/編,肥後米輸出同業組合,1900. (記載なし|0118573401|/616.2/ヒ/)
- 米麥品種改良講義録,熊本縣立農事試驗場/編,熊本縣立農事試驗場,1924. (早穂増については記載あり|0117128660|/615.2/ク/)
- キーワード
-
- 穂増
- 穂益
- ほませ
- ほまし
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- その他
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000292390