調べ方マニュアル詳細
- 調べ方作成日
- 2007年02月20日
- 登録日時
- 2007/02/20 10:50
- 更新日時
- 2019/12/18 09:44
- 管理番号
- 国士HS001
- 調査テーマ
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完成
日本海軍の軍艦について調べる。
- 調べ方
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1.はじめに注意すること。
(1)日本の近代海軍の起点は見解によって相違がありますが、陸海軍が分離された1870年(明治3)とすると、太平洋戦争敗戦による解体までの1945年(昭和20)まで75年余期間があります。この間、同名の艦艇が何隻も存在し、調べ方によってはまったく違った結果が出てしまいます。
たとえば「大和」とといえば太平洋戦争時の有名な「戦艦大和」ですが、明治時代にも同名の艦がありました。同艦(1,480t)は竣工後、巡洋艦・海防艦・測量艦と艦種が変遷し、最終的には戦いで沈むことなく除籍されています。
(2)現在出版されている写真集など多くの書籍は太平洋戦争期を中心とした昭和期、海軍に在籍した艦艇のみを扱っています。またほとんどが艦種別、あるいは個別の艦艇についてのものがほとんどです。したがってこれらのものほとんどは、明治大正期の艦艇が掲載されていませんので注意を要します。
ただ大正末期に建造された艦艇の多くはそのまま主戦力として、太平洋戦争に突入していますのでこのような資料であたることができます。
しかし明治期、大正初期に建造された艦艇のほとんどは、太平洋戦争までに除籍されましたのでほぼ扱われていません。一部在籍した艦艇もありますが、その全てが主戦力としてではなく、補助艦艇に艦種が変更されました。そのため扱っている出版物が少なく、予め当時の艦種の特定などをしておく必要があります。。
(3)戦時には多くの民間船が徴用され、陸海軍籍に編入されています。これらは民間時の船名のまま徴用されますので、正規の軍艦と類似の船名が多く存在します。ほとんどの船が「○○丸」となっていますので簡単に区別はつきますが、混同されていることもありますのでこれも注意が必要です。
たとえば太平洋戦争時「金剛」→戦艦、「金剛丸」→国際汽船籍・特設巡洋艦の例があります。
2.調査する艦艇を特定する
日本海軍の艦艇について、全期間網羅的に記載された出版物に以下のものがあります。その他全般的に網羅したものは多くありません。
*片桐大自.聯合艦隊軍艦銘銘伝.光人社,2003.
未成・計画艦艇、海上自衛隊護衛艦も掲載されていますので、艦艇の特定に適していると思われます。
ただ写真は少なく、履歴も詳細ではありません。また徴用された民間船の記載はありませんので、これらは別途調べる必要があります。
*日本軍艦史(世界の艦船増刊44集・通巻500集),海人社,1995.
網羅的艦種別の編集。個別の写真が豊富で、主要な徴用船も掲載されています。
ただし艦名索引が付いていませんので予めその時代、艦種等を知っていないと調べにくい資料です。
*写真日本海軍全艦艇史全3巻,ベストセラーズ, 1994.
日本海軍全期間を通じた艦船(一部徴用船舶を含む)の艦種別に編集された写真集です。本編2册には3,000葉以上の写真が掲載されています。また別冊付録・資料篇があり、それは索引によって名前だけで艦船が特定ができる様になっており、略歴、要目等も付されていますので本編なしでも資料として利用できます。
特に明治・大正期の艦艇を調べるにはもっとも適しています。
この資料のみでほとんどのことが、調べられるだけの情報量があります。
*インターネット
個人のサイトですが「近代世界艦船辞典」 (http://hush.gooside.com/Text/Jiten-Sakuin.html)は徴用船も含めた日本海軍全艦船の充実したDBです。画像の有無にはやや偏りがありますが、艦船の特定、略歴の確認に適しています。
3.さらに詳しく調べるための注意点
艦艇を特定できたら、さらに艦種別などの詳しい出版物をあたることもできます。ただこのためには最新の出版物を選ぶ必要があります。写真が新たに確認されたり、新知見が発表されるなど年々内容が変わっているからです。
(1)写真
太平洋戦争中に建造された艦艇で現在に至るまで確認されていないそれが多数あり、未確認なのか未掲載なのか複数の出版物をあたる必要があります。
また同型艦の多い小艦艇は、主なものしか掲載されていないことがほとんどです。この場合はその艦種に絞られた資料を中心に調査する必要があるでしょう。
(2)履歴、行動の詳細
正確なものが必要であれば、1次史料の戦時日誌・戦闘詳報等を確認しなければなりません。しかし戦時日誌・戦闘詳報等は公刊されているものはほとんどありません。太平洋戦争期ものであれば多くの原本が防衛省防衛研究所図書館所蔵になっていますので、そこで確認することができます。
ただ該当艦艇の沈没によって失われいている物も多いのが現状です。
その他の資料としては誤りもあるとされますが「戦史叢書」の海軍関係の巻号で、有る程度の行動がわかる場合があります。
また最終的には乗組員等個人の公刊戦記などに頼るしかないものもあります。
(3)その他
出版物には写真、履歴に出典を明記していないものがあり、特に履歴等について1次史料をあたっていない孫引きのものがありますので注意を要します。そのような1次史料から参照していないもの、あるいは出典の明記のないものは参考程度と考えた方がいいと思われます。
4.主な出版物について
(1)写真や図を調べる時に適した主な出版物。
*呉市海事歴史科学館編.日本海軍艦艇写真集 (呉市海事歴史科学館図録 福井静夫コレクション傑作選)全6巻.ダイヤモンド社,2005.
