レファレンス事例詳細(Detail of reference example)
提供館 (Library) | 山口県立山口図書館 (2110020) | 管理番号 (Control number) | 0000111015 | ||||||||
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事例作成日 (Creation date) | 2022年10月07日 | 登録日時 (Registration date) | 2023年01月26日 16時07分 | 更新日時 (Last update) | 2023年02月21日 10時23分 | ||||||
質問 (Question) | 1.『南総里見八犬伝』などの曲亭馬琴の著作は、読者に大名などの上層武士もいたというが、その実例(読書記録や関連する遺品など)や享受形態について知りたい。 2.吉田松陰は『南総里見八犬伝』を読んでいたようだが、他の幕末の著名人(坂本龍馬や新撰組など)で同書を読んだという記録が残っている人はいるか。 | ||||||||||
回答 (Answer) | 1.について、既に調査済みの下記資料1に記載された人物以外に、『南総里見八犬伝』(以下、八犬伝という。)の読者であった上級武士についての記述及びその読書の在り様についての記述がある資料は見当たらなかった。 資料1p246に、八犬伝の愛読者であったが完結前に亡くなってしまった人物が列挙されている。大名としては、松平冠山(池田定常、若桜藩主)、松浦静山(平戸藩主)、松前美作守(道弘、松前藩主)、旗本として石川畳翠(左金吾)が挙げられている。大名については、資料2も同様。 なお、資料3に収録の浜田啓介「馬琴に於ける書肆、作者、読者の問題」(p233-246)によると、八犬伝は、いわゆる読み本の中でも比較的多く発行されたが、それでも年間500部程度であり、非常に高価であったことや、そのほとんどが貸本屋に販売され、そこを通じて読まれた、とある。また、「読み本の場合、極く一部の富豪を除いて大衆は直接に本を買ふことは稀であった。」とある。 この他、以下の江戸期の読書に関する資料を概観したが、武家の読書(読本等の享受)について記載された資料は見当たらなかった。 『近代読者の成立』(前田愛 著,有精堂,1973) 『出版事始』(諏訪春雄 著,毎日新聞社,1978) 『近世貸本屋の研究』(長友千代治 著,東京堂出版,1982.5) 『江戸時代の書物と読書』(長友千代治 著,東京堂出版,2001.3) 『江戸時代の図書流通』(長友千代治 著,仏教大学通信教育部,2002.10) 『江戸の出版』(中野三敏 監修,ぺりかん社,2005.11) 『近世文学研究事典』(岡本勝 編,おうふう,2006.2) 『江戸の読書熱』(鈴木俊幸 著,平凡社,2007.2) 参考までに、八犬伝に関する文献について、ウェブサイト“国文学論文目録データベース”にて、キーワード「八犬伝」で検索したが、享受史に関すると思われる文献は少なく、特に武士階級の享受に関すると思われるものは見当たらなかった。 “国文学論文目録データベース”(国文学研究資料館) 2023年1月26日最終確認、以下同じ。 https://base1.nijl.ac.jp/~rombun/ なお、以下の資料に、関係する記述がある可能性がある。(当館未所蔵のため未調査) 佐藤悟「読み本研究の現況と提言 7享受 ア近世」(「読本研究」9,p5,1995.10) 「読本研究」当該号は、山口県内では梅光学院大学図書館で所蔵している。 また、武士の読書記録・蔵書等を網羅的に調査することは困難。例えば、旧大名家の蔵書で、現在も文庫として残っているものについては、所在目録等である程度知ることができる。ただし、旧大名家の蔵書・遺品類の多くは分散・散逸したものと思われるため、網羅性はないものと思われる。 八犬伝の版本の所在について比較的網羅していると思われる『国書総目録』の「南総里見八犬伝」の項(資料4p298-299)によると、八犬伝を所蔵していて、所在先名から一見して旧大名家の文庫と思われるものとして、「岡山大学池田家文庫(備前藩)」、「福井県立図書館(現・福井県文書館)松平文庫(福井藩)」、「蓬左文庫(尾張松平家、名古屋藩)」、「尊経閣文庫(前田家、加賀藩)」「旧浅野文庫(浅野家、戦災で焼失か、広島藩)」、「延岡内藤家(延岡藩)」がある。それぞれの大名家では八犬伝を所蔵していたものと考えることができるが、各家の文庫目録等で所在、印記等を直接確認しておらず、また所蔵先の名称がら旧所蔵先が類推できないものがあると思われるため、大名家の所蔵には漏れが多々あるものと思われる。 なお、『国書総目録』記載の所在先については、“新日本古典籍総合データベース”で見ることができる。 新日本古典籍総合データベース:里見八犬伝(国文学研究資料館) https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100197246 2.八犬伝に言及した幕末の著名人として、今回の調査で見つかったものとしては以下がある。漏れが多いものと思われる。 勝海舟 晩年の語録である「氷川清話」(資料5p164)に「曲亭馬琴」の項があり、八犬伝について「『八犬伝』は『水滸伝』をまる抜きにしたけれど、おれ十七、八のときに、あれが初めて出版せられたころには、非常な評判で、いわゆる堂々たる大儒者もこれに及ばなかった。実に絶世の才子だった。」と述べている。 渋沢栄一 自伝である「雨夜譚」(資料6p16)に、幼少期の読書の思い出として、「(引用者注:師である尾高惇忠の指導を受けて)ようやく十一、二歳のころから、いくらか書物が面白くなってきました。それも経史子類などの堅い書物が面白く会得が出来たという訳ではなく、ただ自分に面白いと思った『通俗三国志』とか、『里見八犬伝』とか、または『俊寛島物語』というような、稗官(はいかん)野乗の類(たぐい)がいたって好きであったのであります。」とある。 | ||||||||||
回答プロセス (Answering process) | |||||||||||
事前調査事項 (Preliminary research) | 吉田松陰が八犬伝を読んでいたことについては、以下の資料に記述がある。 徳田武 著 , 徳田, 武, 1944-. 吉田松陰と学人たち. 勉誠出版, 2020.p499-500 https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I030661855-00 | ||||||||||
NDC |
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参考資料 (Reference materials) |
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キーワード (Keywords) |
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照会先 (Institution or person inquired for advice) | |||||||||||
寄与者 (Contributor) | |||||||||||
備考 (Notes) | 参考:以下の資料に、八犬伝の発行・流通についての記述がある。 木村三四吾「西荘文庫の馬琴書簡(九)」(「ビブリア」15,天理図書館,1959.10,p77-88) 版本を個人で買うことは稀であったこと、幕府の役人で蔵書家でもあった屋代弘賢は八犬伝の愛読者だったが購読はしていなかったことが記載されている。 後日追記:近世の読書に関する文献目録として、『近世書籍研究文献目録 増補改訂』(鈴木俊幸 編,ぺりかん社,2007.3)、『近世・近代初期書籍研究文献目録』(鈴木俊幸 編,勉誠出版,2014.9)がある。享受の項を一読したかぎり、文献名から、八犬伝の享受に関する文献はないものと思われた。 | ||||||||||
調査種別 (Type of search) | 文献紹介 | 内容種別 (Type of subject) | 質問者区分 (Category of questioner) | 社会人 | |||||||
登録番号 (Registration number) | 1000327976 | 解決/未解決 (Resolved / Unresolved) | 未解決 |