1 地名の由来について
栃木県内に2つある「志鳥」という地名の由来について、地名辞典から確認しました。
・『角川日本地名大辞典 9 栃木県』(「角川日本地名大辞典」編纂委員会/編 角川書店 1984)
p.458-459 「しとり 志鳥〈栃木市〉」の項に、以下の記述があります。
「〔古代〕委文郷 平安期に見える郷名 …(中略)… 委文は倭文の意で、郷名は、当郷に倭文部が居住したことに由来すると思われる。倭文部は、倭文という布を織ることを業とした。…(中略)… 「地名辞書」は「しづり」と読む。栃木市志鳥は当郷の遺称地と思われる。」
p.459 「しとり 志鳥〈南那須町〉」の項に、以下の記述があります。
「地名は、往昔文織を産したことにちなむといわれ、文織の倭文布(しずり)からきている。「しずり」は、「しづおり」の転訛という。」
・『日本歴史地名大系 9 栃木県の地名』(平凡社 1988)
p.58 「倭文郷(しとりごう)」の項に「現栃木市志鳥町を遺称地と」する旨の記述があります。
p.140 「志鳥村 現南那須町志鳥」の項に「「那須郡誌」によれば地名は古代の織物倭文織にちなむという。」とあります。
p.673 「志鳥村 現栃木市志鳥村」の項に「「和名抄」記載の都賀郡内秀文郷の遺称地。「下野国誌」は秀文を委文の誤りとする。」とあります。
これを元に、各地域の資料をお調べしたところ、以下の記述を確認しました。
■市史等
・『栃木市史 通史編』(栃木市史編さん委員会/編 栃木市 1988)
「第二章 奈良時代 第一節 律令制度下の下野国」に「下野国九郡と都賀郡・寒川郡の郷名」「委文(しずり)郷」の項があります。(p.190)
「皆川地区の志鳥町を中心とした地方と考えられている。委文郷とは、倭文布(しづりぬの)を貢納した郷である。」とあり、織物の特性や生産者(倭文部)等の記述が続いています。
この他、他の項でも調布の貢進に関する記述はありますが(p.213-215「調・庸と中男作物・雑徭」、p.225-230「下野国の産業」等)、倭文織、倭文布に関する記述は確認できませんでした。
・『南那須町の歴史と遺跡』 (皆川晃/著 南那須町教育委員会 1988)
p.54 「一 村々の歴史」より「十八 志鳥村」の項に、以下の記述があります。
「村名は、往昔、文織(あやおり)を産したことにちなむといわれ、文織の倭文布(しずり)からきている。「しずり」は「しずおり」の転訛といわれる。」
・『南那須村明治百年誌』(南那須村明治百年誌編集委員会/編、発行 1971)
「第二編 産業経済」「第一章 南那須村の農業 第三節 農産物の変遷」の「二、養蚕その他」の項に関連の記述があります。(p.303-306)
志鳥の地名の由来の他、正倉院御物の中に付近の熊田郷献上の調布が残ることなどを、地区の養蚕の歴史に絡めて記しています。
■史料の翻刻等(地名辞典等の出典の確認)
・『下野国誌 校訂増補』(河野守弘/著,佐藤行哉/校訂 下野新聞社 1989)※原著の発行:嘉永元年
「第一巻 郷名存廃」の「都賀郡」の項に、前出の『日本歴史地名大系 9』の元となった記述を確認しました。(p.35)
なお、「那須郡」の項(p.38-39)には関連記述は確認できませんでした。
・『那須郡誌 増補』(蓮実長/原著,蓮見彊/増補 小山田書店 1988)※原著の発行:大正13年
p.106 「第二章 各町村沿革大要」項の「二六、下江川村」の中に、以下の記述があります。
「大字志鳥は、蓋し「倭文布」の義である。(しづおりの約「シヅリ」)倭文布は即ち文織なれば、この地古く文織を産したのに由って名に負うたのである。」
この他、正倉院御物に残る熊田郷献上の調布は、志鳥産の倭文織ではないかと推量する記述があります。
※『那須郡誌』は増補前の原著の翻刻も所蔵しています。
以下の資料は、お調べしましたが記述を確認できませんでした。
・『栃木市史 民俗編』(栃木市史編さん委員会/編 栃木市 1979)
・『栃木市の歴史』(日向野徳久/著 栃木市 1966)
・『南那須町史 通史編』(南那須町史編さん委員会/編 南那須町 2000)
※志鳥や倭文布に関する記述は確認できませんでしたが、熊田郷の調布については記述がありました。(p.156-157、p.943)
2 倭文織に関する資料ついて
調査の過程で以下の情報を確認しました。
・『染織事典 日本の伝統染織のすべて』 (中江克己/編 泰流社 1993)
p.213 「倭文織(しずおり)」の項目があります。
・『日本染織文献総覧』(後藤捷一/著 染織と生活社 1980)
p.186 「染織文献解題 江戸後期」の中に「415 倭文考(しずこう)」が掲載されています。
「倭文はまた志豆波多ともいい、…(略)…『延喜式』『和名類聚鈔』その他多くの古典を引用考察した半丁一三行、一行二八字詰、三三丁に及ぶ力作である。」
この他、レファレンス協同データベースでも、倭文織について参考となる情報が確認できました。
・「倭文織(しづおり)について書かれた資料を探している」(鳥取県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000089434・「倭文織(しづおり)について記載のある資料はないか。」(宮城県図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000238473