内訳
日本海軍艦艇写真集潜水艦・潜水母艦 呉市海事歴史科学館図録
日本海軍艦艇写真集・駆逐艦 呉市海事歴史科学館図録
日本海軍艦艇写真集・巡洋艦 呉市海事歴史科学館図録
日本海軍艦艇写真集航空母艦・水上機母艦 呉市海事歴史科学館図録
日本海軍艦艇写真集戦艦・巡洋戦艦 呉市海事歴史科学館図録
戦艦大和・武蔵 呉市海事歴史科学館図録
2007.2現在、最新の総合的な写真集。巻によって表題以外の小艦艇、特務艦等も掲載。昭和期が中心ですが、一部は明治大正期のものも充実。
*石橋孝夫.日本海軍全艦船1868-1945 第1巻 戦艦・巡洋戦艦.全2巻,並木書房、2007.
*石橋孝夫.日本海軍全艦船1868-1945 第2巻 巡洋艦 スループ・コルベット・水雷砲艦・通報艦.全2巻,並木書房、2018.
イラストのみ写真はありません。一次史料、公式史料を基礎とした、艦形以外の要目、艦歴等が最大限記載され情報量が多く、かつ出典が明記されています。2019年現在は2冊のみ出版、続巻未定。艦種、艦名がわかっていれば非常に有用。
*丸スペシャル日本海軍艦艇シリーズ1~135巻.潮書房,1975-1988.
後半の巻号は戦史、自衛艦、米艦艇の特集になっていますが、前半各巻が太平洋戦争時の日本海軍の艦種別および個別の艦艇特集の形式で編集されています。基本的には写真集なので写真・図が豊富に掲載されています。また建造経緯、変遷、略歴も書かれています。ただしその後の新発見などで、一部データ、知見が古くなっているのが難点です。
*写真日本の軍艦1~14巻.光人社,1989-1990.
上記丸スペシャルの旧海軍艦艇の部分のみをまとめて編集した物。丸スペシャルとまったく同じ内容ですが、こちらは艦種別に再編集されていて使いやすくなっています。
*歴史群像太平洋戦史シリーズ 学習研究社,1996- .
たとえば第11巻「大和型戦艦」のように各巻が主に個別の艦艇の特集になっています。2007.2現在一部駆逐艦、徴用船を除き主要な艦船の特集が出版されています。写真だけではなく図面・イラストも豊富です。また建造された歴史的背景等の解説も詳しく記されていますので、その艦艇の総合情報が得られます。
艦艇の他、航空機、戦車の特集号があります。
*「世界の艦船」誌増刊 海人社
・日本戦艦史(世界の艦船増刊79集・通巻681集)2007.
(日本戦艦史(世界の艦船増刊24集・通巻391集)1988.)
・日本巡洋艦史(世界の艦船増刊101集・通巻754集)2012
(日本巡洋艦史(世界の艦船増刊32集・通巻441集)1991.)
・日本駆逐艦史(世界の艦船増刊107集・通巻772集)2013.
(日本駆逐艦史(世界の艦船増刊34集・通巻453集)1992.)
・日本潜水艦史(世界の艦船増刊114集・通巻791集)2014.
(日本潜水艦史(世界の艦船増刊37集・通巻469集)1993.)
・日本航空母艦史(世界の艦船増刊95集・通巻736集)2011
(日本航空母艦史(世界の艦船増刊40集・481集)1994.)
・日本海軍護衛艦艇史(世界の艦船増刊147集・通巻871集)2017.
(日本海軍護衛艦艇史(世界の艦船増刊45集・通巻507集)1996.)
・日本海軍特務艦船史(世界の艦船増刊154集・通巻890集)2018.
(日本海軍特務艦船史(世界の艦船増刊47集・通巻522集)1997.)
