レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2021年01月21日
- 登録日時
- 2021/04/10 12:28
- 更新日時
- 2021/04/14 08:59
- 管理番号
- 0000110896
- 質問
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解決
1946年頃の教科書について調べている。京都府内の小学校で使われたもので、数枚の新聞紙のような大きさのものを折りたたんで教科書の大きさにし、それに表紙をつけ、穴をあけて教科書にしたもの。当時、4年生くらいだった人物の体験談による。現物を保管していたが紛失。その教科書に、「貴族が舟旅をしていたところ海賊に襲われるが、月光の下で名人が笛を吹いたところ、海賊が感動して貴族は助かった」というお話が載っていた。この教科書について以下が知りたい。
1.この教科書について『日本教科書大系』に掲載されているか。 2.『日本教科書大系』に掲載されていない場合、この教科書についてわかる資料はあるか。 3.この教材(お話)の複写の入手は可能か。 4.戦後、この体験談のように大きな紙を折りたたんで教科書として使うといったことが全国的に行われていたのか。
- 回答
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当該教科書は、戦後、戦時下の第5期国定教科書を黒塗りして用いた時期から第6期国定教科書ができるまでの間に用いられた、「暫定国語教科書」と呼ばれるものと思われる。
下記資料1p255によると、「暫定国語教科書」は、昭和21年(1946年)4月から昭和22年(1947年)3月まで用いられる予定で作成されたもので、当時の状況から、文部省著作の国定教科書でありながら「国定」の名称を与えられなかった、とある。また、p281に「暫定国語教科書」は前期用(第1分冊から第3分冊)と後期用(1冊)があり、前期用は新聞紙に両面に16ページ分が印刷されており、それを学習者が切り取りって折りたたみ、綴じて用いるもので、特別な表紙はなく、本文と同じ紙で刷られていた、とある。後期用は、用紙は新聞紙ながら製本済みであった、とある。なお、昭和22年度からは、新たな第6期国定教科書が用いられた。
また、「貴族が舟旅をしていたところ海賊に襲われるが、月光の下で名人が笛を吹いたところ、海賊が感動して貴族は助かった」という教材については、「笛の名人」であると思われる。
1.『日本教科書大系』には、「暫定国語教科書」は収録されていない。
2.「暫定国語教科書」の概要については、資料1が詳しい。資料1p268-281によると、現在の小学校にあたる国民学校初等科用の「暫定国語教科書」は、それまでの第5期国定教科書を元に、教材を取捨選択したり、新たな教材を加えたりして作成されている。また、一部の表現や用字が改められているものもある。
第5期国定教科書については、『日本教科書大系 近代篇』の第8巻(資料2)及び『[復刻版]初等科国語[中学年版]』(資料3)に収録されている。また、第5期国定教科書と暫定教科書との教材の異同については、資料1p268-281に記載があり、比較的大きな文章の異同についても注記されているが、「小さな表現の差異」は省略されている。
資料1p274によると、「笛の名人」は、「暫定国語教科書」の『初等科国語 三』〔第1分冊〕に収録されており、第5期国定教科書『初等科国語 三』9(資料2p500-501)から引き継がれたものとある。また、大きな異同があるとの注記はない。
したがって、資料2及び3でおおよそ同じ内容の教材を読むことができる。(表現上の差異はあるものと思われる。)
また、「暫定国語教科書」を復刻したものとして以下がある。自館未所蔵、県内では、梅光学院大学図書館所蔵。
中村紀久二 監修『文部省著作暫定教科書 国民学校用 第2巻 初等科国語 1-4』(大空社 1984)
教科書を保存している主要な機関として以下があるが、各機関の所蔵資料検索によると、「暫定国語教科書」を所蔵している機関は見当たらなかった。
山口県文書館 教科書文庫
http://archives.pref.yamaguchi.lg.jp/msearch/cls_search.php?op=search&id=3205
広島大学図書館 教育課程文庫 (教科書・教育課程文庫)
https://www.lib.hiroshima-u.ac.jp/index.php?key=murnybutv-23469#_23469
東京書籍株式会社附設教科書図書館 東書文庫
http://www.tosho-bunko.jp/
なお、そのほか県内で教科書を保存している施設として、「岩国学校教育資料館」がある。所蔵資料については、同館に照会する必要がある。(後日質問者が同館に照会したところ、所蔵していないとのこと)
3.当該教科書の復刻版『文部省著作暫定教科書 国民学校用 第2巻 初等科国語 1-4』(大空社 1984)を、県内では梅光学院大学図書館が所蔵している。県外では、国立国会図書館ほか富山県図書館などで所蔵している。
なお、内容的には共通すると思われる第5期国定教科書収録分については、前述のとおり、資料2及び3を自館で所蔵している。
4.資料1p267によると、当該教科書は文部省が著作し、東京書籍、日本書籍、大阪書籍の三社が全国を三分して発行・供給にあたった、とある。ちなみに、山口県及び京都府はいずれも東京書籍が発行・供給を担当している。また、資料1p378-385に、当該教科書で指導した教員(東京都)及び学習者(地域不明)が当時を振り返った回想が複数収録されており、内容の薄さや紙質の悪さ、切ったり折ったりして使ったことなどが言及されている。また、資料4にも「暫定国語教科書」と思われるものの写真が掲載されるとともに、「紙質の低下はもとより頁数も半減し、挿絵は除かれて一色ずりとなり、表紙もなく針金トジ、折りたたみ式の簡単なものとなった。」とある。
なお、この「暫定国語教科書」については、資料1p256によると、紙質不良のためほとんど残存していないことや、わずかな期間しか使用されなかったことから、総合的な先行研究がほとんどないとされる。
- 回答プロセス
- 事前調査事項
- NDC
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- 教育史.事情 (372 9版)
- 教育課程.学習指導.教科別教育 (375 9版)
- 参考資料
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1.吉田裕久 著 , 吉田, 裕久, 1949-. 戦後初期国語教科書史研究 : 墨ぬり・暫定・国定・検定. 風間書房, 2001.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002974162-00 , ISBN 4759912649 (p255-256,267-281,378-385) -
2.海後 宗臣 編纂 , 海後 宗臣. 日本教科書大系 : 国語 5 近代編 第8巻. 講談社, 1964.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I060358361-00 (p500-501) -
3.文部省 著 , 文部省. 初等科國語 : 中学年版 復刻版. ハート出版, 2020.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I030530843-00 , ISBN 9784802401036 (p169-170) -
4.海後, 宗臣, 1901-1987. 図説教科書の歴史. 日本図書センター, 1996.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002505112-00 , ISBN 4820557114 (p88-89)
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1.吉田裕久 著 , 吉田, 裕久, 1949-. 戦後初期国語教科書史研究 : 墨ぬり・暫定・国定・検定. 風間書房, 2001.
- キーワード
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- 教科書--日本---歴史
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000296888