レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2017年11月28日
- 登録日時
- 2018/01/30 14:29
- 更新日時
- 2020/02/25 11:20
- 管理番号
- 2017-060
- 質問
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解決
「企業会計基準公開草案第61号」において廃止とされている「従来の割賦基準」について知りたい。
現在、国際的な会計基準である「IFRS」と、日本の従来の会計基準の刷りあわせが進められており、「企業会計基準公開草案第61号」において、従来の割賦基準が廃止されるとは書かれているが、従来の割賦基準がそもそもどういうものかは書かれていなかった。
- 回答
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「従来の割賦基準」は、『企業会計原則』に定める「割賦金の回収期限の到来の日又は入金の日をもって売上収益実現の日とする」という基準を指していると思われます。
当館所蔵資料の黒沢清『解説企業会計原則』(中央経済社, 1982)のp.128からの「二 実現主義の基準」が参考になります。
なお、法人税法62条における割賦基準では、割賦金の回収期限の到来の日を収益実現の日の基準としています。
その他にも参考となる資料が見つかりましたので、詳しくはプロセスをご参照ください。
- 回答プロセス
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1.企業会計基準委員会ホームページの確認
(1)企業会計基準委員会ホームページにて「企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」等の公表」が平成29年7月20日に発表されている。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2017/2017-0720.html(参照:2018-01-30)
以下、上記ページ下部の①~④のPDF資料の内容を確認。
①コメントの募集及び公開草案の概要
→p10に「本公開草案によると、主に、次の現行の日本基準又は日本基準における実務の取扱いが認められないこととなる。」として「割賦販売における割賦基準に基づく収益計上」が挙げられている。
P16からの「別紙 2 本公開草案と現行の日本基準又は日本基準における実務との簡略的な比較」のp.22(2) に「現行の日本基準又は日本基準における実務」は「割賦販売については、割賦金の回収期限の到来の日又は入金の日に収益を認識することも認められている(割賦基準)。」とある。
②企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」
→p.19に「割賦」について、「リース取引の貸手の会計処理に影響し得る。」として、リース取引の会計基準の改訂の検討について述べられている。
③企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」
→p.36に「(8)代替的な取扱いを設けなかった項目(本会計基準による収益の額及び認識時期が現行の我が国の実務と大きく異なる可能性がある項目)」として「割賦販売における割賦基準に基づく収益計上」あり。
④企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」の設例
→割賦基準について記述なし。
(2)その他、企業会計基準委員会ホームページ内の資料を確認。
・「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」の公表(平成28年2月4日発表)
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/misc/misc_others/2016-0204.html(参照:2018-01-30)
ここで募られたコメントを元にプロセス1(1)の公開草案ができている。
→p51-53にコメントを求める論点として、割賦基準のことが取り上げられ、「割賦販売について、販売基準に代えて割賦基準の採用も認められている(企業会計原則注解(注6))。」とある。
2.辞典類の確認
(1)本学契約データベースJapanKnowledge Libを検索
→「従来の割賦基準」については確認できなかった。
・「割賦」で見出し検索。
→『日本大百科全書』の「割賦販売(かっぷはんばい)」の項目に「商品の代金を何回かに分割して受け渡しする販売方式。割賦(わっぷ)販売、分割払い販売ともいう。」とあり。割賦基準については記述なし。
→その他ヒットする項目にも割賦基準については記述なし。
・「割賦基準」で全文検索
→『世界大百科事典』の「発生主義」の項目に割賦基準について解説があった。
