レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2014/12/10
- 登録日時
- 2015/07/24 00:30
- 更新日時
- 2015/07/24 09:04
- 管理番号
- 千県中参考-2015-12
- 質問
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未解決
アゴニカの花の写真や説明が書いてある資料を探している。森繁久弥「満洲里小唄(まんちゅりこうた)」の歌詞中に出てくる。赤い花のようだ。
- 回答
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植物辞典等を調べましたが、アゴニカの名を持つ花は見つかりませんでした。
アゴニカは、小さなともしびを意味するロシア語「огонька」の可能性があります。この名を持つ花は見つかりませんでしたが、同じくともしびを意味する「огонёк」の花は確認できました。ただし「огонёк」の花は橙色の花で、赤い花と歌われる「満州里小唄」のアゴニカとは一致しませんでした。
以下、調査の内容をお知らせします。
「満州里小唄」とほぼ同一の歌詞の歌「雪の満州里」では、「アゴニカ」が「オゴニカ」と歌われており、「オゴニカ」も同じ花を指していると思われます。
「オゴニカ」が登場する歌には、西條八十作詞「オゴニカ」、松村又一作詞「国境の春」「さすらいのラーニャ」、吉川静夫作詞「異国に祈る」「国境に咲く花」、大高ひさを作詞「望郷バラライカ」等があり、いずれも赤い花として描かれています。
「オゴニカ」が出てくる歌のうち、確認できた中では西條八十の「オゴニカ」が一番古く、ドイツ映画「トロイカ」(1930)の主題歌として昭和6(1931)年に発表されています。
【資料1】『西条八十詩謡全集 第6巻』(千代田書院 昭11)国会図書館デジタルコレクション(参加館送信)info:ndljp/pid/1228894
p50-51(38コマ目)に「オゴニカ」が収録されており、歌詞の末尾には「「オゴニカ」はシベリヤの荒野に咲く真紅の火のやうな花」との註があります。
【資料2】『西條八十全集 8 歌謡・民謡』(西條八十著 国書刊行会 1992)にもp90-91に「オゴニカ」の歌詞が収録されていますが、解説はありません。
【資料3】『帝国農会時報 12月號 (49)』(帝国農会 1931.12)国会デジタルコレクション(参加館送信)info:ndljp/pid/1889532
p21-23「映画物語 トロイカ」には映画の内容が紹介されていますが、オゴニカは出てきません。映画の舞台はモスクワ郊外です。
【資料4】『こじき袋』 (森繁久弥著 中央公論社 1980)
P145著者が満州の放送局に勤めていた頃のエピソードを綴った「住めば都」という作品の中に、「アゴーニカの赤い花」が出てきます。表記は異なりますが「アゴニカ」を指していると思われます。ただし著者の直接の見聞から書かれた記述ではなさそうです。
「アゴーニカ」でgoogle検索すると、仙台ロシア合唱団の掲示板「ともしびの真実」の記事がヒットします。イサコフスキー作曲「ともしび Огонёк」について、1944年発行の曲集の発見により、不明だった作曲者が判明したとの記事ですが、この曲集掲載時の曲名は「小さなともしび Огонькаアゴーニカ」となっています。
仙台ロシア合唱団の掲示板
http://6614.teacup.com/sendairosiag/bbs/1483
【資料5】「研究社露和辞典」(東郷 正延[ほか]編 研究社 1988)
「огонька」は辞書に掲載されていませんでしたが、「小さなともしび」という訳出や、【資料6】の記述により、火、灯火を意味する「огонь」に「小さいこと」などを表す指小語尾「-Ka」が付加した形)ではないかと思われます。
・中尾裕子「現代ロシア語における指小接尾辞の使用」(京都大学リポジトリ)
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/144676/1/ybunk00322.pdf
同じ語「огонь」から派生した「огонёк」(「огонь」の指小・愛称)の語義中には「〔植〕キンバイソウ(キンポウゲ科)купальница」との記述がありました(p1280)。
「купальница」の項では「キンバイソウ;シナノキンバイ」と記載されています(p903)。
インターネットで「огонёк」×「купальница」の検索をすると、シベリア旅行者向けに作成されたページ「WestSib all Siberia」に花の紹介記事がヒットしました。
http://westsib.ru/show/item/19/Tsveti-Sibiri--Tsvetok-trollya-ogonek-kupalnitsa
「満州里小唄」中の「アゴニカ」との関係は不明ですが、シベリアに咲く花で、「огонёк」、「огоньки」とも呼ばれるようです。花の色は橙色です。
(インターネットの最終アクセス:2015年7月8日)
- 回答プロセス
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1)インターネットで「アゴニカ」に関する情報を検索
Googleを「アゴニカ」で検索すると、シベリア抑留者の愛唱歌などに「オゴニカ」の名称でも歌われていることがわかる。「オゴニカ」が出てくる歌の中で一番古い年代の西條八十の「オゴニカ」について調べ、映画「トロイカ」の主題歌であったことが判明。映画に登場する花の可能性もあるが、確認できず。
『正論』(産経新聞社 通巻463号 2010.11)p362 「質問があります」コーナーに同様の質問が掲載されていることがわかるが、回答は今のところ未掲載。
2)植物事典を調べる
『植物レファレンス事典』(日外アソシエーツ)等で、中国や満州、シベリヤ(シベリア)、ロシアの植物について「アゴニカ」、「オゴニカ」の名称から調査するが、地域によっては図鑑類が刊行されておらず、該当する植物は見つからない。
3)「満州里」をキーワードに国会図書館デジタルコレクション検索
『赤い夕陽』(満州電々追憶記集[赤い夕陽]刊行会 編1965)http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3452243
収録の森繁久弥「国境の街」に「アゴーニカ」が出てくる。
「こじき袋」より要約とあるため、自館所蔵の『こじき袋』確認。アゴニカの記載部分は実体験に基づいて書かれている訳ではなく、歌のイメージが投影されているようにも見える。
4)ロシア語「Огонька」で検索
Googleを「アゴーニカ」で検索すると、「小さなともしび Огонькаアゴーニカ」ヒット。ロシア語綴りが判明。
「Огонька」と同じ意味を持つ「огонёк」の花は確認できたが、赤い花ではなく、「満州里小唄」に出てくる「オゴニカ」と一致しない。
流行歌に出てくる「オゴニカ」の赤い花は、ともしびの語義からの創作の可能性もあるが、確認できない。
満州・ロシアのキンバイソウについては、以下の資料に記載がある。
・『満洲植物の寒地園芸的価値』(満鉄調査部編 博文館 1943)
p198に「キンバイソウ属(二種)Trollius」の記載があります。
・『北方植物の旅』(舘脇操著 朝日新聞社 1971)
p36イルクーツク大学のキャンプの記事中に「シベリアキンバイソウ」の記載がある。
- 事前調査事項
- NDC
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- 被子植物 (479 9版)
- 声楽 (767 9版)
- 参考資料
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- 【資料1】『西条八十詩謡全集 第6巻』(千代田書院 昭11)
- 【資料2】『西條八十全集 8 歌謡・民謡』(西條八十著 国書刊行会 1992)|9100755356
- 【資料3】『帝国農会時報 12月號 (49)』(帝国農会 1931.12)
- 【資料4】『こじき袋』 (森繁久弥著 中央公論社 1980)|9102512437
- 【資料5】「研究社露和辞典」(研究社 1988)|9102957056
- キーワード
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- アゴニカ
- オゴニカ
- 満州里小唄
- 満州里
- シベリア
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 一般
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000177616