レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 20200922
- 登録日時
- 2020/12/02 19:42
- 更新日時
- 2021/03/24 18:44
- 管理番号
- 岩手-373
- 質問
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「織田がつき秀吉がこねりただ食うは家康」の文言の出典を知りたい。
- 回答
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問い合わせの文言は江戸時代の「織田がつき羽柴がこねし天下餅 ただらくらくと食ふは徳川」の落首(らくしゅ)の一部分と推測される。落首とは世相を風刺・揶揄した匿名の狂歌で、その成り立ちから出典元は不明とされる。この落首も同様に出典は不明であり、下の句は前述の句以外にも何通りかパターンがある。また、この落首を元に描かれた風刺画(錦絵)も存在する。以下、出典元不明につき参考資料を紹介。
・『落首がえぐる江戸の世相』 秋道博一∥著 文芸社 2002年(911.19/アキ 1103676514)
⇒p.17 “ 織田がつき羽柴がこねし天下餅 座りしままに食うが徳川 これは後世に詠われた落首です。”
・『餅の博物誌』古川瑞昌∥著 東京書房社 1972年
⇒p.15~18(特にp.15) 「天下餅」
⇒p.20~25(特にp.22~25)「太閤餅と大仏餅」
→p.24 “「織田が搗き羽柴が捏ねし、天下餅」―この有名な落首の下の句に五通りがある。
骨を折らずに食ふは徳川、坐りしままに食ふは徳川、坐って食ふは徳川家康、
ただらくらくと食ふは徳川、うまうまひとり食ふは徳川”
・『文芸春秋 第58巻第9号』文芸春秋 1980年
⇒〔p.26〕「日本の男たち 織田信長」
“江戸時代の作者不明の狂歌に、織田がこね羽柴がつきし天下餅、寝ているままで食うが徳川―というのがある”
・『歴史と人物 第9巻第10号 通巻第98号』中央公論社 [1979]
⇒p.92「三人目の天下取り」
“有名な狂歌に、「織田が搗き、羽柴(秀吉)がこねし天下餅、坐って食うは徳川家康」というのがある。
この狂歌は、徳川の天下となった江戸時代の産物であり、当時の民衆の意識を反映しているが、(略)”
・『江戸時代をどう視るか 幕府・藩・天領』藤野保∥著 雄山閣出版 1997年
⇒p.8~9「領国経営と行政手腕」
“江戸時代の有名な狂歌に”という書き出しの文章以降、上記資料とほぼ同一内容。
■落首を元にした歌川芳虎の風刺画「道外武者・御代の若餅」
・『漫画の歴史』清水勲∥著 岩波書店 1991年
⇒p.13「歌川芳虎の幕府批判」
“天保八年(1837)には、歌川芳虎(よしとら)によってさらに過激な風刺画「道外武者・御代の若餅」が江戸で版行された。織田信長と明智光秀が餅をつき、ついた餅を豊臣秀吉がのし、徳川家康が棚ボタ式に座して餅を食べている図である。”※図版あり
・『筆禍史』宮武外骨∥著 朝香屋書店 1926年
⇒p.118~119「御代の若餅(天保八年)」
“歌川芳虎筆の一枚版行絵なり(縦一尺二寸横八寸五分)其全図は左に縮模するがごとく、武者共の餅つき絵なるが、其絵様中の紋章等にて察すれば、織田信長が明智光秀と共に餅をつき、其つきたる餅を豊臣秀吉がのしをし、徳川家康は座して其餅を食する図なり、要するに徳川家康は巧みに立廻りて、天下を併呑するに至りしといへる寓意なり (以下略)”※カラー図版あり。
・『国文学 解釈と鑑賞 第28巻第15号 第343号 臨時増刊号』至文堂 [1963]
⇒p.40「天下餅」
“「織田がこね羽柴がつきし天下餅 すわりたままにくらうは徳川」という狂歌がある。(略)幕末の天保八年に、
この歌をめぐって筆禍事件がおこっている。歌川芳虎という浮世絵師が、「御代の若餅」という一枚摺りをつくった。(略)”
・『餅の博物誌』古川瑞昌∥著 東京書房社 1972年
※前掲資料
⇒p.17 一猛斎(歌川)芳虎の風刺画「道外武者 御代の若餅」※図版
⇒p.20~25(特にp.22~25)「太閤餅と大仏餅」
→p.24 “芳虎の描いた「御代の若餅」の絵の家康は坐っている。「坐りしままに食ふは徳川」は、江戸小唄に
あるとも聞いた。しかし、筆者は、江戸時代の著作物で、「織田が搗き…」の歌を乗せたのを知らない。”
⇒p.25~28「芳虎の御代の若餅」
・『日本歴史』モラエス∥著 花野富蔵∥訳 明治書房 1943年
⇒p.100「徳川家康」
※但しこの資料のみ、家康についてはただ餅を食べていたのではなく、餅の大部分を国民に分配する役目を引き受けていたとしている。
・『近代日本漫画百選』清水勲∥編 岩波書店 1997年(当館未所蔵)