(2)本学契約データベース ブリタニカ・オンライン・ジャパンを検索
→「割賦基準」の項目に「割賦販売基準ともいう。割賦販売に特有の収益計上基準。収益の計上は本来,販売基準によるのが原則であるが,修正前の企業会計原則では割賦販売については,その販売の特殊性から回収基準によることを原則としていた。このため回収基準が割賦基準といわれた。しかし修正後の企業会計原則では割賦販売についても販売基準を原則とし,回収基準 (割賦金の入金日) と回収期限到来基準 (割賦金の回収期限到来の日) も容認されるようになった。なお法人税法 62条は権利確定主義の見地から回収期限到来基準を割賦基準としている (法人税法施行令 119) 。」とある。
※販売基準について再検索
→「販売基準」の項目に「企業会計においては収益は企業の提供する財貨またはサービスが販売された時点で実現したものとみなされる。」とある。
3.「企業会計原則」について確認
→「従来の割賦基準」について確認できた。
(1)本学契約データベースJapanKnowledge Libを検索
→『日本大百科全書』の「企業会計原則」の項目に以下のように解説あり。
・経済安定本部企業会計制度対策調査会が1949年に公表。(注解は1954年に公表)
・最終改訂は1982年。
・「企業会計原則は、企業会計の実務のなかに慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって、かならずしも法令によって強制されないまでも、すべての企業がその会計を処理するにあたって従わなければならない基準である。また、企業会計原則は、公認会計士が、公認会計士法および証券取引法に基づき財務諸表の監査をなす場合において従わなければならない基準となる。さらに、企業会計原則は、将来において、商法、税法、物価統制令等の企業会計に関係のある諸法令が制度改廃される場合において尊重されなければならないものである。」
(2)本学OPACにて「企業会計原則」を検索
・黒沢清『解説企業会計原則』(中央経済社, 1982)
→p.128からの「二 実現主義の基準」で引用している「(企業会計原則中の)損益計算書原則三のB」では「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。ただし、長期の未完成請負工事等については、合理的に収益を見積もり、これを当期の損益計算に計上することができる。(注6)(注7)」とある。「(注6)」である「企業会計原則注解〔注6〕」の(4)を見てみると、割賦販売での売上収益の実現の基準について「商品等を引渡した日をもって売上収益の実現の日とする。」とした上で、「しかし、割賦販売は通常の販売と異なり、(中略)代金回収上の危険率が高いので、(中略)割賦金の回収期限の到来の日または入金の日をもって売上収益実現の日とすることも認められる。」とされている。
この点について、p.136-138に解説あり。「割賦金の回収期限の到来の日または入金の日をもって売上収益実現の日とする」ことが「従来の割賦基準」であるとわかった。
附録として、「企業会計原則」(p.278-272)と「企業会計原則注解」(p.271-263)の収録あり。
4.その他、調査の過程で見つかった参考資料
※公開草案の発表時期を考慮し、主に2017年発行の資料を確認。
(1) 当館所蔵資料等
・あずさ監査法人編『詳細解説IFRS開示ガイドブック』(中央経済社 , 2017)
・小津稚加子編著『IFRS適用のエフェクト研究 = The effect study on the implementation of IFRS』(中央経済社 , 2017)
・西澤茂, 上西順子著『グローバル企業の財務報告分析』中央経済社 , 2017)
・あずさ監査法人IFRSアドバイザリー室編『IFRSのしくみ』(中央経済社 , 2015)
・後藤巻則, 池本誠司著『割賦販売法』(勁草書房 , 2011)
・小賀坂 敦, 川西 昌博. 企業会計基準公開草案第61号 「収益認識に関する会計基準(案)」等について. 会計・監査ジャーナル : 日本公認会計士協会機関誌. 2017, vol. 29, no. 10, p. 50-56.
・川西 昌博, 島田 謡子. ASBJ解説 企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」等の概要 (特集 徹底解説! 収益認識基準(案) : 日本の「売上」が変わる!?). 企業会計 = Accounting. 2017, vol. 69, no. 11, p. 1458-1468.
・会計トピック 2021年から売上高が激変 (特集 経済ニュースを深読みする 本物の会計力) -- (実践編 この1年間の経済ニュースを会計の視点で振り返る!). 週刊東洋経済 = Weekly toyo keizai. 2017, no. 6746, p. 66-67.
