①都立七生養護学校(現・七生特別支援学校)は,小学部,中学部,高等学部からなる、知的障害のある子どもを対象とした施設であり,2003年当時在籍児童・生徒数約160人、教員約80人の学校だった。同校では「こころとからだの学習」と呼ばれた性教育を学校の特色のひとつと位置づけて,公表もしていた。保護者や地域の方たちにも積極的に授業公開しながら意見を出し合っていた。東京都の研修会などでも積極的に発表もしており,事件が起きる前年度まで,知的障害養護学校校長会・教頭会主催,都教育委員会後援会の研修にも講師として依頼され報告し,高い評価を得ていた。
2003年7月2日の定例都議会一般質問において土屋敬之都議が,「最近の性教育は,口に出す,文字に書くことがはばかられるほど,内容が先鋭化している」と述べ,七生養護学校での性教育について非難した。この発言に対し石原都知事は,「挙げられた事例どれを見ても,あきれ果てるような事態が堆積しているわけでありまして・・・。」と語り,当時の横山東京都教育長は,今後このような教材が使われることのないよう,各学校,区市町村教育委員会を強く指導するとし,週案提出を通じてこうした不適切な教育が行われないよう,校長の権限と責任で教育課程の実施状況を把握させると答弁した。
7月4日,土屋議員を含む3名の都議,日野市議1名,杉並区議1名,東京都教育委員会職員7名,産経新聞記者1名が学校を訪れ,校長,教頭2名と面談ののち,全員で性教育の教材が保管されていた保健室に入室。教材や教育内容について非難しながら,指導用の教材を並べて携帯電話で写真や動画を撮影した。翌日の産経新聞朝刊には「過激性教育を都議が視察」との見出しで,都議の非難を一方的に紹介した記事とともに,性器のついた性教育用の人形の下半身をむき出しにした写真が掲載された。
7月9日,都教委が37名の指導主事を同校に派遣し,校長が職務命令を発して教師全員から事情聴取を行った。その後,ビデオ,人形教材145点を都教委に提出させた。
9月4日,都教委の指導により性教育全体計画が見直され,七生の保護者に説明された。
9月11日,報告書に基づく大量の教員処分が行われ,教育委員会の職員,校長も含めた都立盲学校・養護学校合わせて,学校管理職37名,教員等65名,教育庁関係者14名が処分を受けた。七生養護学校の金崎前校長(当時・板橋養護学校長)については停職一か月,教諭への降任処分が言い渡された。
11月14日,七生養護学校内で「今後の性教育の指導について」と題する文書が作成され,指導時間の短縮,性器に関する言葉,教材の使用が禁止された。
教師たちは2004年1月,東京弁護士会に,山田洋次,小山内美江子氏ら8,125人が申立て人として人権救済の申立をし,2005年1月には教材の返還,厳重注意処分の撤回,不当介入の禁止など,都教委に対して,弁護士会での人権救済の中で一番重い「警告」の措置が出された。しかし都議も都教委もこの調査を無視し,警告に対して耳を貸さずに,再検討もしなかった。
そのため,2005年5月,保護者2人を含む31名が原告となり裁判を起こした。
2009年3月12日,東京地方裁判所で判決が言い渡された。以下は骨子。
○七生養護学校視察に際しての三人の都議らによる養護教諭への非難など行動は政治的介入であり,「不当な支配」にあたる
○都教委は都議らの「不当な支配」から教員を保護する義務があるのに放置したことは,保護義務違反にあたる
○「こころとからだの学習」が学習指導要領・発達段階を無視したとして,都教委が教員を厳重注意したことは,児童生徒や保護者からの事情聴取もなく専門家の見解も検討せず,裁量権の濫用にあたり,原告のうち12人に対する計210万円の損害賠償を命じる
②,③,④についてもほぼ同様の記述がある