レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2020年03月17日
- 登録日時
- 2020/03/17 15:21
- 更新日時
- 2020/05/12 11:31
- 提供館
- 福井県文書館 (9000002)
- 管理番号
- 2019-019
- 質問
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解決
1918年のインフルエンザ・パンデミック(スペイン風邪)の福井県下でのようすがわかる資料を知りたい。
- 回答
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(1)全国および各都道府県の感染者数・死亡者数などについては、内務省衛生局『流行性感冒』1922年(東洋文庫778 2008年)からわかる。
・全国的には、1918年(大正7)秋から21年春にかけて流行し、患者数計約2380万人・死亡者約38万9000人に及んだとされる(p.104、東洋文庫版。1920年国勢調査内地人口55,963千人)。
・福井県は、1918年8月下旬からはじまる「第一回流行」において、神奈川、静岡、富山、茨城、福島と並んでもっとも早く発生をみたとされる。
「第一回流行」 1918.8-19.7 患者237,510人 死亡者4,077人 (統計は、第八章)
「第二回流行」 1919.9-20.7 15,053 1,026
「第三回流行」 1920.8-21.7 1,101 9
計 253,664 5,112(1920年の福井県人口(国勢調査)は、599,155人)
1918・19年の流行時に県下の休校数は、110校・罹患児童数10,814人・罹患率27.9%(p.227、東洋文庫版)。
(2)県内自治体史でこのインフルエンザの具体的な被害について触れているものは、ほとんど見当たらないが、『大野市史』通史編下では小見出し「インフルエンザの大流行」(第2章 資本主義の発展と近代大野 第3節 商工業の成長と展開)を設けて、大野郡大野町の機業場の感染被害のようすを紹介している。この機業場は職工70名で、10月末に1名の女工の感染した後11月4日までの短期間に多くの罹患者(41名)がでた。
(3)福井県下の状況については、新聞記事である程度わかる。
・福井県文書館の目録データベース「デジタルアーカイブ福井」の詳細検索、新聞(https://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/archive/da/search?ctlg=030)では、新聞記事を選択して「インフルエンザ」をキーワードに検索。
その概要は、以下のとおり(日付のみの部分は、すべて『大阪朝日新聞』北陸版)。
・1918年6・7月から歩兵第19連隊(敦賀)や歩兵第36連隊(鯖江)で感冒が流行し、これに関連する可能性がある脳脊髄膜炎の流行が見られた(7月19日、12月2・5・7・8日)。
こうした軍隊での流行は、最初の「第一回流行」を1918年8月下旬から(p.104)としている内務省衛生局『流行性感冒』より早い時期のもので、速水融が「春の先触れ」として「軍隊での罹患者の拡大」を指摘しているものである(速水、2006)。速水は、第12師団(久留米)とともに第9師団(金沢)で670名(師団員の1割)が罹患した6月中旬の記事を紹介している(『福岡日日新聞』6月19日)。
この後7月下旬になって、第9師団下の歩兵36連隊(鯖江)では罹患者数は480余名に及び、最も多かった第7・8中隊では外出が禁止された(神奈川県警察部衛生課『大正七、八年大正八、九年流行性感冒流行誌』1920年)。さらに第9師団の罹患者は、8月上旬までに急激に増えて、10倍の6,590名となり、鯖江歩兵36連隊でも1367名に上った(8月8日)。
敦賀歩兵19連隊では、同時期の脳脊髄膜炎の流行が県内地域からも注目され、これに応えて連隊長がその症状や予防策を連載していた(12月7・8日)。ただこの敦賀連隊における脳炎は、すでに1918年3月の陸軍記念日あたりから流行が見られ、初夏より以前の流行はインフルエンザウィルスによるものではないと推測される(1919年2月21日)。軍隊での流行は、情報統制がかけられているせいか、大分終息してから記事になることが多い。
・北陸地域ではこのインフルエンザを、第一次世界大戦時の大戦景気になぞらえて、「成金風」と称していた(8月27日・9月25日・10月17日・27日)。これはおおよそ10月下旬頃までで、これ以降「流行感冒」「悪性感冒」という表現が用いられている。
・10月下旬から11月にかけて都市部での学校や工場の休校・休業が相次ぎ、死亡者が増加し、郡部に拡大していった。
・面谷鉱山(大野郡上穴馬村面谷)では、総人員908名中、899名が罹患しうち86名が死亡する大流行が見られた(11月20日・12月3日)。
以上の新聞記事検索は、今回のレファレンスに際して『大阪朝日新聞』北陸版の1918年4月から12月までのみを検索・追加したものであり、この前後については、あらためて検索する必要がある。
- 回答プロセス
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・内務省衛生局『流行性感冒』を国立保健医療科学院サイトおよび東洋文庫版(イギリス・北米の流行状況を扱った第七章は省かれている)で閲覧。
その際、「インフルエンザ流行の歴史と公衆衛生の役割 ―“スペインかぜ”と現代― /逢見 憲一 (国立保健医療科学院生涯健康研究部)」医学史と社会の対話サイト(https://igakushitosyakai.jp/article/post-537/)を参照し、国立保健医療科学院の貴重書として『流行性感冒』が公開されていることを知った。
国立保健医療科学院サイトにおける内務省衛生局『流行性感冒』、神奈川県警察部衛生課『大正七、八年大正八、九年流行性感冒流行誌』のURLは以下のとおり(pdfで閲覧可)。
https://www.niph.go.jp/toshokan/koten/Statistics/10008882.html
https://www.niph.go.jp/toshokan/koten/Statistics/00018470.html
・県下自治体史を概観。福井県立図書館司書・文書館職員のアドバイスを受けた。
・『流行性感冒』、速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ : 人類とウイルスの第一次世界戦争』の記述を参考に、当館が所蔵する大阪朝日新聞北陸版(マイクロフィルムから作成した複製本)の1918年4月から12月までを検索、新聞記事データベースに追加した。
- 事前調査事項
- NDC
- 参考資料
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内務省衛生局編 , 内務省衛生局. 流行性感冒 : 「スペイン風邪」大流行の記録. 平凡社, 2008. (東洋文庫, 778)
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000096-I004828472-00 , ISBN 9784582807783 -
大野市 編 , 大野市. 大野市史 第14巻 (通史編 下 (近代・現代)). 大野市, 2013.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I024474985-00 -
速水融 著 , 速水, 融, 1929-2019. 日本を襲ったスペイン・インフルエンザ : 人類とウイルスの第一次世界戦争. 藤原書店, 2006.
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008110497-00 , ISBN 4894345021 - 神奈川県警察部衛生課『大正七、八年大正八、九年流行性感冒流行誌』1920年
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内務省衛生局編 , 内務省衛生局. 流行性感冒 : 「スペイン風邪」大流行の記録. 平凡社, 2008. (東洋文庫, 778)
- キーワード
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- インフルエンザ
- スペイン風邪
- パンデミック
- 福井県
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 郷土
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000275954