⇒p.18~19 「徳川を攻撃する風刺画」に、天保期あるいは嘉永期に生まれたと思われる落首にこんな作がある、として「織田がつき羽柴がこねし天下餅 座して喰らふは徳の川」が紹介され、この落首に歌川芳虎が描いた風刺画が「道外武者・御代の若餅」との解説が掲載されているとのこと。(確認:奥州市立江刺図書館)
【追記】
一部脱字箇所修正のため更新。
- 回答プロセス
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(1)落首、狂歌関連資料を確認。
(2)織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑関連資料を確認。
(3)歌川芳虎関連資料を確認。
(4)江戸時代(天保~嘉永期)の民衆史、メディア史関連資料を確認。
- 事前調査事項
- NDC
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- 日本史 (210)
- 箴言.アフォリズム.寸言 (917)
- 漫画.挿絵.児童画 (726)
- 参考資料
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秋道博一 著 , 秋道, 博一. 落首がえぐる江戸の世相. 文芸社, 2002.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000003626768-00 , ISBN 4835536533 (当館請求記号:911.19/アキ) -
古川瑞昌 著 , 古川, 瑞昌, 1928-1977. 餅の博物誌. 東京書房社, 1972.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001214034-00 (当館請求記号:383.8/フ1/1) - 文芸春秋 第58巻第9号 文芸春秋 1980年 (当館請求記号:S051/ブ6/58-9)
- 歴史と人物 第9巻第10号 通巻第98号 中央公論社 [1979] (当館請求記号:S205/レ4)
-
藤野保 著 , 藤野, 保, 1927-2018. 江戸時代をどう視るか : 幕府・藩・天領. 雄山閣出版, 1997.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002634883-00 , ISBN 4639014643 (当館請求記号:210.5/フジ) -
清水勲 著 , 清水, 勲, 1939-. 漫画の歴史. 岩波書店, 1991. (岩波新書)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002109463-00 , ISBN 4004301726 (当館請求記号:726/シ1/3) -
宮武/外骨 著 , 宮武‖外骨. 筆禍史 改訂増補. 朝香屋書店, 1926.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I018074491-00 (当館請求記号:210.4/ノム) - 国文学 解釈と鑑賞 第28巻第15号 第343号 臨時増刊号 至文堂 [1963] (当館請求記号:S910/コ4)
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モラエス/著 , 花野 富蔵/訳 , モラエス , 花野‖富蔵. 日本歴史. 明治書房, 1943.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I023520567-00 (当館請求記号:210.04/モ2/1) -
清水勲 編 , 清水, 勲, 1939-. 近代日本漫画百選. 岩波書店, 1997. (岩波文庫)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002578315-00 , ISBN 4003356616 (当館所蔵なし)
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秋道博一 著 , 秋道, 博一. 落首がえぐる江戸の世相. 文芸社, 2002.
- キーワード
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- 落首
- 狂歌
- 織田信長
- 豊臣秀吉
- 徳川家康
- 歌川芳虎
- 風刺画
- 天下餅
- 照会先
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- 奥州市立江刺図書館に当館未所蔵の『近代日本漫画百選』の内容確認を依頼
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000290236