レファレンス事例詳細
- 事例作成日
- 2023年12月1日
- 登録日時
- 2024/01/21 11:30
- 更新日時
- 2024/02/15 15:06
- 管理番号
- 名古屋市鶴-2023-010
- 質問
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解決
「霊柩車を見たら親指を隠す」という迷信の由来は何か。
- 回答
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下記の本などに記載がありました。霊柩車(葬列)以外に対しても、親指を隠すしぐさの伝承が全国にあるようでした。
『親指と霊柩車 まじないの民俗』p.61~92
『民俗学がわかる事典』p.50-51
『こんなに面白い民俗学』p.50-51
『しぐさの民俗学 呪術的世界と心性』p.53-83
『葬送のお仕事』p.36-40
『民俗学への招待』p.171-172
また江戸期に書かれた『松野筆記 第1』p.11には、「親指の爪のあいだから魂魄が出入りすると言われているので、畏怖すべきことがあれば親指を握り隠す」という内容が書かれていたことがわかりました。
- 回答プロセス
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(1)名古屋市図書館OPACで「霊柩車」「親指」で検索すると①の資料がヒットしました。
①『親指と霊柩車 まじないの民俗』常光徹/著 歴史民俗博物館振興会 2000
p.64「霊柩車、葬式、墓などを対象にして行われるのは、死霊の影響(ケガレ)を避けようとする心意に発している」
p.65「「霊柩車」に出合ったら」という言い方は、「葬列(葬式)」に出合ったら」というのと同じである。」
p.71 親指を隠すしぐさについて全国の伝承があげられています。疫病、夜道、狐、猛犬、カラス等、何かしらの恐怖を感じる場面に遭遇したり、不安な状況にあるときに、災禍を未然に防ぐ狙いがこめられているとしています。
p.77「災厄を防ぐためにわざわざ親指を隠すというのは、見方を変えれば、身体のうちでもとりわけ親指は邪悪なモノにつけ込まれやすい箇所であることを暗示している。」
p.84 江戸期の小山田与清の『松屋筆記』(下記資料②)に、左右の親指の爪のあいだから魂魄が出入りすると言われているので、畏怖すべきことがあれば親指を握り隠すと書かれた記事があると載っています。
②『松屋筆記 第1』([小山田与清/著] 国書刊行会 1908)を確認しました。
p.11「松屋筆記 巻二 廿五」に該当の箇所がありました。
国立国会図書館デジタルコレクションの『松屋筆記 第1』(永久的識別子:info:ndljp/pid/1087778、コマ番号30)から見られます。
(https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/1087778/1/30)
(2)民俗関係や葬送・葬儀についての資料を確認しました。
③『民俗学への招待』宮田登/著 筑摩書房 1996
p.172「親指を隠し、手を握りしめるというのは、不吉、凶といった不幸や災難に対抗する一つの呪的手段なのである。死の儀礼は何といっても避けたい気持ちがあるから、不安を何とか押さえこもうとする。」などと書かれています。
以下の3冊には、上記で紹介した本と似たような内容が書かれていました。
・『民俗学がわかる事典』 p.50-51 霊柩車を見たらなぜ、親指を隠せというのか
・『こんなに面白い民俗学』 p.50-51「霊柩車を見たら親指を隠せ」
・『しぐさの民俗学 呪術的世界と心性』 p.53-83「指を「隠す」しぐさと「弾く」しぐさ」
④『知れば恐ろしい日本人の風習』千葉公慈/著 河出書房新社 2016
p.38 爪に限らず、尖ったものやものの先端部分に霊魂が宿るとする考え方は世界共通とした上で、「霊柩車を見たら親指を隠す」のもこれに関係していると書かれています。
⑤『葬送のお仕事』井上理津子/著 解放出版社 2023
p.36 親指=親と見立てて、親が早死にする/親の死に目に会えない/親に何か不吉なことが起きる/縁起が悪い などの理由が日本各地で伝わっていることが書かれています。霊柩車が登場する大正時代より前から「葬列に出会ったら、親指をかくせ」と言われていたことや、②の資料についても書かれています。
(3)国立国会図書館サーチ(https://ndlsearch.ndl.go.jp/)で「霊柩車 親指」で検索して、次の資料が見つかりました。
⑥『そこが知りたい迷信の謎 : 「霊柩車に会ったら親指を隠せ」の根拠とは?』中野宏とオフィスA to Z 著 雄鶏社 1994
(4)CiNii Research(https://cir.nii.ac.jp/)で「親指 隠す」で検索すると下記2つの論文がヒットしました。
⑦「葬式に親指を隠す風習の起源」高山純 帝塚山論集 帝塚山大学教養学部 [編] (77) p14-17, 1992-07
⑧「<研究>葬式に親指を隠す風習の起源についての補遺」高山純 帝塚山論集(79)p1-5, 1993-07
⑥~⑦は当館所蔵なしのため中は確認できませんでした。
その他調査した資料
『祭りと信仰 民俗学への招待』桜井徳太郎/[著] 講談社 1987
『怪異の民俗学 1憑きもの』小松和彦/責任編集 新装復刻版 河出書房新社 2022
『日本民俗文化資料集成』谷川健一/責任編集 三一書房
『霊柩車の誕生』井上章一/著 朝日新聞社 1984
『葬送習俗事典』柳田国男/著 河出書房新社 2014
『日本の葬送儀礼 起源と民俗』岸田緑渓/著 湘南社 2012
『日本葬制史』勝田至/編 吉川弘文館 2012
『ケガレの民俗誌』宮田登/著 人文書院 1996
『土葬の村』高橋繁行/著 講談社 2021
※インターネットサイトの最終確認日は全て2024年1月25日です。
- 事前調査事項
- NDC
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- 風俗習慣.民俗学.民族学 (380 9版)
- 民間信仰.迷信[俗信] (387 9版)
- 参考資料
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- 常光徹 著. 親指と霊柩車 : まじないの民俗. 歴史民俗博物館振興会, 2000. (歴博ブックレット ; 14) , ISBN 4-916202-39-2
- 小山田与清 著. 松屋筆記 第1. 国書刊行会, 1908.
- 宮田登/著. 民俗学への招待. 筑摩書房, 1996.
- 新谷尚紀/編著. 民俗学がわかる事典. 日本実業出版社, 1999.
- 八木透/編著. こんなに面白い民俗学. ナツメ社, 2004.
- 常光徹/著. しぐさの民俗学 呪術的世界と心性. ミネルヴァ書房, 2006.
- 千葉公慈/著. 知れば恐ろしい日本人の風習. 河出書房新社, 2016.
- 井上理津子/著. 葬送のお仕事. 解放出版社, 2023. (シリーズお仕事探検隊)
- キーワード
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- 霊柩車
- 親指
- 迷信
- 照会先
- 寄与者
- 備考
- 調査種別
- 文献紹介
- 内容種別
- 質問者区分
- 社会人
- 登録番号
- 1000345221