レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2016年10月18日
- 登録日時
- 2017/03/24 09:41
- 更新日時
- 2017/03/24 09:41
- 管理番号
- 川図16-15
- 質問
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解決
岩波書店の社史において、先に刊行された『宇宙之進化』ではなく、夏目漱石の『こゝろ』が「処女出版とみなされる」と書かれている理由が知りたい。
- 回答
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以下の①、②の図書を紹介した。
①『物語 岩波書店百年史1』(紅野謙介、岩波書店、2013)
→p.37-「第2章 出版活動に乗り出す」では、『岩波書店八十年』の年表を例に、『宇宙之進化』ではなく『こゝろ』が「処女出版とみなされる」と書かれている謎を取り上げている。理由としては、「夏目漱石『こゝろ』を岩波書店の歴史の起源に置きたい、これが創業者岩波茂雄の強い意志でもあった。岩波は「回顧三十年感謝晩餐会の挨拶」で『こゝろ』が「処女出版」だと断言しており、創業者自身の意向がありありとうかがえる。したがって、起源以前の二点の本はいささか年表のなかでも居心地が悪そうに見える。」との記述がある。
→p.55-「仮に、初めは「漱石のもの」であればと考えていたとしても、『こゝろ』の出版許諾を与えられ、あらためて読むなかで「感激」は深まった。これこそが岩波書店の最初の出版物であるという強い意志が生まれた。」との記述がある。
→p.58「岩波書店は文芸出版を専門にすることはなかったけれども、その成り立ちと深い関わりのゆえに、最初の出版物とあえて揚言するほど重要な書物になったのである。」との記述がある。
②『岩波茂雄傳』(安倍能成、岩波書店、1957)
→p.138-「「こゝろ」は漱石の自費出版ながら、岩波の處女出版のやうに岩波はいひ、他からもさういはれて居る。(中略)それに先だつて、大正二年暮に、前途の如く、蘆野敬三郎編の「宇宙の進化」といふ本を、岩波が世話して蘆野の自費出版で出して居る。
(中略)漱石の自費出版が岩波の處女出版なら、「宇宙の進化」は前處女出版かも知れない。もつとも「こゝろ」の出版は、岩波が漱石のものを出したいと願つた時、外からもうるさく頼んで來るので、漱石も一つ自費で出してみようかといふ氣になつたのだが、何しろ驅け出しの書店が當時第一の流行作家のものを出したといふ、世間への信用の獲得、その後「硝子戸の中」「道草」を引き續いて出版して、漱石全集の出版元になる素因を作つたのに対して、蘆野の方は、たゞ頼まれて事務を取つたといふに止まり、それつ切りでその後の岩波書店に影響することのなかつたといふ相違は著しい。」との記述がある。
- 回答プロセス
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当館で所蔵している岩波書店の社史関連資料を確認したところ、ご質問の通り、『宇宙之進化』ではなく、『こゝろ』が「処女出版」とされていた。
次に、岩波文庫や岩波茂雄に関する図書を調査したところ、①、②にその理由と思われる記述があったため、ご紹介した。
- 事前調査事項
- NDC
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- 出版 (023)
- 個人伝記 (289)
- 参考資料
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紅野, 謙介 , 紅野, 謙介. 「教養」の誕生. 岩波書店, 2013. (物語岩波書店百年史)
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I049285547-00 , ISBN 9784000253147 -
安倍, 能成, 1883-1966 , 安倍能成 著. 岩波茂雄伝. 岩波雄二郎, 1957.
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I001120148-00
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紅野, 謙介 , 紅野, 謙介. 「教養」の誕生. 岩波書店, 2013. (物語岩波書店百年史)
- キーワード
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- 夏目漱石
- こゝろ
- 岩波書店
- 岩波茂雄
- 照会先
- 寄与者
- 備考
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調査済の社史:
『岩波書店五十年』(岩波書店、1963)
『岩波書店七十年』(岩波書店、1987)
『岩波書店八十年』(岩波書店、1996)
『写真でみる岩波書店80年』(岩波書店、1993)
その他の調査済み資料:
『岩波文庫をめぐる文豪秘話』(山崎安雄、出版ニュース社、1964)
『本の世紀』(信濃毎日新聞取材班、東洋出版、2015)
『惜櫟荘主人』(小林勇、岩波書店、1963)
- 調査種別
- 文献紹介 事実調査
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000212550