レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2006年04月18日
- 登録日時
- 2006/06/03 12:29
- 更新日時
- 2011/02/18 10:42
- 提供館
- 岐阜県図書館 (2110001)
- 管理番号
- 岐県図-0717
- 質問
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解決
「茗荷を食べると物忘れがひどくなる」という話の由来が知りたい。
- 回答
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高神覚昇『般若心経講義』(角川文庫,1952)やウェブサイトなどでは、
仏陀の弟子(十六羅漢のひとり)、周利槃特(しゅりはんどく チューラパンタカ,チュッラパンタカ)は非常に物覚えが悪く、自分の名前さえ忘れることがあったため、自分の名前を書いて首にかけていた。彼の死後、その墓場に草が生えたため、これを名荷と名付けたのが茗荷の由来である。転じて茗荷を食べると物覚えが悪くなるとされた。
との説話が紹介されている。ただし、元出典について触れられたものを見つけられず、初出を特定することはできなかった。ただし江戸時代前期の『醒睡笑』(自序によれば元和9年(1623年)に成立)には、この話がすでに紹介されている。
なお、周利槃特の説話が由来であることを誤りであるとする説もある。
また、室町時代の『庭訓往来註』には、周利槃特ではなく求名菩薩(ぐみょうぼさつ:ヤシャス=カーマ、弥勒菩薩(アジタ、マイトレーヤ)の前世の姿、文殊菩薩の弟子) の話として、同様の説話がある。
同じ話で「法華経直談抄」を出典とするものもある。
黒塚信一郎『茶柱が立つと縁起がいい 語り継ぎたい「日本の言い伝え」』(原書房,2005 一般:387.9 /ク)でも同様の説明がされていた(p.224-229)。
上とは別の説として、蘇東坡の「庚辰三月十一日 薑粥を食らふ 甚だ美し、歎じて曰く、吾が愚かなるをあやしむことなかれ 吾薑を食らふこと多し云々」とある薑(=生姜)を茗荷と誤ったのだとするものもある。
- 回答プロセス
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1 複数のウェブサイトで、上記の周利槃特を由来とする説が紹介されている。
冊子資料では、高神覚昇『般若心経講義』(角川文庫,1952)p.113にこの説話が紹介されている。ただし、元出典については触れられておらず、初出を特定することはできなかった。
2 日外アソシエーツが主催する「レファレンスクラブ」(http://www.reference-net.jp/index.html 2006年5月確認)の掲示板過去ログ(記事番号19,20,22)に、同様のレファレンス事例が掲載されており、参照資料として物集高見『広文庫』が挙げられていた。
物集高見『広文庫』の「めうが」の項(第19冊)では、佐々木貞高(為永春水)の随筆『閑窓瑣談』の記述を紹介している。そこでも上の説は紹介しているが、何者かがみだりに作り出したものだと否定している。(『日本随筆大成 新装版 第1期12』(吉川弘文館,1993 7書庫:914.5/ニ)p.153)
3 上とは別の説として、『故事俗信ことわざ大辞典』では喜多村信節の随筆『瓦礫雑考』(文政元年(1818)刊行)の記述を紹介。こちらでは「東坡志林」に「庚辰三月十一日 薑粥を食らふ 甚だ美し、歎じて曰く、吾が愚かなるをあやしむことなかれ 吾薑を食らふこと多し云々」とある薑(=生姜)を茗荷と誤ったのだとしている。(『日本随筆大成 新装版 第1期2』(吉川弘文館,1993 7書庫:914.5/ニ)p.135)
4 レファレンス協同データベース公開後、近畿大学図書館より、『醒睡笑』(自序によれば元和9年(1623年)に成立)に、2箇所の記載があるとの情報を頂く。
「ふるまひの菜に、茗荷のさしみありしを、人ありて小児にむかひ、「これをば、古へより今に到り、物読みおぼえむ事をたしなむほどの人は、みな鈍根草となづけ、物忘れするとてくはぬ」…」 (岩波文庫版,下p.8)とあり、注として『運歩色葉集』、狂言『鈍根草』、『世説故事苑』に関する記載がある。
もう一箇所では、「あるとき児、茗荷のあへ物をひたもの食せらるる。中将見て、「それは周梨盤特が塚より生じて鈍根草といへば、学問など心掛くる人の、くふべき事にてはなし」といましめける・・・」 (岩波文庫版,下p.33)とある。ただし、東洋文庫版の『醒睡笑』には、この周梨盤特の話は収録していない。
5 『世説故事苑』『運歩色葉集』などの資料名をキーワードに再度インターネット等を調査。駒澤大学・短期大学国文科情報源語学研究室のホームページにある「ことばの溜め池」2000年11月4日(http://user.komazawa.com/hagi/ko_tame38.html 2006年6月確認)で、室町時代の資料『運歩色葉集』や『庭訓往来註』等を用いた調査が記載されている。これによると、由来の元は周梨盤特ではなく求名菩薩となっている。
近畿大学図書館より『往来物大系』第7巻・古往来(大空社,1992)に収録されている『庭訓往来註』には求名菩薩の話として茗荷の説話が収録されているとの情報提供をいただいた。
6 香川県立図書館より、 黒塚信一郎『茶柱が立つと縁起がいい 語り継ぎたい「日本の言い伝え」』(原書房,2005 一般:387.9 /ク)でも同様の説明がされていたとの情報をいただいた。(p.224-229「ミョウガを食べると物忘れをする」)。[2008.10]
7 香川県立図書館より、北嶋廣敏『「緑」の雑学事典 野菜・果物・草花・樹木304』(グラフ社,2009)にも関連記載があるとの情報をいただいた(p.48 、「ミョウガを食べると物忘れする?」)。 [2009.02]
8 香川県立図書館より、坪内忠太編著『子供にウケル謎解き雑学』(新講社,2004) にも関連記載があるとの情報をいただいた。 … p.193「ミョウガを食べると物忘れがひどくなる、は本当か」 「法華経直談抄」が出典のように紹介されている。 [2011.02]
- 事前調査事項
- NDC
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- 民間信仰.迷信[俗信] (387 9版)
- 参考資料
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- 物集高見『広文庫』(名著普及会,1976 大正5年刊の復刻 参考:031/モ)
- 『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館,1982 一般:388.8/コ)
- 『醒睡笑』下(岩波文庫,1986 文庫書庫:913.7/ア)
- 『往来物大系』第7巻・古往来(大空社,1992 7書庫,375.9/オ) (「庭訓往来註」を収録)
- キーワード
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- みょうが ミョウガ
- 迷信
- 照会先
- 寄与者
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- 近畿大学図書館
- 備考
- 「レファレンスクラブ」掲示板では、上記以外の参照資料として『世界古典文学全集 第6巻・仏典』、『仏教哲学大辞典』 第3版が挙げられていたが、現物を確認したところ茗荷についての説話は掲載されてなかった。
- 調査種別
- 事実調査
- 内容種別
- 言葉
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000028788