全期間にわたる艦種別の網羅的出版物。ただ艦名索引はなく目次のみなので、調べるにあたり多少艦船に関するの予備知識が必要です。旧版はデータなどやや古くなった部分があり、近年改版が出版されています。
(2)技術や建造経緯などを調べる場合。
*昭和造船史第1巻戦前・戦時編(明治百年史叢書207巻).原書房,1973.
造船史全般の資料ですが、軍艦関係にかなりの頁があてられています。
*日本海軍艦艇図面集(昭和造船史別冊 明治百年史叢書第242巻).原書房,1975.
主要艦艇の一般図面集、昭和期以外の艦艇も掲載されています。
*日本近世造船史明治時代(明治百年史叢書205巻).原書房,1973.
*日本近世造船史大正時代(明治百年史叢書206巻).原書房,1973.
明治期および大正期の造船史の解説書。同じく軍艦に関する項目があります。
*戦史叢書全102巻.朝雲新聞社,1967-1975.
唯一の公刊戦史。海軍関係の中の戦備に関する巻号。第31巻「海軍軍戦備(1)」など。
(3)履歴・行動について調べる場合。
①復刻戦時日誌・戦闘詳報等
1次史料の復刻も出版されています。ただし全てを網羅している物ではありません。また少数ですが個別の艦のものも出版されています。
*連合艦隊海空戦戦闘詳報全20巻.アテネ書房,1996.
個別艦艇
*戦艦三笠すべての動き全4巻.エムティ出版,1995.
*戦艦大和・武蔵戦闘記録.アテネ書房,2000.
など出版社から発売されたもの
*駆逐艦春風.駆逐艦春風会事務局.1981.
上記などの戦友会や乗組員有志が出版したものも多数存在します。このようなものの中には非売品、出版点数が少ないもの、関係者のみ配布のものなど流通に乗っていないものが多くあります。その実態を完全に網羅した目録等は現在の所、存在しないため、注意が必要です。
②公刊戦史・戦記等。
*戦史叢書全102巻.朝雲新聞社,1967-1975.
唯一の公刊戦史。このうちの海軍関係のもの。ただし戦史上重要な作戦経過の詳述が中心のため、個々の艦艇の行動情報は多くありません。
第46巻「南東方面海軍作戦(1)」など。
*太平洋戦争図書目録45/94.日外アソシエーツ,1995.
*太平洋戦争図書目録1995-2004.日外アソシエーツ,2005.
*太平洋戦争図書目録2005-2015.日外アソシエーツ,2016.
上記の目録は自費出版物も掲載されている。戦記は部隊や艦艇に属していた人たちによるものが多数ありますが、前述の通り、自費出版物は流通していませんので注意を要します。
また光人社NF文庫のように戦記・ミリタリー物専門の文庫があり、毎年かなりの数の個人による戦記が出版されています。上記の図書目録だけではなく大手書店HPなどで軍事関係の新刊を確認することも重要です。
*大東亜戦争書誌全3巻.日外アソシエーツ,1981
*太平洋戦争文献目録.歴研,2000.
単行書、「丸」「歴史群像」等の戦史・戦記関係の雑誌以外の一般誌にも、多くの戦記が発表されています。
旧海軍の規程
「軍艦」とは一般的には海軍に属し、軍人が指揮する艦船の事です。
ただし日本海軍においては、海軍に籍がある艦船を全て軍艦とは呼称しませんでした。時代により変遷が有りますが、法規によって「軍艦」を戦艦、巡洋艦など個別に規程し、それ以外はその他の「艦艇」および「特務艦艇」に大別しています。一般的には軍艦と思われている「駆逐艦」「潜水艦」は正式には「軍艦」ではなく、その他の「艦艇」に属していました。
しかし出版物のほとんどはこの規程をとらず、海軍に籍のあった艦船を「軍艦」として扱っていますので、惑わされず調査するれば問題はないと思います。
- NDC
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- 各種の船舶.艦艇 (556 9版)
- 参考資料
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- 石橋孝夫.日本海軍全艦船1868-1945 第1巻 戦艦・巡洋戦艦.全2巻,並木書房、2007. , ISBN 9784890632237
- 石橋孝夫.日本海軍全艦船1868-1945 第2巻 巡洋艦 スループ・コルベット・水雷砲艦・通報艦.全2巻,並木書房、2018. , ISBN 9784890633807
- 福井静夫.写真日本海軍全艦艇史.全3巻,ベストセラーズ,1994. , ISBN 9784584170540 (絶版)
- キーワード
-
- 軍艦-歴史
- 海軍-日本
- 船舶
- 備考
- 登録番号
- 2000001890