→本学契約データベース東洋経済デジタルコンテンツライブラリーで閲覧可。
(2)本学契約データベース日経テレコンで「会計&割賦」を検索。
・「売上高新基準18年適用可、企業会計基準委が公開草案、百貨店などは目減りも。」(『日本経済新聞』2017年7月21日, 朝刊, 17ページ)
・「売上高大幅変更も 会計基準委、計上方法の新基準案」(『日本経済新聞 電子版, 2017年7月20日』)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL20HRM_Q7A720C1000000/(参照:2018-01-30)
(5) Web検索
・金子友裕, 公開草案「収益認識に関する会計基準」の公表(『日税研メールマガジン』(126), 2017年09月 )
https://www.jtri.or.jp/mailmag/bkno.php(参照:2018-01-30)
- 事前調査事項
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「企業会計基準公開草案第61号」は企業会計基準委員会ホームページにて確認できる。
- NDC
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- 経営管理 (336 9版)
- 参考資料
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- 『日本大百科全書』, JapanKnowledge Lib(参照:2018-01-30)
- 『世界大百科事典』, JapanKnowledge Lib(参照:2018-01-30)
- 黒沢清 著 , 解説企業会計原則, 第19版. 中央経済社, 1987. (本学書誌ID:BB00650797)
-
あずさ監査法人 編 , 詳細解説IFRS開示ガイドブック. 中央経済社, 2017.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028334392-00 , ISBN 9784502208713 (NCID:BB24221923) -
小津稚加子 編著 , IFRS適用のエフェクト研究 = The Effect Study on the Implementation of IFRS. 中央経済社, 2017.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028376388-00 , ISBN 9784502230110 (NCID:BB2418353X) -
西澤茂, 上西順子 著 , グローバル企業の財務報告分析. 中央経済社, 2017.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I028439714-00 , ISBN 9784502216718 (NCID:BB24305273) -
あずさ監査法人IFRSアドバイザリー室‖編 , IFRSのしくみ 最新版. 中央経済社, 2015. (すらすら図解)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I062019628-00 , ISBN 9784502147012 (NCID:BB18866618) -
後藤巻則, 池本誠司 著 , 割賦販売法. 勁草書房, 2011. (クレサラ叢書 ; 解説編)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000011102139-00 , ISBN 9784326499038 (NCID:BB04847251) -
小賀坂 敦 , 川西 昌博 , 小賀坂 敦 , 川西 昌博. 企業会計基準公開草案第61号 「収益認識に関する会計基準(案)」等について. 2017-10. 会計・監査ジャーナル : 日本公認会計士協会機関誌 / 日本公認会計士協会 編 29(10) (747) p. 50-56
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I028568254-00 (NCID:AA12179799) -
川西 昌博 , 島田 謡子 , 川西 昌博 , 島田 謡子. ASBJ解説 企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」等の概要. 2017-11. (特集 徹底解説! 収益認識基準(案) : 日本の「売上」が変わる!?) 企業会計 = Accounting 69(11) p. 1458-1468
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I028534502-00 (NCID:AN00050800) -
会計トピック 2021年から売上高が激変. 2017-09-09. (特集 経済ニュースを深読みする 本物の会計力 ; 実践編 この1年間の経済ニュースを会計の視点で振り返る!) 週刊東洋経済 = Weekly toyo keizai(6746) p. 66-67
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I028476773-00 (NCID:AN00169927) - 「売上高新基準18年適用可、企業会計基準委が公開草案、百貨店などは目減りも。」(『日本経済新聞』2017年7月21日, 朝刊, 17ページ, 日経テレコン, 参照:2018-01-30)
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「売上高大幅変更も 会計基準委、計上方法の新基準案」(『日本経済新聞 電子版, 2017年7月20日』)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL20HRM_Q7A720C1000000/(参照:2018-01-30)
- キーワード
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- 企業会計基準
- IFRS
- 公開草案
- 割賦, 基準
- 企業会計原則
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 会計
- 質問者区分
- 教員
- 登録番号
- 1000229381